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166話:ラミー・ジョーカー夫人・その9

 私、ラミー・ジョーカーは、この状況で、ほかの貴族たちの動きを見守っていた。まあ、伯爵たちの件は、カメリアさんが失敗するはずもないだろうから心配ないとして、その伯爵たちを裏から操るものがいるとするのなら、それを明らかにしなくてはならない。


 でも、伯爵たちから洗い出せるかは、正直、微妙なところ。それはカメリアさんが伯爵たちのことは知っていても、その裏から操っているだれかのことは知らなかったから。それなら、そこから情報は出ないと考えたほうがいい。


 しかし、伯爵たちをそそのかせるというほどの立場ともなれば、それなりの地位にあると思う。これは、手引き人が直接、伯爵たちに関与しなかったとしても、その辺の貴族や商人などには、都合のいい……、つまり、計画に乗ってくるであろう伯爵を選定することすらできないだろうし、そもそも、こんな計画を思いつくことも難しい。


 そう考えていくと、自然と伯爵家以上の地位にある家に限定される。もちろん、それだけではない可能性も考えて、全体的に広く調査は行っているけれど、順当に考えるのなら、そのほうがあり得る。


 そうなると、同じ伯爵か、侯爵、あるいは公爵、そして王族。この4つの候補に絞られるけれど、まず王族はほとんどあり得ないといっていい。そうなると、公爵だけれど、透明性のためにそのほとんどがつまびらかになっているロックハート家、クロウバウト家、スパーダ家は無理。ジョーカー家は私が断言するけど、あり得ないわ。


 それで、新しい公爵であるスペクレシオン家。カメリアさんに関しては計画が始まった時点では、年齢の関係で不可能。


 まあ、もともと、公爵家は疑ってすらいないけども。


 そう考えるのなら「侯爵」が一番無難。伯爵たちは王城に集まっているから、この状況で調査しても、大きな動きは見られないでしょうし。


 でも、侯爵なら、大きな問題ではあるものの、逆に数は少ないので調査はしやすい。そういうわけで、ほかの爵位に関しては任せて、わたしは侯爵家を中心に調査をしていたのだけれど、それほど大きな動きはない。


 これは外れだったのだろうか。そうなると、ファルム王国のときのように国外からの接触という可能性を考えるべきか……。


 そう思っていたときに、ある家でちょっとした動きを感じた。


 サングエ侯爵家。


 ここは、今回の一件で、かなり白めに見ていたのだけれど、それでも除外するわけにはいかないので見ていたのだけど……。


 動いたのは、サピロス・サングエ……ではなく、その夫人であるモーガナイトさんだった。彼女の実家も侯爵家であるので、一応と思い、「黄金の蛇」として彼女を追うと、彼女がやってきたのは、実家であるアーリア侯爵家だった。


 アーリア侯爵家。サングエ侯爵家と並び、かなり古くから続く侯爵家。


 気配を殺し、彼女を追うと、どうやらモーガナイトさんは父親に会いに来たようだ。


 ヘリオドール・アーリア。アーリア侯爵家の当主の弟。現状は、当主を補佐しながら、さまざまな仕事をしているらしく、国中を駆けまわっている印象がある。


「どうだった、モーガナイト」


 端的な問いかけに、モーガナイトさんは、小さくため息を吐いてからうなずいた。


「はい、お父様。やはり、ナリーチェ伯爵、ゴーラ伯爵、トラケア伯爵、ポルモーネ伯爵は、おそらく失脚するでしょう。あの状況で言い逃れは難しいと思います」


 ……。当たりかしら。それとも、ただ、情報収集の一環という可能性はある。そう思いながら、話の続きを待つ。


「なるほど。まあ、無理もない。ジョーカー公爵家と、新しい公爵殿が探りを入れていたというのだから、その時点でこうなるとは思っていたが、思ったよりも早かったな」


 その確認だけが目的だったのか、ヘリオドールは、モーガナイトさんに下がるように指示を出し、彼女もそれに従って、すぐにサングエ侯爵家へと戻っていった。


 この程度、直接会わなくてもいいやり取りにも見えるが、むしろ、同じ王都内にあるのに、手紙でばかりやり取りをしているほうが不自然ではあるし、そのあたりを考慮しているのでしょうね。もっとも、そう考えるのなら、滞在時間が少なすぎるけれど。


 そんなことを考えていると、ヘリオドールの元に、アーリア侯爵……、現当主のエスメラルド・アーリア侯爵がやってきた。


「やはり、あの4人はもうダメか」


 特に気にした様子もなく、あっけらかんとそう言いながらヘリオドールを見ているけど、ヘリオドールは肩をすくめて言う。


「もともと、そろそろ切り捨てる気でいたのだろう。実験が成功して、確度も高くなってきた以上、あいつらはただの邪魔でしかないのだから」


 ……やっぱり、アーリア侯爵家が裏で手引きをしていたということでいいみたいね。それにしても、そろそろ切り捨てる気でいた。それはウソではないのでしょうね。助けるつもりがあるのなら、私やカメリアさんがサングエ侯爵家に来ていた時点で、モーガナイトさんからの情報を受けて動いていてもおかしくない。


「ああ、やつらも、それに研究室の連中も役割は終わった。むしろ、こちらからは、いつどうやって切り捨てたものかと考えていたのだが、その手間が省けたから新しい公爵殿には感謝だな」


 カメリアさんが主導だと思っている。これは少し意外だった。何せ、私がいろいろと動いていたし、私かサングエ侯爵に目が向くと思っていたのだけれど。


「新しい公爵殿?

 ジョーカー家の公爵夫人ではなくてか」


 私と同じようなことを思ったのか、ヘリオドールもアーリア侯爵に問いかけるけれど、彼は苦笑いをして答える。


「ああ、新しい公爵殿だ。資料の持ち出しというきっかけはあったものの、それでここまで早く物事が展開するのは、いままでのラミー・ジョーカー公爵夫人の動きではない。彼女は証拠を集めて、確証を得てから動くことが多いだろう。あの資料だけでは不十分だ」


 確かに、いままでの私はそうだったと思う。いまは、カメリアさんという知恵袋があるから、そこで確証を取りやすくなっているから格段に動きが早くなったけれど。


「だから、物事が早く展開しているのは、新しい公爵殿が主導しているからだと?」


「昨年の出来事やファルム王国との同盟までのことを考えると、一年で大きく動きすぎる。逆に言えば、一年で大きく動かすほどに、新しい公爵殿の手が早いのだろうさ」


 あれは、いろいろな準備の上で、大きく動かしたのだけれど、確かに動き自体はそう見えるでしょうね。なるほど、それでカメリアさんが主導だと。……でも、そう考えるのは少し不自然にも見える。

 どちらかというと、別の可能性を考えるほうが自然ね。


「だが、今回の件で言えば、クオーレ家の一件ですでに怪しまれていて、調査が進んで、証拠が集まっていたという可能性はないか?」


 そう。まだよく知らないカメリアさんを信じるよりは、その可能性を考えたほうが自然。どちらかと言えば、年齢のこともあって、そこまで全幅の信用をしないほうが貴族としては正しいと思う。


「その可能性がないとは言わないが、あれから十数年だ。あの頃から確証を得て、明確な証拠を集めていたのなら、もっと早くに片が付いている」


 いや、まあ、疑ってはいたけれど、証拠は中々つかめなかった。でも、そう、証拠がつかめていたのなら、こんなに長く引っ張ってはいないでしょうね。とっとといらないものは潰してしまうでしょう。


「研究が有用だと踏んで、研究が完成するまで待っていたとか」


「それもないだろう。陛下の性格も合わせて考えるなら、とっとと4人を裁いて、有用そうなら人体実験などを行わない範囲で、研究をどこかに引き継がせはしようとするだろうが、危険な実験を有用そうだからと野放しにするような方ではないさ。

 特にクオーレ家のこともあったうえで、だからな」


 よくわかっているじゃない。まあ、その成り立ちを考えれば当然といえば当然なのでしょうけれど。


「しかし、信じがたいな。兄さんはどうしてそこまで新しい公爵殿を信用しているんだ」


 なんとも直接的な問いかけ。だけど、情報を引き出したいという私の思惑としては非常にありがたい質問。アーリア侯爵はなんて返すのかしら。カメリアさんの行動を調べたとか、陛下が言っていた同盟の立役者というのを信じてとか、いろいろと考えられることはあるけれど、どれもいまいち。


「ああ、彼女はおそらく『聖女』様と同じように神託を受けているか、そうでないにしろ、類似の何かを持っているだろう」


 聖女……。確か、「黄金の蛇」の継承のときの文言に含まれていたはず。でも、具体的にそれが何か、アーリア侯爵が知っている?

 カメリアさんにあとで聞くべきでしょうね。彼女は継承のことも知っているし、聖女というものに関しても詳しく知っているかもしれない。


「いまだに信じ切れていないのだがな、それのことも。まあいい。それで、ようやく次の段階に進めるのだな」


「ああ、『レアクの遺産』……、かの人形に再び息吹を与えるための『キュイ計画』にな」


 話はそこで終わる。それ以上の大きな収穫はなかったものの、十分な情報は得られた。


 裏から操るものの正体とその目的らしきもの。これがわかれば十分でしょう。

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