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146話:スペクレシオン公爵・その1

 授与式はつつがなく終わった。というか、そんなに時間のかかるものではなく、わたしの印象に残ったのは、久々に顔を見たお父様の何ともいえない顔だけだった。


 まあ、そんな顔になるのも納得のいくことなので、特に言及することはなかったけれど、しかし、元気そうでよかった……。かなり心配をかけたとは思っているので、今度、じっくり会わなくてはならない。





 そんな授与式のあと、わたしは、初めて、「スペクレシオン公爵の屋敷」に通されるのだった。カナスタさんは調度品や荷物の運び込み、新人教育などの関係で、数日前まで仮の屋敷とそちらを往ったり来たりしていたけども。


 スペクレシオン公爵の屋敷は、ロックハート家の屋敷に比べると、少し小さいけれど、十分に大きい屋敷と呼べるほどの広さであり、わたし1人では確実に持て余すほどのもの。


 まあ、使用人たちもいるので、わたし1人というわけではないのでしょうけれど、それでも広い。


「お帰りなさいませ」


 わたしが屋敷に足を踏み入れると、待っていたのでしょう。カナスタさんが深々と頭を下げて、わたしを迎え入れてくれた。ほかの使用人たちは、それぞれ与えられた仕事をしているのか、姿は見えない。


「ええ、ただいま。などと、初めての家で言うのは不思議な気持ちですね」


「ですが、今日から、ここがカメリア様の屋敷なのですから」


 そう、今日から、わたしがこの屋敷の主になったのだ。それはわかっていても、なんというか、実感もないというか、不思議な感じだ。

 そも、この年齢で一屋敷の主人になるなどというのが、あまり現実味の無いことだからかもしれない。


「お疲れでしょう。ひとまず、お部屋へご案内します」


 カナスタさんはそう言って、わたしの荷物を持ち、案内をしてくれる。そこまで疲れているわけではないけれど、まあ、部屋が見ておきたいのもあって、そのまま案内に従った。


 通された部屋は、広さもあり、かなりいろいろ置けそうではあるものの、現状、ベッドとテーブルと本棚くらいしかない。まあ、それで十分なのだけれども。ここにインテリアとしてごちゃごちゃ置いても、雑多な部屋になりそうだし、とはいえ、このままだと寂しい部屋でもある。……難しいな。


 ちなみに、家具の調度は、クラシカルな感じで、いわゆるアンティークに近いものが多いのか、わたしよりももっと年齢の高い人に合いそうな雰囲気のものである。まあ、公爵という「位」の高さに合わせたものを買うと必然的にそのようになってしまうのだろう。

 わたしがそれに見合うようになればいいのか、それとも、家具を合うように変えていけばいいのか、おそらく前者のほうが正しいのだと思う。


「ご所望のものがあれば、ある程度なら用意するといわれておりますが」


 カナスタさんの言葉に、わたしは苦笑いしながら「いえ、いまのところはないです」と返した。本来なら「あれも欲しい」、「これも欲しい」と言ってしかるべきなのかもしれないけれど、特に欲しいものもないのに、そんなことを言ってもなあと。


 これは別に、わたしに物欲がないとか、そんな高尚なことではなく、本当に欲しいものが手に入らないものだから、結局のところ「特にない」で落ち着いているだけなのだ。だって、「テレビゲーム」とか言ったところで、だれにも用意できないでしょう?


「それでは、食事の用意ができましたらお声がけいたしますので、ごゆるりとお休みください」


 カナスタさんはそう言って下がっていった。しかし、そんなに疲れてはいないので、ゆっくり休めと言われたところでなあ……。




 そう思っていると、部屋のドアがノックされたので、声をかけて通す。すると、見慣れない使用人が頭を下げて現れた。


「はじめまして、カメリア様。自分は、使用人のソノと申します。拙いところもあると思いますが、これからよろしくお願いいたします。それでは、お休みのところ失礼いたしました」


 そう言って、再び頭を下げると、彼女は返っていった。

 ソノは、どことなく、無機質というか、いかにもな使用人という感じの雰囲気で、自分を殺しているとまでは言わないけれど、淡々と業務をこなしてくれそうな感じがした。……まあ、あくまで第一印象ではの話だけど。


 ほかの使用人も挨拶に来るのかと思ったら、結局、来たのはソノだけで、ほかは来なかった。いや、別に来いと命じたわけでもないのだから、それでいいのだけれど。


 ソノはあくまで、個人的に、挨拶だけはしたほうがいいとでも思ったのだろうか……。


 その後、ご飯のタイミングで、ソノを含めた4人の使用人がカナスタさんによって紹介された。本当はほかにもいるのだけれど、交代のタイミングだったり、ほかの仕事をしていたりということで、別の機会に紹介するそうだ。


 ソノのほかに、ピケ、ミゼ、ルカの3人。


 おそらく彼女たちもまた、トランプのゲームが名前のゆらいになっているとは思うのだけれど、そんなに詳しくないこともあり、パッとどんなゲームとかそう言うことがわからない。……もしかしたら、ジョーカー家の関係者だけど、命名法則から外れている可能性もあるので、絶対にそうとは言えないけれど。


 ピケは明るい感じで、性格で言えば、アリスちゃんとかに近い感じがする。使用人というよりは年相応の子供という感じがするけれど、それでも、まあ、仕事をしてくれるのだったら、わたしは特に気にしない。


 ミゼとルカは、なぜこうひとくくりで言ったかといえば、その容姿がよく似ているからだ。彼女たちの説明では、別の孤児院からそれぞれジョーカー家に拾われたそうだけれど、双子といっていいくらいにそっくりだ。

 親が、別の孤児院に捨てたのか、それとも本当に偶然似ているだけなのか。それはわからないけれど、仲良くやっているようだ。

 まあ、わたしとしては、見分けがつきにくいのであまりうれしくはないのだけれど、わざわざ2人を分けて雇う雇わないとするのも、それはそれで微妙な気分になるので、これでいいでしょう。


 ちなみに、彼女たちの教育係の役割を含めて、ジョーカー家から派遣されてきた2人の使用人は、現在、ジョーカー家のほうにいるらしい。一応、何度か屋敷には来ていたようだけど、本格的にこちらに来るのは、いまやっている仕事の引継ぎを終わらせてからだそうだ。


 その間は、カナスタさんが教育係として、中心に立っているらしい。


 2人が来たら、本格的に、その2人に教育係の役割を渡して、わたしの仕事のサポートも含めた役割になるらしい。いわゆる、王子に対するウィリディスさんのような感じで。


 そこまでしてもらわなくても……、と思うものの、カナスタさんたっての希望というし、張り切っているのを見ると断るわけにもいかず……。


 ちなみに、王子に関しては、ウィリディスさんが産休ということもあり、……本人は働く気満々だったけれど、第二夫人として公表したこと、妊娠を公表したことで、「その状態で働かせるとは何事だ」というような声が上がることも考えて、納得してもらったうえで産休状態なので、使用人がついて回るということも若干、少なくなりつつある。


 なんというか、逆になった気分になるので、あんまりうれしくない。いや、いままでのままがいいとかそういうわけでもないのだけれど、王子よりも偉くなったような、そんな感じなのはどうにも性に合わない。まあ、実際は偉くなんてなってないんだけれども。





 そんなことを思いながら、食事を終えて、部屋に戻り、ベッドに座っていると、ドアがちょっと強めにたたかれる。なんだろうと思いながらドアを開けると、


「カメリアさま、お手紙です!」


 とピケがわたしに一通の書状を渡してくる。どうやら、面倒がやってきたようだ。






 書状に目を通すと、明日に登城するようにという連絡と、もしかしたら、この屋敷に、ほかにだれかを住まわせることになるかもしれないというひどくあいまいなものであった。


 あいまいにならざるを得なかったということと、結構急な用件ということを考えれば、明らかに厄介なことが起きているのだとわかる。


 幸いなのが、すでに、同盟の公表も終わっていることであろうか。しかし、それに関係した厄介ごとという可能性もあるし……。


 まあ、考えていても仕方がないので、明日、王城に行ってから考えればいいか。そう思って、書状を机に置こうとしたとき、サインの欄に「シンシャ・ニ・ミズカネ」という文字を見て頬が引きつった。


 姓が「ミズカネ」になっているのは皇帝に即位したからであろう。シンシャさんだ。ということは、この厄介ごとは特大級の厄介ごとなのではないかと、わたしの脳が危険信号を放つ。


 だけれど、わたしが対応しないわけにもいかないだろう。そして、あいまいになっていた理由も何となくはわかる。何せ、ミズカネ国に関して、詳細を知るものは、この国にはほとんどいないのだから。


 さて、なにが待っているのやら。

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