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165話:作戦決行・その2

 王城で、わたし、カメリアは、4人の伯爵と話しをしている陛下を見ていた。陛下は、なんとも言葉に困った様子……という演技だろう。というより、陛下がこの状況を想定していないとは思えない。


 だから、これからおそらく、いろいろと話を展開するための準備として、そう演じているのだろう。そもそも、陛下ともあろう人が、そんなにわかりやすい様子を見せるはずがない。


「ほう、しかし、これはサングエ侯爵には悪いことをしたか……」


 などとわざとらしくつぶやく陛下。4人はもちろんのこと、その場の全員が陛下の言動に注目している。


「いや、なに、この資料のことをサングエ侯爵に話したら、融資金が不正に使われているかもしれないと、調査をするといっていたのだが、改ざんされた資料をもとに調査は難しいだろうなと思っただけだ」


 これは、「サングエ侯爵が調査を行った」ということを遠回しに教えるためだろう。まあ、確かに、彼らの言い分であるところの「自分たちに罪を着せるために」というのが事実なら、資料は改ざんされていたことになる。どこまで真実かわからない、信ぴょう性のないもので、調査をさせたのでは、サングエ侯爵に悪いことをしたという言い分は間違っていない。


「は、はあ、サングエ侯爵が……」


 ゴーラ伯爵は何かを言いたげに、そんなことをつぶやく。それは、非常に微妙な顔をしていた。つまるところ、どこまで調査の手が伸びているのかという不安と、秘匿研究室なら大丈夫だろうという自信がせめぎあっているような状況なのだと思う。ほかの3人もその割合は違えど、大体似たような感じ。


「そういえば、サングエ侯爵が魔法学研究棟を調査なさるのは本日でしたね。時間を考えれば、すでに調査を行っているか、終わっているかもしれません」


 わたしはあえて、そうやって話に入り込む。本来、陛下がお話ししているところに、口を出すというのは、不敬極まりないのだが、それはわざとである。


 陛下が時間を稼ぎたいのか、追求したいのかがわからないけれど、時間を稼ぎたいのなら「不敬」のほうへ話を発展させて時間を稼げばいいし、追求したいのならいまの発言を使って広げていけばいい。どちらに対しても使えるように、あえてわたしが発現したのだ。


 ほかの公爵たちだと、「不敬」の方へ話を持っていきづらいだろうし、新米で一番年下のわたしなら、伯爵たちからもなめられるという意味でも持っていきやすいだろう。


「ああ、そうだったな。ふむ」


 陛下がそこから話を広げようとしたときに、扉が開かれた。そして、サングエ侯爵とともに、資料を持った数人が入ってくる。


「陛下、ご無礼をお許し下さい。早急に報告しなくてはならないと思い」


「よい。事前に、その許可は出している」


 もちろん、出している。というよりも、こうなるのだから、あらかじめそうした手配はしていた。それをここでこうして声に出してやり取りするのは、ほかの伯爵たちがそのことを言及して、いらない時間を使うのを避けるためであろう。


「はい、本日、国立魔法学研究棟を調査したところ、地図などには存在しない秘匿された研究室を発見いたしました。偶然にも、陛下の勅命で、王立魔法学園と国立魔法学研究棟をつなぐ地下通路の調査をしていたベゴニア・ロックハート殿の協力のもと、その研究室を調査した結果を申し上げます」


 ここで、あえてお兄様の名前を出したのは、サングエ侯爵「だけ」ではないというか、それだけだと弱いので、そのためだろう。


「その場にあった資料および研究員の証言などから、危険な魔法実験を伴う研究が行われており、その資金提供を行っていたのがナリーチェ伯爵、ゴーラ伯爵、トラケア伯爵、ポルモーネ伯爵の4人の伯爵であったこと、十数年前に、その実験に反対をしたクオーレ伯爵を追放するために罪を着せたことなどが明らかになりました」


 ここで彼らがとる行動はおそらく、「資料同様に書き換えられた」というものだろう。自分たちをハメるためにと。


「そ、その証言は、その研究の告発をしようとしていた我々に罪を着せるために偽造されたものだ!」


 なんともまあ、予想通りというか。だけど、これに関してはバカと言わざるを得ない。特に、相手がサングエ侯爵だとわかっているのにも関わらずその発言をしたことは、まさしく。


「なるほど、これが偽装だと」


 やれやれと肩をすくめて、呆れたように息を吐くサングエ侯爵。まあ、そのような反応になるのも当然といえば当然か。


「この資料を発見してすぐに、この4つの伯爵家への融資金の流れを調べ、その動きを徹底的に洗いました。かなり複雑な道筋でしたが、資料と一致するようにかなりの額が、あの研究に流れています」


 もちろん、それを調べることなど、サングエ侯爵にとっては造作もないことだろう。それに、資料を発見してから調べたというが、当然、この作戦の概要を話した時点で動き出し、調べていただろう。


「そ、それも」


「これも偽装だと。それはおかしな話だ。当然のことですが、この研究はかなり長期間にわたって行われています」


 前半の敬語ではない部分は、伯爵たちに向けたもの。敬語の部分は、陛下に説明する意図があるため敬語なのだろう。


「つまり、十数年にわたり、その資金の流れがあるのは間違いありません。これに気が付くことができなかったのは当家としても非常に情けない話ですが、つまり、これが偽装だというのなら、十数年前から4つの伯爵家に罪を着せるように動いていなくてはおかしいのです」


「ほう、それは、先ほどの彼らの証言と食い違うな」


 最近告発しようとしたために資料を改ざんされたという主張と、十数年前からというのは食い違う。


「そ、それは……」


「それに、偽装だというのなら、わざわざこのような遠回しな資金提供の流れにする必要はないでしょう。なぜなら、それは偽物なのですから。それなのに、わざわざ複雑にしているのも不自然です」


 資金の道筋を偽装したというのなら、もっと直接的に結べばいいはずだ。そうでないのなら、意味がない。何せ、彼らを罠にハメるためだというのに、その資金提供の道筋に気付かなければ偽装の意味がないのだから。


「まあよい。これが偽装されたものだというのなら、それでもよい。ただ、徹底的に調べさせてもらうがな」


「なっ」


 4人の伯爵が反論の声を上げようとするが、それを遮って、陛下は言葉を続ける。


「なに、無実なのだろう。それならば、協力してくれるはずだろう?」


 つまり、ここで協力しないということを選べば、必然的に「偽装だ」という主張がウソだったということになり、結果、調査されるだろうし、協力を選べば徹底的に調査される。どっちにしろ詰み。


「いや、しかし、すでに我々の屋敷などに侵入して、偽物の証拠などを……」


「ほう、そのようなことができるほどの大規模な組織が動いているとなれば、やはり、より一層調査をしなくてはならないだろう」


 この短期間に、証拠をねつ造して、4つの伯爵家を貶めることができるだけの大規模な組織だというのなら、それこそ調査が必要だ。つまり、どのみち、調査はしなくてはならないということである。

 この状況で彼らの取れる選択肢は少ない。ウソを貫き通すか、ここで自ら明かすか。


「もう、やめにしないか……」


 そう口を開いたのは、ポルモーネ伯爵であった。それに対して、「何を言い出す」とか「正気か」と言うほかの3人だけど、ポルモーネ伯爵は続けた。


「お前たちこそ正気か。この状況、サングエ侯爵の段取りの良さ、どう考えても、あらかじめわかったうえだ。我々が陛下を謀ろうなどというのは、最初から無理だったのだ」


 冷静に考えれば、この状況自体が罠であり、そして、罠にハメるような状況で、証拠があのような資料だけのはずがない。そう考えるのなら、ここからどれだけあらがっても無駄であり、むしろ、自分たちの首を絞めていくだけだ。


「それは……」


 目を伏せ、口を結ぶ。さすがに、ほかの3人も理解しているだろう。だからこそ、黙るしかないのだろうが……。


「申し訳ありません陛下。かの研究に資金を流していたのは事実です」


 最終的に、4人そろって陛下に謝罪した。まあ、黙ったままであとからバレるよりも、いまここで正直に話せば心証がいいと判断したのだろう。


 もっとも、おそらくどうあっても相当重い罰が待っているのは間違いないだろうけど。だって、クオーレ伯爵の爵位を失わせているのだから、最低でもそれ以上の罰が待っていなくてはつり合いが取れない。


「さて、では、もっと詳しい話を聞くとするか」


 そう言って、陛下は、その場にいるほかの伯爵たちには「当初の想定通り、交友、情報の共有に努めるように」と言って、4人を連れて、サングエ侯爵とともに出ていく。当然、わたしやほかの公爵たちもそのあとをついていくのだけれど。

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