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243話:1か月後へ向けて・その2

 天使アルコル、死神アルカイド。複合魔法について聞くうえで、ヒントをもらえそうなのはこの2人でしょう。まあ、アルコルのほうは、複合魔法は人類に早すぎると、教えてくれないでしょうけれど。


 まあ、それでもアリスちゃんと話すついでに探りを入れてもいいでしょうという気分で、魔法学園までやってきた。


「というわけで、アリスさんとお茶を飲みに来たわけですが……」


 そう、ここにいるのはアリスちゃんだけではない。これがパンジーちゃんやシュシャならば快く一緒にお茶を飲んでいただろうが……。


「なぜ殿下が?」


「ここはオレの通う学園だ。おかしい部分は何もないだろう?」


 いやそれはそうなんだけれど。そういうことではなく、わたしとアリスちゃんのプライベートにずけずけと踏み込んでいるのかということ。まあ、アリスちゃんは王子の管轄と言われたらそうなんだけど。


「それで、カメリア様、お話と言うのは?」


「いえ、軽い世間話程度のつもりだったのですが、殿下が居られるとなると、そうもいきませんからね」


「別に普段通り話せばいいだけだろう」


 なんて王子は言うけれど、女子の世間話を男性に聞かせるのはあまり褒められたものではないし、特に身分の高い方には。


「まあ少しばかり普段とは異なるお話をいたしましょうか」


 普段の話が低俗とかそういうわけではないのだけどね。さすがに女子高生のファミレス会話や乙女ゲーの同好の士たちとの会合ほど酷い話はしていない。もっとも、そこまでお上品な話というわけでもないのだけど。

 前世庶民のわたしに、田舎の貴族のパンジーちゃん、田舎の一般人やっていたシュシャと、田舎の農家出身のアリスちゃん。このメンツで、お上品極まりない話をしていたら逆にびっくりだ。


「普段とは異なる……ですか?」


「ええ、少しばかりまじめなお話ですが……」


 普段がまじめじゃないというわけではないけれど、お茶の席できゃっきゃうふふのものではなく、もう少しお堅めの教室でするような話に切り替えよう。


「アリスさんは魔法をどのくらい使いましたか?」


 わたしの質問に、アリスちゃんは微妙な顔をした。あまり使っていないのだろう。まあ、使っていない前提で聞いたというか、わたしに強い効果がかかる魔法ということなのに、肝心のわたしがあちこちにいて、そういう機会も少なかったのだから当たり前なのだけれど。


「あまり……、その……」


「ああ、別に使っていなくていいのですよ」


 正直な話、魔法はある程度使えれば問題ない。ここは王立魔法学園ではあるものの、王子を始め、魔法よりも優先するものがあるという人は多いのだから。


「制御さえできるくらいに慣れておけば、過度に使う必要はありませんよ」


 まあ、わたしはシャムロックイベントでの花の水やりのように、比較的安易というか過度に魔法を使っているけれど。複合魔法の研究から魔法の練習を含めて、……使いすぎていると言っていいくらいに使っているかもしれない。


「まあ、アリスの場合は、その制御すらおぼつかない場合があるから心配ではあるのだが……」


 王子の言い分も分かる。わたしたちは、7歳の魔法の確かめから家庭教師なりなんなりで、徐々に把握し、魔法学園で形にするわけだけれど、アリスちゃんの場合は、前段階なしなうえに、発現からもそう経っていない。

 まあ、王子がこう言えるということは、ある程度は魔法の練習にも付き合っているのだろうから、おそらく大丈夫だと思うのだけれどね。


「出来れば制御はどうにかしていただけるとありがたいのですけれどね」


 これから1か月後に待ち受けている一大事に向けて、アリスちゃんの力は必要になると考えている。そんなときに、制御がおぼつかないなんてことになると困るので、できればアリスちゃんには、それまでに魔法を最適に使えるようにチューンナップしてほしい。


「ありがたいということは、アリスの手を借りる事態が近いうちにあると思っていいのか?」


 おそらく、王子の頭の中では、こないだの話……、ここしばらくの件がつながっていることやもしかしたら自分が事情を聞けるかもしれないということがよぎっていることだろう。


「どうでしょうね、わたくしとしては、手を借りずに済むのならそれでいいとは思っていますが」


 つまり、借りるかもしれない事態があるとは明言したようなものだ。アリスちゃんの手を借りる、それも魔法をというのは、すなわち、かなり危険な状況である可能性が高いというのは察することが容易だろう。


「わ、わたしはカメリア様のお力になれるのでしたら喜んで協力します」


 ふんすと両手を胸の前で握りしめて、気合を入れるアリスちゃんに「ありがとうございます」と言いながら微笑む。


「しかし、そうなるとお前が魔法の練習を手伝うのが一番早いのではないか?」


 そう、確かに、アリスちゃんの魔法練習をするうえで、最も効率よいのはわたしが手伝うことである。幸いにも書類仕事ばかりで、多少の余裕があるのだから、そのくらいはするべきだろう。

 それに、アリスちゃんに魔法を教えるという口実で会えば、アルコルも多少なりも魔法の知識で口を滑らせてくれるかもしれない。アルコルに会う機会が増えればそれだけそのチャンスも増えるということでもある。


「では、定期的に魔法の練習をしましょうか。……殿下もいらっしゃいますか?」


 あまり来てほしくはないし、来る余裕なんてないはずだけれど、一応社交辞令として、この場にいるのに聞かないのもどうかと思うから、そう問いかけておく。


「多忙なのでな、そんなに余裕はないが、時間があったら見に行こう」


 見に来なくて結構ですなんて言えるわけもないので、「ではお待ちしております」なんて返したものの、王子の参加しづらい時間帯で練習するかと考える。




 そんなこんなで、アリスちゃんと王子が少しばかり魔法の制御について話し始めたのを見計らって、わたしは天使アルコルに話しかける。


「何かたくらみでもあるのですか」


 一言目がそれか。まあ、そう思われてもおかしいくはないのだけれど。


「企んでいるといえばそうなりますが、……ミザール様のお導きもありましたので」


 そう今回に関しては、アルコルにどうこう言われる筋合いがないというか、太陽神ミザール様が関わっているのだから、アルコルもそれに従うほかないというか。


「……ウソ、ではありませんね」


 わたしとミザール様とのパスを見たうえで、そう判断したのだろう。見て何か分かるのかは分からないけれど、いや、ウソだったらミザール様が反論するだろうということかもしれないけれど。


「つまり、光の力を制御するというのも……」


「ええ、一か月後に行う、あることに対するものですね」


 アリスちゃんの出番がないに越したことはないのだけれど。アーリア侯爵が何かを起こす前に検挙できればいいのだけれど。


「今から1つの月が変わる頃、何かが起こると?」


「いいえ、起こさせないために色々行っているのです。アリスさんの魔法はその保険とでも言いましょうか。起きてしまったときのためのものではありますが……」


「あなたが光の力を必要とする……、それはすなわち、転換のときではないのですか」


 世界の転換期。光の魔法使いと闇の魔法使いが起こす大きな変化。


「どうでしょうね。わたくしとしては、そうではないと祈りたいものですが」


 旧き神の残滓。それがよみがえるということは、世界中に大きな影響が出るということ。いい方向にせよ、悪い方向にせよ。それ自体はともかくとして、そんな強大な力……、あるいは自然災害そのものであるところのそれをわたしたちがきちんと止められる保証がないということだ。

 もちろん、止めるためにいろいろと対策はしているものの、それが絶対であるとは言えない。だからこそ、そうならないに越したことはないのだ。


「まあ、あなたがどう思うと関係はありませんが、私は起こる前提でいたほうがいいと思いますがね」


「前提ではありませんが、起きても対処することはもちろん考えていますよ」


 どれだけ準備をしても、胸の焦燥は収まらない。わたしも心のどこか、あるいは頭のどこかで、起きてしまうのではないかと考えてしまっている部分があるのかもしれない。

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