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181話:継承の試練・その2

 予定通りに問題なく物事は進んだ。最も継承の進行という意味では問題が発生しているのだけれど、それはあくまでわたしの知っているアクシデントが起きているという意味であって、予定外の何かが起きているわけではないので大丈夫。


 まあ、実際に対処しているクレイモア君や騎士の人たちにとっては、そういうわけではないので、いろいろと焦っているでしょうけれども。


 ルートを変えたことで、避けても問題の無い騒動や優先的に対処すべき問題にスムーズにたどりつくようになっているので、余計な移動が減って、そういう意味では効率化されているともいえるけれど、このくらいは許してほしい。


 クレイモア君自身の経験には、そこまで影響がないし、せいぜい動き回る距離が減るくらいで、まあ、それを経験するのも「いい経験」というか、「苦い思い出」というか、否定すべきものではないと思うけれど、いまどうしてもすべきというわけではない。





 というわけで、「たちとぶ」では長々と続いていた継承だけれど、わたしの視点ではサクサクと物事が進み、あっという間に終盤に差し掛かっていた。


 ……まあ、長々といろいろなことをしているのはクレイモア君なので、クレイモア君に委ねて、やることだけをやっているわたしだと当然のことなのだけれど。わたしがこうしている裏で、クレイモア君が大変なんだろうなあくらいの感覚である。


 さて、終盤ということもあり、継承の試練は、おつかいクエストで言うところの中ボス討伐とでもいうか、隊長との一騎打ちまで進んでいる。


 実力を試すという意味があるのでしょう。継承では、2人以上の隊長が一騎打ちする習わしがある。ただし、あくまで騎士道に則った戦いであり、ほとんど怪我とかがないレベルで終わるのだけれど。


 これは別に手を抜いているとかではなくて、国を守る騎士が私事で傷ついて、満足に仕事ができなくなったら国全体への迷惑につながるためである。だからこそ、あくまで実力を試すというくらいの範囲で収まる。


 グルカさんとクレイモア君の一騎打ちは、そこまで長引かなかった。


 あっさりと言っていいほどクレイモア君が簡単に勝ったのだ。

 これは別にクレイモア君が強すぎるとか、グルカさんが弱いとかそういうことではなくて、お互い貴族出身であり、その剣術の源流が似通っているためである。普段の訓練や模擬試合などではともかく、本気で相手をするのなら、剣術を熟知していればいるほど、どのタイミングで隙ができて、どういう対応をするのかというのがマニュアル的に頭に入っているもの。


 グルカさんは、それができているかというのを見る意味もあり、つまり、攻めやすい方法だけをとることが継承の試練という都合上できないわけで、だからこそあっさりクレイモア君が勝てただけで、実際に本気で討ちあった際にどちらが勝つかはまた別の話だと思う。





 問題は、そのあとのフランベルジュさんとの一騎打ちである。こちらはほぼ順当な正々堂々の勝負である。


 なぜ、グルカさんとフランベルジュさんでこのような役割になっているかと言えば、フランベルジュさんが平民の出であることが理由だ。


 別に差別的な意味があるとかではなく、ただ単純に、剣が独学というか我流に近いからである。だから剣術に対する対応に関してはフランベルジュさんには無理だ。でも、だからこそ、彼がクレイモア君と一騎打ちする意味がある。


 何せ、取り締まるような罪を犯すようなものの多くは、剣術を学んでいないような人物だ。だからこそ、フランベルジュさんのような我流に近い太刀筋の相手と戦うことが重要になってくるわけだ。

 もっとも、フランベルジュさんも騎士団に入ってからそれなりに時間が経っているので、それなりに剣術も身についているので、完全に我流の太刀筋とも言い切れないのだけれど。


 縦横無尽とでも言うべきか、自由で重く荒々しいフランベルジュさんの剣がクレイモア君に襲い掛かるけれど、それらを読み切り、すべて受け流す。そして、攻めあぐねるということもなく、的確に隙を突いて、冷静に切り返す。


 野生の勘とか経験則か、その鋭い剣を紙一重で避けては、獣のような一撃がクレイモア君を狙う。力負けしているためか、受け流しや避けることでしのいでいて、受け止めたり弾き返したりというのは難しいようだ。体格差という見た目からでもわかりやすいものを考えれば、当然といえば当然か。


 ただ、騎士とは「力」だけあればいいというものではない。力で負けているからと言って、戦いに負けるわけではない。もちろん、力がいらないというわけではないのは当然のことだけれど。


 力を込めた攻撃は体力を消耗する。それを最低限の受け流しと避けで躱し続けて、持久戦に持ち込んでいる。それに、余力が減れば、反応も遅れ始める。


 そうして、いままで紙一重で避けられていたところに、鋭い一撃が走る。


 そこからは攻防が入れ替わるように、クレイモア君が攻める番だった。フェイントを織り交ぜながら、的確に隙をついて攻撃をあてていく。そうなってしまえば決着がつくのに、そう時間はかからなかった。


 結果としてクレイモア君の勝ちである。もっとも、実際に、あれが野盗などであった場合なら、真っ向からこんな時間のかかる戦いをしている場合ではないということも考慮するのならどうかと思うけれど。まあ、一応、騎士同士の一騎打ちだったということで、気にしないでおきましょう。






 そんな中ボス戦があったあと、再び、おつかいクエストでぐるぐると王都内を回りに回る。しかし、ラスボス戦まではもう少しだ。


 この継承という試練におけるラスボスは、普通に考えればすぐに思いつくであろう人物であり、「継承」という行為に関して言うのなら当然といえば当然である。


 ファルシオン・スパーダ様。


 彼がこのイベントのラスボスである。スパーダ家の継承なのだし、現当主を打倒して、力を認められるというのはよくあることだ。……いや、まあ、普通の貴族では、普通はないことなのだけれど、この場合は創作とかでよくある「魔王を倒して次の魔王に」みたいな話のことだ。


 そして、クレイモア君も、おそらく、このおつかいクエストの先に待っているのがファルシオン様であることをわかっているのでしょう。自分の実力を試したい、親に見せたいという思いがある反面、本当に勝てるのかというおびえというか、迷いが見える。


「不安ですか?」


 だから、わたしはそのように声をかけた。場合によっては不安を増長させるので、あまりいい言葉がけとは言えないけれど、まあ、クレイモア君ならば大丈夫でしょう。


「やはりわかるのですか……?」


 この場合は、わたしでなくても、それこそ王子やアリスちゃんとかでもきっとわかったでしょう。そのくらいわかりやすい……というわけではないけれど、いつも以上に顔や雰囲気に出ていた。


「わたくしでなくてもわかるでしょう。しかし、迷いや不安という感情を抱くことが悪いことではありません。それは必要なものです」


 本当に勝てるのか、そう思うことが不必要なわけがない。相手との力量さを考えるうえで、それは大事になる。何も考えずに「勝てるだろう」ではいけない。


「ただ、その不安や迷い、おそれに囚われてしまうことはいけません。それに対して、冷静に考え、時には己自身を信じることも大切です」


 まあ、ものすごく適当な、ありきたりな言葉をかけているけれど、そういう言葉も場合によっては大事なのだ。


「信じること……ですか?」


「過信はいけません。ですが、いままで自分が行ってきたことを否定するのも無下にするのもいけません。努力を、執念を、思いを信じることも必要でしょう」


 ぶっちゃけると、これはクレイモア君ルートのアリスちゃんの言葉をベースに、なんか適当な感じにふわっとさせたもの。


 人の言葉をパクった挙句、適当なアドバイスとして使うのだから、人として最低な気もするけれど。


 ちなみに元の言葉は「大丈夫です。いままでいっぱい努力して、強くなりたいと、みんなのためにありたいと願って、思って、頑張ってきたんですよね。だったら、そんな自分を信じましょう」って感じだったはず。


「そうですね。そう、ですね。……カメリア様。カメリア様は、自分を信じてくださいますか?」


 切実な目をした問いかけ。まあ、信じている。クレイモア君ならやってくれるだろうと。だからこそうなずき笑う。


「ええ、クレイモアさんを信じます」


 それに対して、何かに納得したようにうなずき、クレイモア君は静かに言う。


「自分は、自分を信じ切れる気がしません。ですから、カメリア様が信じる自分を信じてみることにします」


 なんというか、それはわたしに依存しているような……。てか、「たちとぶ」と全然違う返しなのだけれど。……ああ、そうか。


 アリスちゃんは平民であるから共に歩むという意味もあり、そして守るべきものとして彼女に頼るのではなくて、自分を信じるけれど、わたしの場合は……。


 うん、いや、まあ、た、たぶん大丈夫。大丈夫のはず。

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