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184話:遠き過去からのメッセージ・その2

 災厄を要石とやらに封じ込めようというのは、さすがに無理があった。もちろん、前世に置いて、神社などでそうした石であったり、御神木であったり、神々が宿るものは確かに存在するし、悪霊であったり、悪さする神であったりを封印していることもあるかもしれない。

 ただ、残滓とはいえ、簡単に考えれば自然災害というエネルギーの塊である。だからこそ、逆に封じ込められなかったのかもしれない。


「『しかし、聖女の友たるレアクの遺産が自ら魔力を大量に放出し、過剰な負荷をかけることで、魔力を空にするとともに停止させ、それを器とすることで、我が剣で映しとり与えた災害という名の塊を「固定する金色に輝く顔」にて封ずることに成功する』」


 ここでレアクの遺産というものが登場し、ラミー夫人にも緊張が走る。そう要約、アーリア侯爵たちの話につながりが出てくるからだ。


「『聖女いわく、眠りに陥った友をよみがえらせるには、外部から魔力を供給することであるが、その術は未だに確立されていない』」


 ラミー夫人が考え込むようにあごに手を当てる。だけれど、一応、最後まで暗号の解読結果を読み上げることにした。


「『だが、これから先の未来において、それが確立される可能性は十分にあり、それを防ぐために、土地はロックハート公爵領として管理を行い、安易に復活を望むものが現れぬように、その軌跡をたどれぬよう、聖女とその友について、建国史からできる限り排除した形で後世に伝えることにした』」


 もう残りの文章は少ないので、残りを一気に読み上げる。


「『神々によれば、後世に神託を受けたものか、あるいは、それ以外の要因でこの暗号を読み解けるものが現れる可能性があるという。そして、その時代ならば、「魂を消滅させる暗き鏡」も得られるかもしれないと。ゆえに、この国の命運を託す』と書いてあります」


 実際、いくつか読み飛ばした部分や、暗号がつぶれてしまっている部分をわたしが補完した場所もあるので、本当に全部、原文ママというわけではないけれど、おおむねは外れていないはず。


「いまの話を踏まえると、アーリア侯爵家の目的は……」


「はい、おそらくレアクの遺産……、フェリチータに魔力を外部から供給することだと思われます。まあ、現段階では、それによって目覚めるであろう災害という力の塊が目的なのか、フェリチータそのものが目的なのかは判断しかねますが」


 さすがに「旧き神の残滓を使って国を支配してやるぞ」みたいな単純な理由ではないでしょうし。


「あるいは、『魂を消滅させる暗き鏡』とやらを彼らが入手していて、旧き神の残滓を封印ではなく、消し去るために動いているというのは……」


「ないと思います。そもそも、それならば、スパーダ公爵家と協力して動いているでしょうし、国を救う行為ですから、あんな危険な研究を陰でコソコソするのではなく、国ぐるみで動いたほうがいいと思いますし」


 アーリア侯爵家だけで独自に動くには理由が薄すぎる。


「……そうね、結局、具体的に何がしたいのかというのは不明瞭だけれど、それでもこれが分かったというのは大きいわ」


 具体的に彼らが何のために動いているかというのは、やはり、もっと証拠を集めるか、彼らから直接聞くほかないのだと思う。さすがにウルフバートが予見して「アーリア侯爵が云々」とは書いていないから。


「いっそ、レアクの遺産を保持していることに対して、どうにかこうにか告発して取り押さえられないかしら」


「そもそも、この解読は、あくまでわたくしがしているもので、証拠能力がいまはありません。正式に第三者に暗号解読を依頼して解読が終わってからでないといけませんし、フェリチータを預かっているだけでは、それこそ、『いたずらに復活させようとするものから守っていた』なんて言い訳もできますから」


 暗号の解読というのは一朝一夕で出来るものではない。そして、適当にでっちあげようと思えば可能なのだ。そもそも、暗号がつづられているのが複数あるのならともかく、手帳一冊分しかないのだし。

 つまり、わたしがわたしに都合よく解読しているといわれても、反論したところで証明は難しい。だからこそ、わたしに無関係の第三者が解読するまでは、証拠能力なんてものはない。


 そして、言ったようにでっち上げようと思えばでっち上げられるほどに、暗号解読というものは危うい。わたしは答えを知っているからこその話であって、思い込みや先入観で暗号の解読がでたらめになってしまうこともあるでしょう。


「まあ、なにも成果がなかったわけではありません。それに、クオーレ伯爵の一件も新たな見るべき場所が出てきましたから、そこから探りを入れられる可能性もあります」


 今回の一件では、いろいろな穴というか、探りを入れられそうなポイントが見つかったのは大きい。その1つがクオーレ伯爵だ。


「……私が聞き逃していただけかもしれないけれど、あったかしら?」


 ああ、結構すっ飛ばした物言いをしてしまったから、少し誤解を与えてしまったかもしれない。ただ、わたしは、少し疑問に思っていたことがあった。なんであの実験にクオーレ伯爵も選ばれたのか。


 呼吸器、循環器というのは、あくまで神の視点から見ての話であって、直接的に選ばれた要因ではない。おそらくいろいろな理由はあったのでしょうけれど、先ほど、もう1つその理由になりそうなものが解読の中で挙げられたはずだ。


「『ロックハート公爵領』ですよ。現在、クオーレ伯爵領が実質、ロックハート公爵領に組み込まれているのはご存知だと思いますが、つまりは隣接しているわけです。『古き国の建国女王にゆかりのある大地』という『旧き神の残滓』が降り立った場所に」


 当然ながら、ロックハート公爵、つまりお父様を巻き込むのは不可能だけれど、そのロックハート公爵領には大きな意味があるのは間違いない。だからこそ、隣接したクオーレ伯爵領での偽装された実験の証拠というのは、もしかすると本当に、そこで重要な研究や実験が行われていたのかもしれない。クオーレ伯爵を切る際に、重要な部分はすべて持ち去ってから破棄したのでしょうけれど。


「なるほど、あらためて調査する価値はあるということね」


「ええ、ロックハート公爵領を含めて、あらためて調査したほうがいいと思います」


 しかし、まあ、わたし自身知らなかった。「旧き国の建国女王にゆかりのある大地」ということは、メタル王国の建国女王アイリーン、「ととの」こと「金属王国記~恋と愛と平和の祈り~」の主人公にゆかりのある土地だったとは。


 ただ、まあ、それと「旧き神の残滓」がそこに落ちた理由の関連性はまったくわからないわけだけれども、とにかく、大昔とはいえ、そこにそれが落ちたというのなら、何らかの痕跡が残っていてもおかしくない。


「本当なら、正式に調査団でも派遣する規模で行ったほうがいいのでしょうけれど……」


「そのような規模で動かせば、アーリア侯爵に『何かつかんだぞ』と言っているようなものでしょうから」


 そう思われなかったとしても、少なくともその調査でなにかがわかることに警戒するでしょうし、より警戒が厳しくなるだけ。


「まあ、結局、私が調べることになるのね」


「ロックハート公爵領内の調査に関しては、わたくしもできる限りはしてみようと思います。ただ、問題なのはロックハート公爵領といってもかなり広いことですね。まあ、そのあたりも含めての調査なのですが」


 旧き神の残滓とやらが落ちた場所を調べるといっても、かなりの広さがあるロックハート公爵領では、ピンポイントにそれがどこか探し当てるのは難しい。クオーレ伯爵領に近い可能性はあるけれど、それはあくまで可能性の話であって、そうとも限らない。


「その辺りは……、しらみつぶしか郷土史でも漁るか……、まあ、調査は一歩ずつね。そんな時間があればいいけれども」


 そう、どのくらいタイムリミットまで余裕があるのかがまったくわからないので、のんびり調査していたら、もう向こうの準備が終わっていて……なんてこともあり得る。


「とりあえず、アーリア侯爵に関しては、このくらいにしておきましょう。さすがに情報が多すぎて混乱しているから、あとで改めて質問をするかもしれないけれど、それはおいて、ほかにも気になることが多すぎるわよ」


 確かに、解読によってわかったことが多すぎて混乱するし、気になることも多いと思う。実際、わたしだって解読してすぐに、ラミー夫人のところに来たので、ほとんど情報の整理が終わっていない。改めて情報を整理したら、また違った何かが見えてくる可能性はある。


「ラミー様としては、『魂を固定しうる金色に輝く顔』のくだりですかね」


「そうね。異境から来た『蛇』だったかしら」


 この異境というのは、おそらく別の大陸ということだと思う。つまり、仮面は別の大陸から持ち込まれたものだと。


「おそらく、いま、私が継承している『黄金の蛇』の仮面は、それの見た目だけ似せたものだと思うけれど、本物は……」


「予想ですが、フェリチータについたままでしょう。それで災害の塊を押し込めていると考えるのが妥当です」


 実際、ラミー夫人が持っている仮面には、何か突拍子もない効果などはなく、本当にただの仮面だし、偽物か、あるいは、フェリチータに対して使ったことで力を使い果たしたとか、フェリチータに使用中ということでそれ以外に効果が発揮されないとか、そんな仕様の可能性もあるけれど。


「まあ、継承の文言を考えれば」


「そうですね、あの文言の意味を改めて考えると、ここにつながる部分がいろいろと見えてくるような気がします」


 ビジュアルファンブックにそのへんのこと全然載ってなかったけれど!

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