227話:重複するイベント・その1
アストレイ。ゲーム「金属王国記~恋と愛と平和の祈り~」に登場するメインキャラクターの一人。そして、この状況は、その彼のルートに非常に似ているのだ。
「金属王国記~恋と愛と平和の祈り~」、通称「ととの」。建国女王アイリーンがメタル王国を建国する歴史を描いた作品であり、大陸全土が舞台というだけあって、スケールが他のゲームと比べても大きいことが特徴。そのメインキャラクターたちは……。
――ナーラエンテ。
もともとはとある場所で兵士のようなことをやっていた青年。建国後の軍事指揮や指導のためにアイリーンに見初められ、建国までの道のりの護衛の役割も担う。秩序を重んじ、多くの人に力を貸す。
――アストレイ。
もともとはある鉱山の管理者であり、その鉱山からは大陸中に鉱石が流通していた。その手腕を見初められて、建国まではその手腕とコネクションを、建国後には流通の管理、商業の発展の役割を担うように勧誘された。自分の定めた決まりごとに厳格な性格。
――コンクルディー
もともとは神父として、世界に神々の存在を説いていた。事情により、神父をやめて、各地を放浪していたところを、彼の存在をとある小国の王族から勧められたアイリーンが勧誘した。宗教統一の役割を担う。平和を尊び、とても信心深い。
――フオル・セテイ
もともとはグーリトニルという土地を治め、黄金の宮殿に住まい、土地の経営に手腕を振るっていた。大陸統治のための資金提供者としてアイリーンに見初められて、建国までは資金の提供、建国後は経済の管理の役割を担う。一見、金遣いが荒く見えるが、私費以外の金の管理となると公平公正であり、非常に信頼のおける人間。
――ディエメ・テイル
もともとは湖のほとりで暮らす少数の一族。閉じたしきたりに縛られず、新しい風を入れようと外交に熱心であり、その外交の手腕を買われ、外交の役割、融和の役割を担うがもともとは動植物、自然環境などの保全のためにアイリーンと外交を始めた。古い掟ではなく、新たな掟をもたらすもの。
それぞれが独自の考え、矜持、理念を持つが、そのだれもが平和や秩序を求めている。そして、それゆえに、アイリーンに賛同し、建国への道を共にすることになる。
そんなメインキャラクターの一人、アストレイのイベントの一つが、先ほどのラミー夫人の話によく似ているのだ。
しかし、革新を持てない部分もある。シャムロックからオキザリスルートへ入るのは、クロウバウト家という共通点があるから、理解できなくはない。しかし、アストレイのイベントが何の共通項もないジョーカー家関係として発生するのは理解できない。
もちろん、ジョーカー公爵家がアストレイの子孫という可能性も否定できなくはないが、肯定もできない。つまり、どっちともいえないのだが、そうであるのならもっと関連性があってもおかしくないと思う。まあ、メタル王国最後の戦禍でそうした要素が消え去ったというふうに考えられなくもないけれど、だとするなら、やっぱりこのつながりはすこし強引すぎる。
もっと明確な何かがあってしかるべき……とまでは言わないけれど、これだけで絶対にそのイベントだと断言できるだけの要素はない。
「ややこしいことになりましたね……」
「ええ、まったくもって」
ラミー夫人の言うややこしいと、わたしの言うややこしいはおそらく別のことを指しているけれど、どちらにしてもややこしいことなのは間違いない。
わたしとしては、イベントの重複などの頭を抱えたくなるようなややこしいことの連続に嘆き、ラミー夫人は他国のものがこっちの国でという国際問題のややこしさに嘆く。
「……わたくしとしては、クロウバウト家の一件と鉱山爆発物の一件、どちらもファルム王国が関わっているので、まとめて解決したいのですが」
「できるのならね。それで、この頭を抱える事件、あなたは何を知っているのかしら」
正直、知っていることなどほとんどないに等しい。知っているできごとも過去と未来、それぞれの時代での出来事に過ぎないし、現代の状況に関しては考察するほかない。
「その前に、ひとつ聞きたいのですが、発見された遺跡から金品……、いわゆる埋蔵物のようなものは見つかりましたか?」
わたしの問いかけに、ラミー夫人はすこし考えてから「なかったはずよ」と答えた。
「なかったはずだけれど、もしかして、報告したものがそういったものに目がくらんで……という可能性は否定しきれない」
確かに、第一報を上げた人物が金目のものに目がくらんで「そんなものはなかった」といって隠してしまう可能性はあるけれど、おそらくそれはないだろう。
「いえ、おそらくなかったのだと思います。あったとしてもわずかな量しか残っていない」
そう、これは……、これはそういうことなのだろう。
このイベントは他のイベントと異なる部分がある。それは、おそらく過去に一度、このアストレイのイベントが実際に起きているという点だ。つまり、わたしたちはそれからかなり時間が経ったいま、それを似た形で追体験していることになる。
わたしの説明を待つラミー夫人に、なんと説明したものかと考えながらも、やはり話の始まりは突拍子もない部分からだろう。
「かつて、この大陸が小国や烏合の衆の集まりだった旧い時代。アイリーンという少女が立ち上がり、大陸を統一した国を作りました。それがメタル王国です」
これが聞きたい話に帰結するのは、いままでの経験則でわかっているからか、「それに一体どんなつながりが」などという無粋なツッコミもなく、彼女はわたしの言葉の続きを待っている。
「その建国に携わったものたちの中にアストレイという人物がいました。そんな彼が巻き込まれてしまったとある事件に、現在の状況が酷似しています」
彼の仕事は、流通と商業の発展であり、そのために広く足を延ばすことがあったけれど、やはり、中でもコネクションの多くは、鉱山から出たものを売り買いする商人たちだった。
であれば、そんな人物たちと出会う場所は当然鉱山である。しかし、有数の鉱山から魔力の込められる鉱石が盗まれたという話を耳にして、それどころではなくなってしまう。
そして、その鉱石によって大陸でもかなり高き霊峰に、鉱石の力で爆破が起こされ、古い遺跡が出土する。犯人たちはその遺跡に隠されていた金銀財宝、そして宝石類が目的だったのだが、アストレイとアイリーンの手によって、それらの宝は取り返され、お礼としてその遺跡にまつわる民からその大半を譲渡された。
アイリーンは、その財宝を建国のための費用として、また宝石はアストレイの手によって、アイリーンの故郷に建てられた神殿の装飾に用いられたという。
「つまり、大昔にあった遺跡から財宝を盗もうとした事件に似ていると?」
「そうなりますね。もっとも、今回の犯人の目的が具体的に何であったのかは分かりませんが……」
すでに金銀財宝がないので、メタル王国建国時にその事件は発生していると思われる。おそらくアストレイが解決したという部分まで含めて、当時あったことだろう。そうでなく、ただ犯人によって金銀財宝が盗まれた可能性がないわけでもないけれど、その後の建国史に影響が出そうだし……。
「でも、なんだってファルムの鉱山から爆薬を盗んだのかしら。爆薬くらい、さすがにジョーカー領にもあるわよ?」
それもそうだ。いくら、昔の事件に似ているからといって、人間がそう不合理な行動をとるはずもない。では、なぜ、ジョーカー領ではなく、わざわざファルム王国で爆薬を盗み、ディアマンデ王国の銀嶺山脈を爆破するに至ったのか。
「考えられる理由はいくつかありますが……」
わたしが知識なしで思いつくようなことは、ラミー夫人も思いついているでしょう。
「犯人がディアマンデの地理に疎く、ファルムのものを使わざるを得なかったか」
「あるいは、ファルム王国の人間のしわざに見せるために、あえてそうしたのか、といったところでしょうかね」
おおむね考えていたことは同じなようで、そんな二案が互いの思っていた通りに口から出されただけだった。
「どちらにせよ、ファルム王国側の調査は必要でしょう」
「とりあえず、現時点でのあなたの見解を教えてくれるかしら。それを基に、ファルムとも協議の形を考えたいし」
まあ、一応同名の立役者なんて大々的に公言されてしまっている立場なので、わたしの見解が重要になるのも分からなくはない。ただ、それこそ、あんまりいい見解というか、「正しい見解」が出せるかは微妙なところだから、あまり言いたくないのだけれど。
「わたくしとしては、クロウバウト家の事件と今回の事件が同時並行的、あるいは同時多発的に起きたことに関連があると思いますがね」
「この2つに?」
あくまでわたしとしてのメタ的視点が加わってしまうから、それが正しいとは限らないのだけれど、それでも求められたのは「わたし」の見解であるから正誤などの思考は捨てて、完全にそのていで言う。
「クロウバウト家の事件はファルム王国との同盟反対派によるものでしたね」
これに関しては先ほど、ラミー夫人が言っていたことだし、その共通認識はできている。そして、銀嶺山脈爆破がそれに関わるということになるなら……。
「つまり、こっちの事件もファルムとの同盟反対派によるものだと?」
「あるいはディアマンデ王国との同盟反対派によるものかもしれませんけどね」
しかし、そうなると疑問が出てくる。
「でも、なぜ、遺跡が出土する位置を爆破したのかしら?」
「本当にそういう意図があったのかはわかりません。わたくしとしては遺跡を狙ったというよりは、銀嶺山脈を狙ったというべきだと考えています」
わたしの言葉の意味が分からないようで、ラミー夫人はすこし黙って考えるも、やっぱりわからないというように肩をすくめた。
「いえ、そこまで真剣に考えるほどのことでもなく、これに関しては本当にわたくしのただの見解でしかないですから」
そう前置きをしたうえで言葉を続ける。
「そのままの意味です。遺跡の出土などは目的ではなく、銀嶺山脈を爆破するということが目的というそのままの」




