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233話:ある人との再会と調査・その1

 鉱山。一口にそう呼んだところで、実態としてはさまざまな種類が存在する。ファルム王国で特に秀でているのは金属鉱山ではあるが、豊富な地下資源によりそれ以外の鉱山も有名であり、石炭鉱山……炭鉱や非金属鉱山などもそれなりにあるのが現状である。


 そして、今回、爆薬が盗まれたのはいわゆる金属鉱山に分類される場所であり、ファルム王国でも有数の鉱山だった。


 そも、魔法の発達したこの世界では、土魔法を使うことで、鉱石の抽出や採掘を簡便化することができている。そのため、場合によっては、爆薬などの使用はほとんどない。

 ただ、魔法を使える貴族もすべての鉱山に配置し、常時稼働できるようにするほど暇ではないし、数も多くない。貴族の次男三男だといっても、そうそう実用レベルで土魔法を使えるものはいない。


 結果的に、爆薬などの使用はせざるを得ないのが現実である。


 問題は、国内有数といわれる鉱山ゆえに、国が貴族を多くあてがうから爆薬の保管量が少ないという可能性もあれば、逆に貴族がいなくても回せるようにしているからこそであり、爆薬の保管量も多いという可能性もある。


 そして、鉱山に残っている資料から常時保管している爆薬量の内、どの程度が鉱山に使用されていて、どのくらい残っていたうえで、どのくらい盗まれたのか。また、盗まれた爆薬の種類や含有割合など。


 このあたりは、渡された資料には含まれていなかった情報。意図的に省いていたのか、それとも必要ないと判断していたのか、ともかく、それらの情報は、現地で聞き出すしかないでしょう。






 鉱山に向かう馬車の中で、再び資料に目を通す。アリュエット君も目を通しているけれど、どことなくよく分からないまま、とりあえず情報を突っ込んでいるだけのようにも見えた。まあ、情報を頭に入れて損はないのだろうけど。


「何か気になる点はありましたか?」


 だから、彼の中の情報を処理する意味でも、アリュエット君に話しかけた。自分がどこを疑問に思っているのか、それにつながる情報は資料にのっていないのか、そうしたことを整理するのには、だれかと話しながらまとめるのがいい。

 わたしもよくラミー夫人相手にそれをやるし、ラミー夫人もわたし相手にそれをやる。


「ええ、そもそもなぜ、鉱山から盗んだのでしょうか」


 確かに、彼のいうことはもっともである。彼が働いていた環境から、どの鉱山に爆薬が運ばれているのか、鉱山内のどこにあるのかが分かるとしても、別に鉱山から盗む必要はない。


「勤めていた商家から盗めばいいのではないでしょうか?」


 そう、解雇が動機にあるわけで、そうした復讐の意味も含めるのなら、商家から直接盗めばいい。鉱山なんていう警備の目もあって、盗み出す難易度の高い……いや、商家にも警備はいるでしょうけれど、……より警備の目が厳しく、難しい鉱山のほうを選ぶ意味がないということだろう。

 そうだとして、それでもあえて鉱山を選んだのは……


「危険を冒してまでそうするだけの理由があるということでしょうね」


 もっとも、その理由を抱えているのがパイライト本人なのか、チャコール家か、その背後にいるものなのかはわからないけれど。


 例えば、パイライトがもともと所属していたナイタ商会と今回出てきたチャコール家という商家。この2つが商売敵だとしたら?


 商会から直接盗むよりも、それらのルートがたどる先から盗めば、商会が卸している先から連鎖的に、そして、より商会に大きくダメージが入るかもしれない。そして、そのルートをチャコール家が乗っ取る……なんてことも考えられるわけだ。


 もちろん、そうとは限らないし、もっと裏にいる存在には、この方が都合よかったのかもしれない。事実を知るには情報不足にもほどがあるし、断定なんてできないけれど。






 鉱山に着くころには夜の足音が聞こえそうな夕刻になっていた。まあ出発が昼下がりなので当然といえば当然なのだけれど。そして、馬車から降りたわたしは、少し久しぶりに会う人物ににこやかに話しかける。


「お久しぶりです、クロガネ先生」


 クロガネ・スチール。確かミザール様はクロガネ・コウと呼んでいたっけか。わたしやアリスちゃんたちの事務講師であり、ファルム王国からのスパイとして潜り込んでいた闇の魔法使い……、闇の力に呼び起こされしもの。


 彼の姿を見たアリュエット君は、驚き、硬直していた。まあ、アリュエット君にとっては、アリスちゃんを狙う敵として対面し、逃げたところで関係が終わっているので、当然の反応といえば当然の反応だろう。


「驚かないのですね」


 少し不満げなニュアンスも混じったクロガネ・スチールの反応。しかし、密偵などの裏方の仕事をしている人間であることはすでに知っているのだし、いてもおかしくないという予想はできる。特に、ディアマンデ王国との関係が新しい方向に動いている以上、潜入などはしばらく控えることを考えると特に。


「驚く暇があるのなら調査をしたほうが有益ですから」


 これは別に驚いているアリュエット君を批難しているわけではなく、純粋に想定内のことに驚いているよりは調査したほうがいいというのと、無駄な問答よりも早く調査させろと言う意思表示を兼ねたものだ。


「確かに。それが非常に合理的だ」


 納得というよりは、会話を打ち切って、事務的なやり取りにもっていきたいというような反応で、……まあ、長年の計画やら何やらを全部潰してきたわたしと積極的に話したがる道理もないが。


「それで、なにが知りたいのでしょうか?」


 調査に同行という形になるものの、彼自身はおそらくほとんど調査を終えているでしょうから、そのように問いかけてきた。


「では、まず爆薬の貯蔵場所を見せていただけませんか。難しいなら推定貯蔵量を教えていただくだけで構いません」


 少し悩んだ様子を見せたものの、隠す意味もないと判断したのか、それとも別の理由か、クロガネ・スチールはわたしたちを貯蔵場所……、保管室とでもいうべき場所に案内された。

 保管室は結構な大きさではあるものの、湿気対策で二重壁になっているためか、広大と言うほどではない。ただ漂う匂いから間違いなく、ここに火薬が保管されていたことがわかる。


「ここでの保管量はどの程度でしょうか」


 基本的に部屋の大きさからの割合で、どのくらいの量が保管されていたのかは推測できる。だから、聞きたいのはそういう部分ではない。


「基本的にはこの資料にある程度の量が保管され、時期にもよりますが一日当たりの消費量から考えて、盗まれた時点での保管量はおそらくこのくらいでしょう」


 爆薬……、中でも火薬の種類などで爆破の規模や威力が変わる。この世界で主流に使われている爆薬の種類を考えると、盗まれた量で起こる爆発の規模は。


「なるほど……、そう考えるとパイライトなる実行犯は、おそらくディアマンデ王国に潜伏中でしょうね」


 わたしの言葉に、クロガネ・スチールもアリュエット君もなぜと言いたげな顔でわたしのほうを見ていた。


「ファルム王国に戻っている可能性は少ないということでしょうか?」


 とアリュエット君が聞いてくる。クロガネ・スチールも特にアリュエット君に口を挟まず、わたしの答えを待っているようだ。


「まず、どうして爆薬をこれほどの量必要だったと思いますか?」


「なぜって……、爆破に使うからではないのですか?」


 まあ、当然といえば当然ではあるのだけれど、それを考えても、少し疑問が残る。


「銀嶺山脈の爆破に対して、ここに保管されていたであろう爆薬の量は過剰すぎます。すべて爆破に費やしたのであれば、もっと大きな被害になっているでしょう」


 盗んだ量に対して、起きた結果が少なすぎる。では、なぜこれだけの量の爆薬を持って行ったのか。


「わたくしの個人的な考えで言いますと、主な利点は2つ」


 そう爆薬を根こそぎ持って行くことに対する利点はいくつかある。その中で主だったものは2つ。


「1つは、効果がなかったときに、別に爆破をできるということだろうか……」


 とぼそりとクロガネ・スチールがつぶやく。そう1つはそれだ。


「ええ、予備というには大げさですが、爆薬を多く持って行くことで何度か実行できるというのはあります」


 ほかのも簡単といえば簡単で、


「もう1つは、国境を越えるのに、少量の爆薬を持つよりも大量のほうが誤魔化せるからでしょう」


 例えば国境を越えて商いをするとして、ほんのわずかな量だけもって国境を越えるなんて怪しい。でも大量にあったのなら、ああ他国でさばくつもりなんだなと納得できる。


「そうなると大量の爆薬を抱えたまま再び国境を越えられないし、ディアマンデ王国で潜伏しているということですか」


 アリュエット君がそう納得した。けれど、正確に言うのなら国境はそもそも犯行をした時点で封鎖というか逃げられないようになっているので、抱えている爆薬の量に関わらず超えることはできないと思う。

 つまり、すべて放棄してどうにかして塀を乗り越えて国境を越えることができれば……というところだろうけど、それでじゃあ、どこに行くのかという話。国内でも手配されているし、裏にいるであろうチャコール家やその裏の家が匿ってくれるとして、いつまでどこまでという話だし。


「ですが、ディアマンデ王国に潜伏するとしてどこに……」


「銀嶺山脈が国の象徴として狙われて、その次に狙われるとしたら?」


 まあ、分かりやすいだろう。特に、ディアマンデ王国に密偵として潜入していたクロガネ・スチールからすれば手に取るようにわかるはず。


「王都……」


 まあ、わざわざ犯行現場だった北方に大量の爆薬を抱えているという怪しさ丸出しの状態で留まるはずもなく、移動するとして、そうしたときに向かう先として考えられるのがおそらく王都だろう。


 もっとも、王都もそんな怪しい人物を素通しするわけないとは思うけれど。

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