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141話:ラミー・ジョーカー夫人・その7

 王城の会議室。小さな会議をするための部屋であり、貴族をかき集めて会議をする部屋とはまた別の会議室。そこで、私、ラミー・ジョーカーは、ほかの公爵たちが集まるのをユーカー・ジョーカーの代理として待っていた。


 これから始まるのは、同盟に関する説明……というか、上層部で同盟について知っていたということにするための場。


 というのも、同盟を以前から秘密裡に進んでいたことにするにしても、陛下だけの独断でやっていたというわけにはいかない。


 だから、公爵家までは知っていたということにして進めるべきだろうということになった。


 まあ、そもそも、同盟に関しても、ほぼその場で決まった雑な案がそのまま通るという、どうなっているのかさっぱりわからない状況なだけに、私としても無理があると思いつつも、どうにかこうにかやりくりして通すしかない。


 そうこうしているうちに、ファルシオン、トリフォリウム、グラジオラスの公爵3人が揃い、陛下も来て、準備が整った。


「忙しい中、よく集まってくれた」


 彼のその言葉に、ほかの3人はそれぞれがそれぞれ、思うところがあるような顔をした。特に、微妙な顔をしていたのがグラジオラス。まあ、カメリアさんのことがあるから当然といえば当然でしょう。


「今回は、少し話さなくてはならない議題があって、招集させてもらった」


 その言葉が終わるか終わらないかくらいのタイミングで、グラジオラスが挙手をする。聞きたいことがあるのはわかり切っている。仕方ないので、私が口を開く。


「今回の議題は、あなたの聞きたいことにも関係しているわ。そう急かないで」


 私のたしなめに、グラジオラスだけではなく、ファルシオンもトリフォリウムも微妙な顔をしたのは、「自分が知らない今回の議題を知っている」ということが引っかかったからだろう。

 グラジオラスは渋々といった表情で「失礼しました」といってから挙手を取り下げた。


「では、よいか。この度の議題は、『ファルム王国との同盟について』だ」


 その言葉に反応を示したのは、トリフォリウムだった。目を見開き、「正気か」とでも言いたげな顔をしてから周りの反応をうかがい、発言する。


「ツァボライト王国の件を忘れたのですか。ツァボライト王国と深い関係にあった我々がそれを滅ぼしたファルム王国となど……。親ツァボライト派のものが聞いたら……」


 その懸念はわかるものだ。現に、それを考えて、ファルム王国とは対立関係が続いていたのだから。まあ、厳密に言えば、対立ではなく、こちらから警戒していただけなのだけれど。


「そもそも、こちらから同盟を提言しても飲んではもらえないでしょう。向こうからの提案なら、その……、こういう表現は不適格かもしれませんが『怪しい』と言わざるを得ないかと」


 一応、国家相手だからか、気を遣ってか、「怪しい」というのにも抵抗があったようだけれど、グラジオラスもそう言った。


 ファルシオンは発言こそしないものの、信じられないという表情。まあ、無理もない。ファルム王国からと思しき密偵のことは知っているのだから、それがあったうえで同盟などとてもじゃないけれど信じられないでしょう。


「ツァボライト王国の件と言ったな。忘れたわけではない。いまでも強く覚えている。親ツァボライト派だったな。ある程度ならそれも抑止できる。いままで非公表にしていたが、……第二夫人がいるのだ。名をウィリディス・ツァボライト。彼女も同盟には賛成してくれている」


 その衝撃たるや、呑み込むのにどれだけ時間がかかるかと言った様子。特に、ファルシオンが。ファルシオンは、第二夫人の存在そのものは知っていた。だからこそ、それがただの女性ではなく、ツァボライト王国の王族だったということに驚いている。


「第二夫人がおられたとは初耳です。それも、あのツァボライト王国の王族が……」


「本来なら、公表する気はなかった。目的としては、彼女を匿うという意味合いが強かったからな。だが、ファルム王国との同盟と、そして、彼女の妊娠ということもあり、公表することになったのだ」


 おそらく、3人には、公表とファルム王国との同盟の明確な因果関係は見いだせていない。でも、ファルム王国が滅ぼした国の人間となれば、敵対関係のときに公表できないという何となくのニュアンスはつかめているでしょう。


「ご懐妊なされたのですか。それはめでたい」


 とトリフォリウムが一応、素直に祝ってくれる。まあ、内心でどう思っているのかはわからないけれど。


「ジョーカー公爵夫人は知っておられたのですか?」


 場所を考えて、そのような呼び方で、ファルシオンがわたしに問いかけた。まあ、議題を知っていたこと、まったく驚いていないことなどから何となく、それは予想できるでしょう。


「ええ。そうね。……それこそ、少しばかり、話は逸れるけれど、あなたの娘に関係しているのよ、グラジオラス」


 問いかけてきたファルシオンではなく、グラジオラスに向けて、わたしはそのように静かに語る。そして、カメリアさんの話題になったためか、グラジオラスの表情は険しいものになっていた。


「そもそも、私が第二夫人、ウィリディス・ツァボライトのことを知ったのは、カメリアさんに教えてもらったからなの。私と彼女が初めて会ったその日に、陛下以外だれも知らないはずのそのことを」


 ひとまず、処刑のこととはまったく関係のない話だからか、グラジオラスの表情は「本題ではない」という思いがありながらも、聞いているようだった。


「あれは、驚いた。第二夫人ということだけならば、ファルあたりがうっかりということもあるが、その身分もとなれば、確実に『知り得ない』ことだったからだ」


 一応、本筋から逸れているからか、ファルシオンのことを愛称で呼びつつ、苦笑する彼。まあ、本当に「知り得ない」ことだったのから、当時はこんな苦笑いも出来なかったでしょうけど。


「まあ、ウィリディス・ツァボライトのことは置いておいて、私と出会ったカメリアさんがほかにも『知り得ない』ことを教えてくれた。それが、カメリアさんが処刑されるか、ファルム王国との戦争で死ぬかもしれないということ」


 グラジオラスが目を見開く。ファルシオンやトリフォリウムも怪訝な顔をした。そして、口を開いたのはトリフォリウム。


「では、その時点で、処刑を予期していたと?」


 その言葉に対して、私は少し迷ってから、こう答えた。


「予期していたからこそ、処刑をしたのよ」


 事前に、カメリアさんには、その事実を伝えるかもしれないということは伝えていた。だからこそ、少し迷ったものの、素直に明かすべきだろう。


「どういう意味だ」


 グラジオラスの怒気をはらんだ問いかけ。殺気すらも感じ取れるそれに、私は苦笑する。殺気立ち過ぎだ。まあ、仕方のないことなのかもしれない。


「言った通りよ。だって、処刑された人間を処刑することはできないでしょう?」


 まあ、これに思い至ったのはカメリアさん自身なのだけれど。後でそれを「最終手段」と聞いたときには、私も驚いたものだ。ついでに、それで殿下との婚約もなかったことにできると嬉々としていたけれど、自分を処刑することで処刑されることを回避するなんて、普通の頭をしていたら、とてもじゃないけど思いつかない。


「……!

 では!」


 言葉の意味を理解したのか、グラジオラスの怒気は消え失せる。私が口を開こうとするよりも早く、陛下が口を開いた。


「ああ、カメリア嬢は生きている。彼女には世話になりっぱなしでな」


 それはお世辞でも何でもなかった。戦争の回避に加え、ミズカネ国の件も含め、彼女のおかげで乗り越えられた部分は大きい。


「この間までは、殿下の私室で、いまは仮の屋敷で暮らしているわよ」


 と私が補足する。具体的な場所を言わずに、生きているとだけ言われても、本当かと疑う部分がないわけではないだろう。後で、屋敷の場所も教えておけば大丈夫でしょうね。


「そうか……」


 一番知りたかったことが知れたということもあって、グラジオラスは話が終わったような気分でいるけれど、全然終わってもないし、始まってすらいない。

 だけど、まだ、逸れた話の続きをするとしましょう。


「処刑のほうの問題は、それでどうにかなったのだけれど、もう1つの問題、ファルム王国との戦争で死ぬかもしれないというほうが残っていたわ」


 ほぼ処刑を予期していたということに気を取られて、抜け落ちてしまっていた……、ファルシオンあたりは、密偵のこともあってか気付いていたというか気にしていたみたいだけど、戦争のほう。


「戦争。ですが、いまは同盟と……」


 トリフォリウムが陛下を見て言った。確かに、そう、現状では同盟ということになっている。そこで口を開いたのがファルシオン。


「建国祭以前より、この国に密偵がいることは確認をしていました。おそらくファルム王国からの、です。それも国の内部まで食い込むように」


 深く重苦しいファルシオンの声に、雰囲気が一気に真剣な感じになる。だからこそ、私は明るく口を開いた。


「そう、密偵がいたし、実際、建国祭後には、聞いていると思うけれど、リップス子爵領で攻撃を受けたという話もあるわ」


 覚えがあるからでしょう、皆、眉を寄せる。だからこそ、カメリアさんを立てるように、私は笑いながら言う。


「まあ、密偵を見つけられたのもカメリアさんのおかげだし、リップス子爵領で本格的な戦争にならずに、追い返せたのもカメリアさんがやってくれたことだし、それをきっかけに同盟までこぎつけたのもカメリアさんよ」


 わざとらしいくらいにカメリアさんの名前を出しているので、彼女の人となりを知らなければ、彼女を祭り上げるために、あることないこと言っているようにしか聞こえないかもしれない。


「まあ、そんな急ごしらえの同盟だからこそ、こうして、公爵がいま、この場に集められているということ」


 私の言いたいことは何となくわかったでしょう。そして、話は本題……、議題のほうへと戻っていく。


 それにしても、少しカメリアさんの名前を出しすぎたかしら。いや、事実しか言っていないのだけれど、あまりに出しすぎると怒られそうな気もするわね。

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