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214話:皇帝との謁見にて・その4

 アカガネ砂漠。アカガネ、(あかがね)の名前を冠する国土の大半を占める大砂漠。現在は比較的に落ち着いている雨期。そのため物流や交流がマシになる時期。しかし、乾期にはうだるような暑さと、砂嵐の発生があり、砂漠の横断も難しく、ハンダ国やスズ国を経由して迂回することが多い。


 この砂嵐の発生には、スズ国、ハンダ国、ナマリ国、ミズカネ国の四国にまたがる巨大山脈から下るように流れ込む風が砂を巻き上げることで発生率が上がっているとかないとか。


 つまり、いまの雨期の時期には、そういったものが少なくなるのだけれど、しかして、季節外れの砂嵐が起きたとしても、それを気にする人はいないでしょう。


「……つまり、どういうことだ?」


 わたしの言葉に対して、シンセイがそんなふうな疑問を口にしたのも無理からぬことだろう。季節外れの砂嵐を起こそうというのが、まず頭を疑う発言だろうし。


「簡単に言いますと、わたくしが魔法で砂嵐を起こします。それによりブラス侯爵の南下を防ぐというものです。まあ、それでも無理にカラカネに行こうとする可能性はありますが、砂嵐が起きているときに露店を開く商人はいませんし、スズ国からの商人たちも様子を見るでしょう」


 魔法で砂嵐を起こす。それを聞いても、皆の反応は何とも言えないような感じだった。それもそのはずで、ラミー夫人のいるディアマンデ王国ならともかく、複合魔法なんてアルコルがまだ早いというような代物が、他の大陸でもホイホイ伝わっているはずもない。

 伝わっていたとしても、ラミー夫人の「氷結」やよしんばフェロモリーとの戦いで使用した「業火」ならともかく、ラミー夫人やパンジーちゃんにしか見せていないほかの複合魔法なんて知っているはずもないのだ。


 ただ、概念としては伝わりやすいはず。


 ミズカネ国では魔法……、呪術は、神々の代行であるという教えであり、つまりは、わたしたちが扱う魔法ほど身近なものではない。逆に言えば、災害そのものともいえる力であっても、より神の代行として適している力を行使しているという解釈になる。


 かみ砕いて言うのなら、ミズカネ国の人たちの魔法の上限値は「神々」であり、いわゆる魔力値や魔力変換は、どれだけ神に近い力を「神に代わり」行使することができるかということになる。


「つまり、砂嵐を引き起こすことができると?」


 センタンが興味深そうにわたしを見る。研究者として、何より星辰砂院の人間として、そこに興味を抱くのは当然といえば当然か。


「あなた方に合わせて言うのでしたら、わたくしは神の代行として、非常に高い資質を……、それこそ『代行者』たる資質を持っていますので」


 ここで言う「代行者」というのは、ただ単なる言葉としての代行者ではなく、ミズカネ国が定める、あるいは認める「代行者」という存在のことを指している。


 代行者というのは、なんていえばいいだろうか。一般的なイメージとして分かりやすいのは神官だろうか。簡単に言ってしまえば、魔力量と魔力変換が凄い人のことでしかないんだけど。


 ちなみに「水銀女帝記」における「代行者」は、データ上の魔力量や魔力変換だけで見ると、王子に匹敵する50と100である。存在の示唆と名前は出るものの、ゲーム内での登場はなく、特に物語に関わってくることはなかったけれど。


「ラピスと同じように『代行者』たる資格を持つということかしら?」


 カッティがそのように問う。



――ラピス・ケインジヤ。



 断片的に知っている情報をつなぎ合わせると、先代皇帝の頃から「代行者」候補として名前を上げられていた人物で、シュシャが皇帝になる前には「代行者」となっていた。シンセイたちよりも年上、しかし背は低い。女性。

 このくらいの情報しか、わたしは知らない。


「確かめますか?」


「必要ないだろう。できなかったらそこまでということだしね。しかし、後学のためにラピスを同行させてもいいだろうか」


 うーん。正直、知らないキャラクターなので遠慮しておきたいのだけれど、ここで断るのもなあ……。でも同行者ができるのなら、できればスズ国の地理に明るいカッティとかのほうがありがたい。


「ラピス・ケインジヤですか……。構いませんが、複数人で行動すると単独行動よりも目立ちますからね」


「まあ、確かに。特に彼女と一緒だと尚更か」


 わたしは彼女の容姿を知らないから何とも言えないけれど、知っているこの場の全員がうなずくくらいには特徴的な容姿をしているということだろう。


「背が低いとは知っていますが、それほどに目立ちますか?」


 わたしの知る限りの知識だと、目立ちそうな部分は「背が低い」くらいだ。もっと特徴があれば、ゲーム中でそこよりも先に言及されていてもおかしくない気がするけれど。


「親子……いや、少なくとも年の離れた姉妹には見られるだろうか。若い女性2人、特にどちらも目をひくとなれば」


 確かに、わたしは異国の人間だから注目を集めやすいだろう。代行者はさほど人前に出ることがないから、容姿でバレるということはないにしても、ラピスも目立つとなれば、あまり連れていきたくはない。


「当初の予定ではどうするつもりだったのかしら。彼女を連れない、あなた一人の場合」


「その場合は、スズ国とミズカネ国の国境までは馬車を手配してもらうつもりでした。そこから先は、スズ国内でコッパ国との国境まで適当に。できれば人に見つからない道筋を通って」


 ……適当にというと、何も考えていないようにも聞こえるのだけれど、この意図はカッティには伝わったようで、彼女は少しばかり考えてから言う。


「上回り、それとも下回り?」


「わたくしが把握しているのは上回りです。下回りのほうが距離的に短いのは知っているのですが、仔細は把握しておらず」


 この上回り、下回りというのは、スズ国の王族用のルートであり、作中でカッティが一度だけ使っているが、それが上回り。つまり王都を通るルート。下回りは言及のみで具体的なルートを知らない。

 このルートなら、人にほとんど会わずにコッパ国との国境まで行くことが可能。


「でしたら、私が手配しましょう。下回りで向えるように」


 手配というのは馬車や案内人ということだろう。スズ国の王族が手配する人員ということは信頼のおける人なのだろう。


「それはありがたいことですが、よろしいのですか?」


「呼んだ手前、そのくらいのことはね」


 そんなふうに言うものの、場合によっては自身の出自が大っぴらになるかもしれないというリスクを冒してくれているわけで、呼ばれたという大義名分があるもののこちらの都合で勝手に来たのだから、結構申し訳なく思う部分がある。けれど、まあ、向こうの好意を無下にするほうが悪いので、ここは甘えておこう。


「3日ほどしか時間がないのだから、手早く彼女とも引き合わせるべきかな」


 シンシャさんがそんなことを言う。しかし、「代行者」ってそんなに簡単に会えるものなのだろうか。作中でめったに情報すら出てこないから、結構ハードルが高いものだとばかり思っていた。


「何やら、呼ばれたような気がして訪れたら、異邦のお客様がいらっしゃるのですね」


 カツカツと、少し早足気味の足音。カッティの登場のときもそうだけれど、この人たち、割と気軽にここに入ってくるな……。


「ちょうどよかった」


 シンシャさんがそういうからには、彼女がラピスなのだろう。そう思い、わたしはその姿を視界に収める。


 おおよそ子供にしか見えないくらいの身長。背が低いとは聞いていても、これほどまでとは思わなかった。年齢はシンセイよりも上のはずなので、当然わたしよりも年上のはずなのだけれど、最初に見て、そう判断できる人はそういないと思う。


 そして、何より目をひくのは、大海よりも深く広い碧い髪とラピスラズリを埋め込んだかのような綺麗な明るい紺色の瞳。そして、何より、纏う衣服は「紫雲(しうん)黄衣(きい)」と呼ばれる、これもまた古くからミズカネ国に伝わるもの。


「初めまして、ラピス殿。わたくしは、遥か異邦、異なる大陸にあるディアマンデ王国の公爵、カメリア・ロックハート・スペクレシオンと申します」


 わたしの反応というか対応に驚いたのか、少し固まる。まあ、初見でこういう態度を取られることはあまりないのだろう。


 しかし、わたしとしても驚いている部分はある。彼女の髪色と瞳の色だ。わたしはてっきり赤系統だと思い込んでいたので、「紫雲の黄衣」が目に入らなければ、もしかしたら別の人物だと思ったかもしれない。


 赤系統と思い込んだのにも理由があって、前世での考察サイトでもっぱら話題になっていたのがラピス・ケインジヤの名前のゆらい。ラピスはラピスラズリではなく、そのまま「ラピス」なのだと思われていた。

 そもそもラピスラズリとは、ラテン語で石を意味する「ラピス」と空のような青色を意味する「ラズリ」で「ラピスラズリ」。つまり、「ラピス」は「石」。ケインジヤは崩しで、「ケインジャ」、「ケンジャ」、「賢者」。

 合わせて「賢者の石」。これがラピス・ケインジヤのゆらいだと考察されていた。


 「賢者の石」を原料とするとも言われる錬丹術などにおける求められる不死の秘薬、仙丹などの「丹」の字。ニ・スイギン、ニ・ミズカネなどの「()」であり、辰砂(シンシャ)朱砂(シュシャ)とも言い表される「赤色硫化水銀」。だから、てっきり賢者の石だから赤色だと思っていたのだ。非公式ファンアートとかでも赤髪赤い目に近く描かれていたことが多い。


「陛下、異邦の方に話されたのですか?」


「いいや、こちらから話したのは名前程度だ」


 まあ、あと、目立つだろうって話くらい。いま目の前の少女に結び付けられるような部分はほとんど聞いていない。シンシャさんの答えに、「ではどうして」というような顔をしているので、わたしはあくまで平静に言う。


「あなたの纏っていらっしゃる『紫雲の黄衣』を見れば、わからぬはずもありませんので」


 だが、それに対して、ラピスだけではなく、ほかも含め、なんとも言えないような顔をしていた。


「いや、だろうと思っていたけど、やっぱり『紫雲の黄衣』も知っているか」


 とシンシャさんが苦笑いをする。だけど、その反応に困惑しているのは、むしろわたしのほうだった。「水銀女帝記」において「紫雲の黄衣」は、とあるルートの打破のきっかけであり、ラピスよりも断然ストーリーに関わる重要なものであり、作中の様子からして、みんながこんな反応をするようなものではなかったはずなのだけれど……。

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