表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/275

162話:作戦決行・その1

 あれから数日後、いよいよ準備が整ったとして、わたしたちは、その作戦を決行に移す段階にまで来ていた。


 陛下から正式に、「ロックハート家」へ、王立魔法学園の地下通路調査に対する依頼が出されて、それをお父様が受け、調査の指揮および監理としてお兄様が指名され、調査員の選定がなされた。


 もちろん、この選定された調査員というのも、ほとんどはロックハート家の人員で、そのほかに、ジョーカー家からも少し、そして、そこにアリスちゃん。


 わたしがアリスちゃんをねじ込んだわけだけれど、それを知っても、ラミー夫人は特に驚きを示さなかった。

 そして、地下通路の調査依頼とほぼ時を同じくして、陛下は、伯爵各位に招集の命を下した。その招集日こそが決行日となる。


 そこからさらに、サングエ侯爵を交えて、最終確認が行われて、その翌日、いよいよ、作戦が決行される。





 王城のホールに伯爵たちが集まっていた。とはいうものの、伯爵の総数はそう多くない。それでも伯爵たちが一堂に会する機会など、そうないことだ。それだけに、伯爵同士で挨拶や交友を深めようというものもいるが、多くは「これから何が起こるのか」と警戒している様子だった。


 もちろん、表向きの名目として、「国内情勢の変化に伴い、交友、情報の共有の場を設ける」というものがある。


 これは、ファルム王国との同盟などにより、国内の情勢が大きく変わった。そのため、貴族としても、そして、領地に住まう領民たちにとっても、影響は計り知れない。だからこそ、情報の共有であったり、いま一度、貴族同士での交友を深める場であったりは非常に大事な意味を持つ。


 それ自体は、まぎれもない事実として、陛下やわたしたちの考えにもあるものだけれど、今回の場合は、それを建前として利用したに過ぎない。


 本来、そうした場を設けるのなら、もっと段階を踏むべきであり、最初から伯爵たちを集めるなどという大規模で行うのは、いささか急きすぎである。

 だからこそ、警戒する貴族が多いのだろう。何か裏があるのではないかと。


 その様子を見つつも、問題の4人の伯爵、ナリーチェ伯爵、ゴーラ伯爵、トラケア伯爵、ポルモーネ伯爵が揃っているのを確認した。


 一塊になることなく、それぞれがばらけているのは、あえて表では関わらないようにしているのだろうか。……いや、クオーレ伯爵の件で組んでいるのはわかっているのだから、あえてそんなことをする必要もないとは思うのだけれど。

 それに、資料の流出も確認はしているはずだし、そのことについて話していてもおかしくない状況だと思うけど、そんな様子はない。一応、サングエ侯爵の元に「魔法学研究棟から秘匿性の高い研究の記録が盗まれた」という趣旨の書面が届いたが、あれはナリーチェ伯爵の名義だったはず。


 あの後、ラミー夫人が軽く調査して回った感じだと、おおよそ、似たような書面が各所に回っているわけで……。


 まあ、考えていても仕方がないか。


 陛下が合図を出し、わたしを含めた公爵たちがそれに静かにうなずき、陛下に続くように、公爵たちが移動する。わたしは、年齢や叙爵の歴などもあって、一番最後を歩く。


 陛下と、そして公爵が勢ぞろいしているという状況に、伯爵たちのどよめきが聞こえる。その反応も仕方がないだろう。だけれど、陛下はあえてジェスチャーで楽にするように指示をする。

 まあ、この場で一斉にかしこまられて、跪かれても困るし、あくまで交友の場というていで進めるのだろう。


「何、そう緊張せずともよい。ここは交友の場だ。好きに言葉を交わすといい」


 そういうものの、陛下を前にして、先ほどまでのような状態に戻れるはずもなく、視線で、「どうしたものか」というようなやり取りをしているのが伝わってきた。

 そこに、陛下が続けるように口を開く。


「ただ、交友、情報の共有とはいえ、何か題材がないと話しづらいかもしれないと思って、1つ、話題になるようなものを持ってきた」


 そう言って陛下が掲げたのは、アスセーナさんが持ち出した資料である。それを見たときの4人の反応は様々だった。しかし、特にナリーチェ伯爵は動揺が隠せないようである。手に持っていたものを落としそうになるくらいには驚いたのだろう。

 ほかの3人も、それほどではないにしろ、少なからず動揺があり、それぞれが目配せで何やらやり取りをしているのはわかる。


「これは、先日、ある経路をたどり持ち込まれた魔法研究の資料だ。しかし、ただの資料ならいざ知らず、そのような研究、全く報告に上がってきていなかったのだ」


 魔法研究の大半は、陛下にも情報が上がってくる。正確には、国からの研究資金が入って行われているのなら、その記録が必ず残り、それが陛下にも結果として届くというわけだけれど、しかして、この「ルイン計画」というものに関しては、陛下は知らなかったのだ。


「時に、ナリーチェ伯爵。『魔法学研究棟から秘匿性の高い研究の記録が盗まれた』という趣旨の書面を回していたようだが、もしかしてこれのことか」


 あえて、少し間を空けてから、ナリーチェ伯爵のほうを見て、陛下がそのように聞く。それに対して、ほかの3人の顔色をうかがうためか、一瞬目をそらそうとしたものの、陛下に見られている状況で、露骨に目をそらすということがどういう意味にとられるのかを考え、思いとどまったのだろう。


 まばたきが多い。いや、それは、まあ、陛下に名指しと問われれば、緊張をし、まばたきが増えるのは必然ともいえるかもしれないが、それでも、多すぎる。


「い、いえ、ああ、その……、いえ、はい。そ、その通りでございます」


 わたしは、あえて、ナリーチェ伯爵ではなく、ほかの3人の様子を注視する。顔をしかめる、少し後退る、唇を噛む、反応はそれぞれであったが、どれもあまりよくない反応であることは間違いなかった。


「では、ナリーチェ伯爵、ゴーラ伯爵、トラケア伯爵、ポルモーネ伯爵。以上、4名がこの研究および実験に関わっていると書いてあるのだが、事実かね」


 それに対して、4人は口を開かなかった。


 しばらくの沈黙、4人以外の伯爵たちも状況は呑み込めていないものの、どうしたことだと顔を見合わせている。


「そ、それは、その……、その資料を盗んだものが、我々に罪を着せるために!」


 ナリーチェ伯爵がそう声を上げた瞬間、ほかのものたちがざわざわと話し出す。小声ではあるものの、「どういうことだ」というような感じに、声に出して、周りと確認を始めたのだ。

 それに対して、なぜという感じの4人であるが、当然も当然である。まあ、陛下がそうなるように誘導していたという面も強いので、陛下がだいぶ上手だったということか。


「罪を着せる、か」


 陛下が口を開いたことで、ざわめきは止まり、再び静かになる。


「ナリーチェ伯爵、書面を出したということは、少なくとも研究や実験の内容を把握していたはずだな。そして、『罪を着せる』ということは、その実験が危険なことであることも把握していたということになる」


 別にここまで陛下は、研究について自分の元にまで届いていなかったことやその研究の資料が盗まれたという書面をナリーチェ伯爵が出していたことについて話をしたが、別にその研究が危険な研究であるなどということを口にはしていない。

 だが、自ら「罪を着せるために」などと口走ったために、悪事であると知っていることが露見してしまった。


 このことから、いま、2つの可能性が浮上する。


 1つは、研究が危険なものであると知りながら、そのことを把握していたが、それを国などには一切報告することなく見過ごしていた。


 もう1つは、「罪を着せる」というのがウソで、資料通り研究に関わっていた。


 前者ならば、言い訳せず、報告しなかった理由を言えばいい。もっとも、危険な研究を報告しないメリットとして納得させられるものがあるのならば、であるけども。


「いえ、それは……」


 言葉に詰まるナリーチェ伯爵。これについて、素直に吐くか、見苦しくも言い訳をするかという状況であるが、しかして、4人が現状考えていることと言えば、おそらく、「証拠はあの資料だけ」というものだ。


 そう、わたしたちが握っている証拠はあの資料だけ。それならば、資料についてどうにかごまかすことができたのならばやり過ごせる、そう思ってもおかしくはない。

 特に、秘匿研究室というものに自信があるのならなおさらそうだろう。


「これは、そう、クオーレ伯爵の一件と同じように、あの研究が続けられているということに気が付き、その証拠を得るために研究を調べ、資料を持ち出すことに成功したのですが、何者かに奪われ、それでその資料を探すために書面を回していたのです」


 なるほど、即興の言い訳のわりにどうにか筋を通そうとしているのは伝わってくる。これで、書面の件と研究のことを知っていた件については話したことになる。


「奪ったものがどこのだれかは存じませんが、おそらく、研究を探られているとわかり、我々が再び暴こうとしているのを知り、邪魔だからと我々に罪を擦り付けたのです」


 まあ、本当にそうなら、書面を回すなんてことをナリーチェ伯爵自身がやらずとも、国に報告をし、国から通達をしてもらえば、より効力が高く、確実な捜索ができるのだから、「なぜ国に報告しなかったのか」の説明にはならない。


 しかし、陛下はあえて、そこには言及しなかった。


 いまの発言を崩すこと自体は不可能ではないのだが、あえてそれをしない意味は、時間稼ぎか、それとも後で完全に崩すためか。


 おそらく、彼らのこれからの言い分としては、この話を通して、もし、秘匿研究室のことを明かすことになったとしても、案内するまでに証拠を隠滅させて、「我々が気付いたことを察して先に逃げられてしまったようです」とで持っていくのだろう。


 さて、その肝心の秘匿研究室のほうの証拠はどうなっているだろうか。お兄様やサングエ侯爵がしくじるとは思っていないけれど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ