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172話:事件のその後・その1

 わたし、カメリアは、アルコルと話してからしばらく、いろいろと思考を巡らせていた。フェリチータ。それがわたしの知るフェリチータであるのかも含めて。


 その結果が、さっぱりわからないというものである。


 正直、情報が少なすぎる。アーリア侯爵とかどこで情報を得ているのかが、ものすごく気になる。いや、おそらく、「フェリチータ」があのフェリチータなのだとしたら、建国当初からある家ということで、資料があってそれで、と言うのは十分にあるのだけど、それならロックハート公爵家やほかの公爵家、サングエ侯爵家などにもあってしかるべきだ。


 でも、実際には、建国のタイミングすらあいまいな状態だったのだから、それは、おそらく各家にも資料が残っていないような状況なのだろう。


 つまり、何らかの意図があって、アーリア侯爵家だけは、失われたはずの資料を保持し続けていたのではなかろうか。それが計画とつながっている……のかもしれない。


 もう、確定要素の一切ない推測だらけの仮定。推理として意味を成すはずもなく……。





 まあ、そんな参っているわたしの話はさておき、今回の事件の後日談と言うか、事後処理というか。


 クオーレ伯爵は汚名が晴れた。


 そのことが周知され、結果として、クオーレ伯爵は再び爵位と領地が与えられることになったのだが、当人はそれを辞退。


 いわく、「この暮らしも悪くない」とのことで、アスセーナさんから聞いた話では、本人たち的には、貶められたのにそれをどうにもできず、いまの立場となった以上、再び貴族になったところで同じことを繰り返してしまうかもしれないから断るとのことだった。


 しかし、そうなると困るのはこちら側。


 無実の罪であるにも関わらず爵位をはく奪したのに、それが晴れても何もしないように見えてしまう。もちろん、本人たちがこう言っていると言ったところで、邪推は消えないだろう。


 それゆえに、結果として、本人たちの暮らしは変えないまま、爵位は与え、領地はクオーレ領としているものの、実質、そのままロックハート公爵領のままとなる。


 この領地問題がこのうえなく厄介なのだ。


 クオーレ領なのに、税の納める先はロックハート公爵。しかし、国の扱いとしては……みたいなものすごく面倒なことになるわけで、かといって、爵位だけ与え、領地は返さないとなると、それもそれで。


 そうして、いろいろと理屈をこねくり回した結果、クオーレ領は、ロックハート公爵領内の都市という扱いとなり、都市の長に税を納め、それをロックハート公爵に納めるという形で落ち着いた。

 もっとも、結局として、それも形だけのもので、実態はいままでと変わらない。ただし、都市の長と言う形で、長がロックハート公爵家に在中することになる。


 それがアスセーナさんこと、リリオ・クオーレさんとなったわけだ。


 正直、いろいろとこねくり回した結果、余計複雑になったような気がする。


 まあ、それは置いておいて、実は、最近、お兄様は、アスセーナさんの手助けをするために、ずっとロックハート領のほうに出向きっぱなしなのだ。もしやすると、もしや……かもしれない。





「しかし、お前と言うやつは、学年が上がって早々に何をしているんだ……」


 呆れ顔で王子に、そんなことを言われたけれど、当然、先の一件のことを指しているのはわかった。まあ、事件の後処理なども含めて、大体のことが終わった以上、王子の耳に一通りが伝わっていてもおかしくないというか、当然伝わっているというか。


「わたくしとしては、厄介ごとが舞い込んできたついでに、過去の一件を含め、丸ごと清算しただけです。わたくしから積極的に行動していたら、もっとゆとりある運びになっていました」


 わたしの言葉に、ため息を吐き、「そういうことを言っているわけではないんだが」と頭を押さえる王子。


「それにしても、お兄様は領地にいるのでここにいないのはわかりますが、クレイモアさんは……、新人の教育でしょうか」


 確か、去年……というか「たちとぶ」本編では、クレイモア君が序盤に登場しないのは、騎士の新人訓練で忙しいからと言うことだったはず。今年も同じように新人教育だろうか。


「いや、今年は確かに、去年のこともあって、騎士を多めに雇ってはいるが、クラは別の仕事を言い渡されているようだ」


 ああ、まあ、去年のこと、密偵の件であったり、リップスティークの警備の件であったり、いろいろと思うところはあるから、騎士の増員は納得できる。でも、その教育にクレイモア君が外れているというのは、少し引っかかる。


 増やしたからこそ、クレイモア君がいつもより大忙しと言うのならまだしも。


 いや、ファルム王国との同盟に合わせて、そのあたりの調整とかがあるのだとしたら、クレイモア君が忙しくなるのもおかしくはない……けれど。


「……もし、クレイモアさんが、何かお困りのようでしたら、わたくしに相談に来るようにと、いつでもいいのでお伝えくださいませんか?」


 嫌な予感がするのだ。これは、クレイモア君の身に不幸があるとかではなく、どちらかと言うと、わたしに対しての嫌な予感。


「あ、ああ、それはかまわないが、何かあるのか?」


「どうしてでしょうかね。具体的に言葉にはできませんが、何となく、お兄様のときと同じで、近々、『アレ』がありそうな気がします」


 そう、お兄様のイベントがこの時期にずれ込んだように、ほかの攻略対象のイベントがずれ込むとしたら、クレイモア君のイベントは十分にあり得る。


 特に、騎士を増強する必要がある状況だからこそ、余計にタイミングとしてはばっちりと言うのがどうにも、わたしの本能が警鐘を鳴らしている。

 だけれど、どうせ回避できないのなら、手早く片付けてしまうのが吉。お兄様のときのように、急に持ってこられても困る。


 だからこそ、あらかじめ、「相談に来るように」と伝言をしておく。


 正直、クレイモア君のイベントは、飛ばそうと思えば、一気に解決できるけれど、それでは意味がないので、あくまで「協力」と言う形をとるしかない。


 そして、クレイモア君がアリスちゃんに持ち込んでも、それはそれで面倒くさいので、わたしのところにもってこいと言う意味でも伝言は有効だ。


「また、事件でも持ってくるのか。あまりに連続していると父上の胃に穴があくぞ」


 まあ、去年の建国祭あたりから、陛下の胃には負担をかけっぱなしなので、正直、いつあいてもおかしくはないでしょうけど、今回は、そう言う意味では、陛下の胃には優しいかもしれない。


「いえ、事件ではありません。どちらかと言うと試練と言うべきでしょうかね」


 そう、クレイモア君とアリスちゃんのイベントにおいて、ここに持ち込まれそうなものは、1つしかない。それならば、「事件」ではないのだ。


「まあ、クラへ伝えるくらいはするが、お前に相談したら、それはそれで大変なことになりそうな予感がするのだがな」


 失礼な。わたしほどスムーズに事を運ばせるのに適した人間はいないというのに。何せ答えを知っているのだから。まあ、答えを知っているがゆえのもどかしさ、なんていうのも出てくるかもしれないけれど。


「大変なことにならないための根回しです。スパーダ公爵には、ラミー様を通じて連絡をするとして、そう考えると、こちらも動きに余裕が出てきますか」


 ファルシオン様には、同じ公爵なのだからわたしが直接連絡を取ればいいのだけれど、その場合は、わたしから出た情報が、どこかでクレイモア君を経て、ファルシオン様に届きそうな気がする。


 それを考えると、ラミー夫人を経由したほうがいいだろう。


「ファルシオン公爵が出てくるということは、クラの件は、スパーダ公爵家の問題ととらえていいのか?」


「ですから、問題と言うよりは試練です。スパーダ公爵家に代々伝わる継承の試練とでもいいましょうか」


 クレイモア君のイベントと言えばこれと言うのが、「ウルフバートの継承」だ。そう考えると、クレイモア君が現在任されている別件というのは、試練の準備のために、その期間、このあたりから遠ざける意味もある仕事。


 だからこそ、準備中のいまこそ、いろいろと手を打って、実際に試練が始まったときに、スムーズに終わるようにしたい。


 おそらく、去年のことや4人の伯爵の件も含めて、クレイモア君への継承をしようとファルシオン様は考えているのでしょうけど、それが長引くと、騎士たちのゆるみにつながるし、そうなると、アーリア侯爵家の動きをうまく察知できなくなる可能性もある。


 もちろん、そのゆるみを突いてアーリア侯爵たちが動く可能性もあるにはあるけど、デメリットのほうが多すぎる。


「継承というと……、昔にクラから聞いたことがあるが、それならば、それこそ、クラ自身の力でどうにかするものであって、お前が介入するべきではないと思うがな」


「あくまで、わたくしがするのは試練がスムーズにいくようにするためであって、試練自体はクレイモアさんに任せますよ。そのあたりの調整も含めて、スパーダ公爵とやり取りをするので、ご安心ください」


 もっとも最初は「手出し不要」とでも言われるでしょうけど、その辺は、舌先三寸、言いくるめて見せますとも。


「お前のことだから、考えがあってのことなのはわかるが……」


 そもそも、このイベントに関しては、クレイモア君ルートでのイベントということからもわかるように、「たちとぶ」では、アリスちゃんが協力していた。

 と言うよりも、そこが肝であるのだけれど、そうした意味も含めて、協力すること自体はいけないことではないのだ。


「……何事もほどほどにな」


 そんな王子のつぶやきに苦笑するしかなかった。

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