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236話:ある人との再会と調査・その4

 関所を越えて、リップスティークで馬を借りて、3人で王都を目指す。

 特に会話もなく、ただただまっすぐに王都へと向かう。道中で馬の休憩に街に寄りつつも、夜通し馬に乗り、王都にたどり着くころには再び日が昇ってから、傾きかけていた。


 リップスティークや道中の街で噂になっていなかったので、おそらく大丈夫だろうと思っていたが、予想通り、まだパイライトによる犯行は行われていないようだ。


「それで、どうしますか?」


 わたしは一度中に入って、ラミー夫人や陛下、あとはクレイモア君あたりに話をとおさないといけない。なので、どうするかと聞いたのは残りの2人は、王都に入るかどうかという意味だ。


「見つかるとややこしいことになるでしょう」


 そう言ったのはクロガネ・スチール。確かに、知り合いにバッタリ再会すればややこしいことになりかねない。ある日忽然と姿を消した人物が突然現れたという意味でもそうだし、現在の事情を知らないうえで、密偵のことを知っている一部のものが発見してしまえば、よりややこしいことになるだろう。


「では、僕も残ります。母によろしくお伝えください」


 少し葛藤したものの、アリュエット君は残るほうを選んだようだ。まあ、クロガネ・スチールに好き勝手されると困るので、一緒に動いてもらえるのはありがたい。






 そういう事情で、わたしは一人、王都に帰還した。そのまま向かうのはラミー夫人のいるであろうジョーカー公爵家。まあ、ここにいない可能性もあるので、確認してからのほうがよかったのだろうけれど、そのあたりもまどろっこしかった。


「ずいぶんと早かった……、というか、あなただけが帰ってきたということは、何かあったということよね」


 この場合のわたしだけというのは、調整役の帰還よりも先にわたしだけという意味で、わたし単身でとかそういう意味ではないと思う。まあ、アリュエット君が帰ってきていないのもわかってはいるでしょうけれど。


「ええ、おそらく、王都近郊でも爆破事件が起こるかもしれないと警戒して、少々無茶をして帰ってきました」


 闇の魔法使い……、闇の力に呼び起こされしものの力を借りるというのは、結構な無茶であると個人的には思っている。


「爆破事件が起こるということは、騎士を……、ああ、なるほど、表立って動かすと反同盟派に嗅ぎつけられると思ってということね」


 そう言ってから、しばらく考えるようにして、「そうね」とうなずく彼女は、メモ書き程度に筆を走らせた。


「そうなると、なるほど、急いで帰ってきたのは、実行犯が北方をすぐに経ったとして、王都に来るまでの時間を考えて時間がなかったから」


 アリュエット君がルートを割り出せるなら、ラミー夫人も出来て当然であり、さらりとどうしてわたしが急いで帰ってきたのかは見透かされた。


「ええ、そうなります。まあ、実際はもう少し余裕があるとは思いますが、こちらでいろいろと動かすことを考えるなら早いに越したことはないかと」


 馬の休憩、自身の休憩、ちゃんとした道ではないところを夜通し歩く危険性、土地勘のなさ、遅れる理由は山ほど思いつく。


「でしょうね。ただ、検問にひっかかったという報告は上がってきていないから、本当に順当に王都を目指しているのなら、大体の位置は分かるとは思うけれど、……道ではない分、どこにいてもおかしくないのが問題なのよね」


 そう、道を通っているのならばともかく、道なき道を行っている場合は、大まかなルートは割り出せても、実際は広大な土地のおおよそあの辺を通っているであろうということでしかない。だからアリュエット君も概算したときに数日単位でズレる可能性を考慮して何日かを言っていた。


「北方側の全てを警戒するというわけにもいかないでしょうし、実際、そうした場合は大規模で騎士団を動かすことになるし」


 大規模で動かせば、結果として同盟反対派にはバレるということ。


「現状、同盟反対派はどの程度、対応できていますか?」


 出立前に、協議しておくという話はしていたけれど、ぶっちゃけ数日しか経過していないわけで、対応もへったくれもないだろとは思っているのだけれど。


「ほとんど終わっているわ。ただ、今回の件で息を吹き返しかねないとも思う。それこそ、ファルムの人間が、この国で爆破騒ぎなんて起こしたら、『それみたことか』とね」


 もうそこまで手を回していたのか。さすがはラミー夫人だ。いや、陛下の判断力もあるのだろうけど。まあ、アーリア侯爵家の件で手一杯の現状で、アホみたいな貴族に時間を割いていられないというのも関係していそうだが。


「では、どうしたものでしょうかね。クレイモアさんに言って、外での演習という形で騎士団を展開させるのが一番無難だとは思いますが」


「訓練や演習というのは、まあ、言い訳としては可能でしょうけれど、急すぎるというのは否めないわね」


 急な大規模訓練というのは怪しさ満天であるが、まあ、そこに対する言い訳も考えていないわけではない。


「抜き打ちだからこそ意味があるとか、それらしいことを言わせておけばどうにかなりませんかね」


 実際、昨年のリップスティークでのフェロモリーの攻撃、あれで緩んでいた地方の騎士たちに刺激を与える必要性の議題は上がっていた。それをもとに、急な襲撃があったときに備え、対応できるように……、という建前でどうだろう。


「なるほど、まあ、騎士全体に理解させるようにというていで公衆の面前で説明して、貴族たちにもそれで納得させるしかないかしらね」


「まあ、建前さえ整っていれば、難癖をつけられてもどうにでもなりますから」


 そう、あくまで大事なのは建前であって、そこさえ体裁が整えば、なんとでも言い訳はできる。ようするにやってくるファルム王国から爆薬を持ってきて、王都を爆破しようとする犯人を取り押さえるためという名目でなければいいのだ。


「ちょっと無理があるとは思うけれど、そう言うことにして、スパーダ家は……、ああ、そうねファルシオンではなく、もう……」


「ええ、クレイモアさんに話を通すのが筋でしょう」


 スパーダ公爵家は継承ということで、実質的にクレイモア君が中心になっているわけで、そこはファルシオン様ではなくクレイモア君に話を通すのが正しいあり方だと思う。


「それじゃあ、そちらに話を持って行くのはカメリアさんにお願いするわ。こちらは陛下のほうに話を通しておくから」


 まあ、そうなるだろう。この辺りは、話をスムーズに運ぶために、わたしもラミー夫人もお互いに役割分担を自ずと振り分ける部分があるので、自然とそういうことになった。


「さて、じゃあ、ザックリと話し方針はまとまったところで、お互いの準備をしながら、大まかに何があったのかを報告し合いましょう」


 互いに筆を走らせながら、出発してからのことを振り返り、報告し合う。わたしからはスチール宰相に話を持ちかけられたこと、調整の結果、調査の結果、クロガネ・スチールとの協力、スチール宰相と取り交わした約束について。


「なるほど、調整についてはおおよそ予定通りに終わったわけね。スチール宰相の介入は……、まあ、想定外だけれど、とりあえずは躱したから要相談ということで」


 調整に関してはラミー夫人もざっと流して、本題であるほうの話に突入する。


「それで、クロガネ・スチールと協力ね。まあ、今後のことを考えるのなら、けっして悪い話ではないのでしょうけれど。それでもかなり危険な賭けでもあるような気はするわね」


「そうですね。それに死神アルカイドの知識も借りたい部分があるので」


 今回のやり取りは決してマイナスではない、とそんなふうに主張する。ラミー夫人も、その利は分かっているようで、


「それにしても、あなたが『知識を借りたい』ね……」


 からかうように言うラミー夫人に、わたしは肩をすくめる。


「何度も言っていますが、わたくしも知らないことは知りませんから」


「わかってはいるのだけれどね」





 ということで、わたしはクレイモア君を訪ね、騎士団のもとを訪れていた。

 不在か訓練中の可能性もあったので、少し不安だったけれど、運がよかったのか、スムーズに取り次いでもらえた。

 軽い挨拶を交わしてから話に入る。


「それで、いったいどういうご用件でしょうか」


 継承からしばらく経ち、落ち着いてきたのか、それでも忙しそうなクレイモア君だったが、わたしが来たからには、何か余程の要件なのだろうと思ったようだ。まあ、アリスちゃん誘拐事件のときといい、わたしがクレイモア君のもとを訪れるときは、厄介ごとを持ってきているから無理もないが。


「銀嶺山脈での爆破事件については耳にしていると思いますが……」


 爆破事件から数日経過している以上、北方に耳の早いラミー夫人以外でも、そのニュースは耳にしているであろうし、ましてや検問などのこともあって、クレイモア君が認知していないということはないはずだ。


「ええ、その件でしたらすでに検問を配備するなど、一通りのことは」


「それは知っています。ですが、おそらく実行犯は、正規の道を通らず、無理やりに王都を目指していると思われます」


 そこでクレイモア君の意識は完全に、騎士としての仕事のほうに切り替わったのだろう。「詳しい話を聞かせていただけませんか?」といい、わたしの言葉を待っている。そのため、ファルム王国でのできごとを踏まえ、現状、起きているであろうことと、そのために騎士団を演習という形で配備して欲しいというのを伝えた。


「なるほど……。確かに、この時期に王都の外での演習という形は……。いえ、ですが、わかりました。国王陛下にも話は通してあるというのならば、こちらも出来る限り、そのような形で対応します。ただ、いまからの展開となりますと、抜き打ちという形も含めた準備なので、早くて明日の午後になってしまうかもしれません」


 まあ、抜き打ちの訓練なのに、あらかじめて騎士たちが準備を手伝っていたら不自然というか抜き打ちになってないし……。そうなると、中核メンバーだけで準備をして、という流れになるので、時間がかかるのは無理もない。

 それまでは、わたしやラミー夫人のところの人員で、バレない程度に警戒しておくくらいしかできないだろう。


「そこまで慌てなくても構いません。では、よろしくお願いします」


 どのみち、ここから陛下から正式な許諾が出るまで、実行はできないのだし、慌ててどうこうする必要はない。何日間も外で演習できるわけではないし、今日来るとも明日来るともわからない相手というのを考えると、その時々で出来る対応というを考えるべきだと思うし。


 わたしも別の対応も考えておかないとね。

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