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186話:遠き過去からのメッセージ・その4

「黄昏の鏡?」


「はい、神の声を聞く杖に並ぶ、ミズカネ国の秘宝と呼ばれるものですね。黄昏の鏡。死鏡、閻魔鏡とか黄泉鏡などという呼び方もあります」


 ミズカネ国の秘宝なのだから、よしんば別の大陸に渡る術を確保したところで、唐突にやってきた別の大陸の人間から「秘宝を渡せ」と言ってきても、渡すわけがない。たとえ、世界が滅ぶかもしれないという話でも、それを信じるのは難しいでしょう。

 まあ、ミズカネ国ならミザール様が「神の声を聞く杖」を介して話しかけることができるかもしれないけど。


「でも、その黄昏の鏡と同じものという根拠はあるのかしら」


 根拠か。確かに、何の根拠もなく、「あれとあれは同じだ」といっても、信じられないでしょうし。


「その鏡は、『その鏡に映したものをむさぼり食らう』とか『幽世へと幽閉する』のような伝承があるようです。一種の教訓的おとぎ話として認識されている部分もあるようですが、『魂を消滅させる』という文言と伝承が一致します」


 一応、黄昏の鏡そのものには、ファンの間では、元ネタになるようなものが存在するとは言われていたのだけれど、あくまでそうだといわれていただけで、公式に明言されていたわけでもないし。


「なるほど、別大陸という条件にも合致して、そのうえで伝承などまで一致するというわけね。でも、それだけなら、根拠が薄いというか、あなたも知らないようなところに、それとは別に存在する可能性はあるわよね」


 もちろん、その可能性は十二分にある。だけれど、もう1つ、根拠といえるほどのものではないけれど、ヒントとでも言うべきか、そう思った理由は存在する。


 ミザール様の言葉だ。


 かつて、わたしは「神の声を聞く杖」を見つけ出したことで、「水銀女帝記」から大きく逸脱させてしまったことに対して、ミザール様にその改変が行われることを意図していたのかと尋ねた。そして、それが予測されるパターンの1つであり、わたしの道に大きな影響を与えると。


 それこそ、「世界も過去も未来もすべてを巻き込んだ、大きな変革」とやらに。


 この「大きな変革」とやらが、おそらく、いま起きようとしている、あるいはずっと水面下で起きていた、アーリア侯爵たちの一件に関わっているのだとすると、ミズカネ国が関わってくるはずなのである。


 ただし、それは、この一件が「大きな変革」とやらに関わっているという根拠のない話が下地にあるため、本当に根拠といえるほどのものではない。


「可能性のあるなしで言えば、あるとしか言えませんが、そうなった場合、わたくしたちには手に入れようがありません。まあ、その場合は、それこそ、わたくしたちの時代では得ることができなかったということなのかもしれませんが」


 ミザール様の言葉であるところの「得ることができない」や「得ることができる」というのは、物理的あるいは、交渉的な部分だけではなく、認識的な部分も含まれると思っている。

 つまり、存在の既知も含まれると思うのだ。それこそ、「得ることはできますよ」といううたい文句で「まあ、この世界のどこにあるとも知れないそれを見つけ出せたらですけどね」なんて話だったら詐欺もいいところだ。


「じゃあ、まあ、一応、別だという可能性も頭の片隅にでも置いておいて、『黄昏の鏡』はミズカネ国に伝わるものなのよね。現状で、それをこの国に貸してもらうことというのは可能なのかしら」


「そもそも、伝承自体は知っていても、その存在がどこにあるのかを知っている人はいないと思います。それこそ、先代の皇帝は知っていたと思いますが」


 シンシャさんが伝承ではなく実在することを知っているかどうか、いや、知っていたとしても、どこにあるかがわからない以上、手にはしていないと思うけれど。


「それでもあなたはどこにあるか知っていると」


 半ば呆れた顔で言われたけれど、まあ、知っているものは知っているのだから仕方ない。


「でも、あなたが知っていたからといって、こっそり行って取ってくるということができるような場所でもないし、かといって、持ってくるように指示して、素直に行くものでもないでしょう?」


「そこはシュシャの任せるしかありません。そもそも、彼女の持っている髪飾りが道しるべですからね。あれがなければ、場所はわからないでしょうし」


 もっとも、シュシャがどのタイミングでミズカネ国に戻ることができるのかがわからない。現状は留学という形で、環境づくりのための一時的避難をしているような状況なのだから、いま急に戻ったら、暗殺事件に発展なんてことになりかねないかもしれない。


「つまり、鏡の入手は可能かもしれないけれど、しばらくの様子見が必要ということね」


「そうですね。様子を見ながら作戦を考えておきます」


 それこそ場合によっては、あの人の手を借りることも考えなくてはならないか。いや、難しいか。わたしが直接ミズカネ国に行けるのが手っ取り早いような気もするし、その場合、国際問題上逆に面倒くさいというような気もする。


 ここはやっぱりじっくりと作戦を練りたいところだけれど、どのくらい時間があるのかがわからないというのも困りものだ。


「しかし、それにしてもこれだけ大きなことになりそうなものが、いままで明るみにならなかったのには、建国史から排除するという大規模な隠蔽工作があったからなのね」


 やれやれとでも言いたげなラミー夫人。まあ、そのせいでアーリア侯爵たちの陰謀に気が付くことができなかったという意味では、そういう気持ちになるのは分からなくはないけれど。


「ですが、その役割はしっかりと果たしていると思います。もっとも、企んでいたのが、その歴史を知る古き一族のアーリア侯爵家だから、このような形になってしまいましたが」


 おそらく、アーリア侯爵家にも、スパーダ公爵家の暗号のような形か、もっと直接的な形で、一連のことが伝わっていたのだろう。最初から企んでいたのか、あるいは、別の形で伝わっていたものを悪意ある血筋の中のだれかが企みに利用したのかはわからないけれど。


「わたくしのような例外を除けば、そうそう聖女グラナトゥムやその友人であるフェリチータにたどり着くことができませんし」


 わたしが「たちとる」を知ったあと、建国時期のずれなど違和感を抱いたのは、この予測の道筋に「たちとる」がなかったのではなくて、「たちとる」のあとに起こったことが影響していたということだ。


 それによって、エラキス……、聖女グラナトゥムの存在は、歴史から忘却されて、その友人であったフェリチータという存在も認知されていない。


 それだけ、なんとしても、「旧き神の残滓」を呼び起こそうとするのを防ぎたかったのだろう。自分の存在をできる限り消すなんて言うことが、どれだけ難しいことなのか、処刑されたことにして自分の存在を一時的にでも消そうとしたわたしにはよくわかる。

 まあ、それだけのことをしたにもかかわらず、アーリア侯爵のような存在が現れてしまっていることが遺憾でしかないが。


「でも、明るみになっていないことをどうこうするのは骨が折れるのよね。それもこの規模だとやっぱりね。証拠もなしに国を動かすのは難しいし」


 つまり、証拠をつかむまで、わたしたちでどうにかするしかないという現状は何も変わっていないということだ。

 まあ、陛下ならば、こちらの言葉に耳を傾けてはくださるでしょうけど、あくまで傾けるまでで、それ以上はできないということ。


「下手に暗号の解読を依頼するのも悪手になりそうですから、やはり証拠固めをしないといけませんね」


 暗号の解読を依頼して、その結果、全然解読できませんとか、解読される前にことを起こしてやるとか、解読の結果がわたしたちの意図している方向にならなかったとかになると厄介この上ないので、とりあえずは、アーリア侯爵が動いているという明確な証拠をつかむしかないでしょう。


「まあ、今回の解読によって、最終的な目的はともかく、なにをしようとして動いているのかは、大体わかってきたから証拠をつかみやすくはなったけれどね」


 確かに。ただ、理由がしっかりとわかってきたくらいで、具体的な動き方の部分では、そこまで進展はないのだけれど。フェリチータに魔力を注ぐというのは、「レアクの遺産」がどうのこうのという段階で何となくわかっていた話だし。


「当面はロックハート公爵領とその周辺の調査、ミズカネ国への対応を考えること、そして証拠集めという感じでしょうかね」


「そうなるわよね。結局、ほとんど進展していないのがもどかしいわ」


 溜め息を吐いて、肩を落とすラミー夫人。まあ、気分としてはわたしも似たようなものだけれど。

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