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139話:カメリアとカナスタ・その1

 シンシャさんたち、ミズカネ国からの来訪者は、杖を入手するという目的を果たし、一刻も早く帰りたかったのか、早々に引き上げていってしまった。最後に「何かあったときはよろしく頼む」という言伝を預かってきたらしいラミー夫人。


 わたしとラミー夫人は、そのまま、ミザール様のところで話していた内容について、ラミー夫人に説明と相談を行っていた。


「つまり、魔法というのは、『平民を導く立場にある人間』に発現して、属性数は『人を惹きつける力』に、神々が応えてくださる量というのは『治世力』に関係していると?」


「ええ、そうなります。なので、平民にどれだけ貴族と同じように教育を施し、宗教観念を教えても、それでは魔法を発現することはありません」


 やはりというか、ラミー夫人の興味を一番引いたのは、「魔法」に関することであった。まあ、ずっと研究していたのだから当然なのだろうけど。


「では、あの事例は……、なるほど、もしかすると、貴族と平民の間に生まれた子供の場合は、発現する可能性もあるという可能性もあるわよね」


 ラミー夫人は何やら思いついたことがあるようだけれど、何だろうか。貴族と平民の間に生まれた子供……、不貞の子、妾の子ということを考えれば、明るみになっていないだけで、もしかしたら、どこかには平民でも魔法を使える人がいるのかもしれない。

 あくまで使うことができる可能性を秘めているだけで、使っていないだろうけれど。

 あるいは、それを考えれば、貴族による性犯罪の立件にもつながるのかもしれないけど。


「まあ、なんにせよ、このことは公表しないほうがいいかしら。信仰にゆらぎが出る可能性もあるし」


「魔法を与えてくださっているのは神々に違いないので、揺らぐとは思えませんが、伏せることには賛成です」


 この基準が知られてしまうと、ようは、魔法を確認した時点で、その子供のカリスマ性などがわかってしまうということである。場合によっては、その時点で価値なしと判断する貴族が出てきてもおかしくない。


「ああ、それから、陛下からも言伝を預かっていたのを忘れていたわね。あなたの仮住まいを決めたそうよ。同盟の話も一段落しているし、そろそろ王城で隠れて生活するのも窮屈だろうってね」


 仮住まいか……。別に、いらないのだけれど、まあ、仮住まいというからには、おそらく、新しく建てたとかではなく、誘拐事件のときのストマク伯爵の屋敷のように、差し押さえて放置しているものとか、あるいは、使われていない屋敷を借りたとか、そのような感じだろう。


「用意してもらった手前、使わないのも失礼ですか……」


 わざわざ掃除とか草むしりとかしてもらったのだろうし、それを考えると、わずかな間でも使うのが礼儀だろう。


「まあ、屋敷に住まうのは短い間だろうということで、何室か閉鎖したままだったり、庭も手入れが完璧とまでは言えないような状況だったりするらしいわ」


 ああ、短期入居なのは織り込み済みなのね。それなら気軽に住めるわ。それに、手入れとかも不十分で結構。むしろ、完璧にされると使いづらいというか、汚してしまうのを気にしてしまいそうだし。


「では、短い間だけれど、使わせていただきましょうかね」


「まあ、短い間になるのはあなたの思う理由と異なるかもしれないけれど……」


 それはどういう意味だろうか。……まあ、ラミー夫人にも、陛下にもそれぞれ思惑があるのだろう。前に、ラミー夫人は、わたしを秘書的な立ち位置で迎え入れたいと言っていたし、そう言う意味なのかもしれない。


「それから、その屋敷には、カナスタがいるから、話を聞いてあげてちょうだい」


 カナスタさんが……?

 掃除とかをしてくれていたのだろうか。それとも、何かわたしに用事があるのか。


「話を聞くのはかまいませんが、ラミー様は立ち会われないのですか?」


 ジョーカー公爵家の使用人であるのだから、ラミー夫人が立ち会うって話をするのかと思ったけれど、そう言う感じでもないし。


「そういう約束だったのよ。ミズカネ国の王族……皇族を案内させるときのね」


 そう言えば、確かに、あのとき、カナスタさんとラミー夫人は何か話し込んでいた。てっきり、ルートの確認とか粗相のないようにとかそういう内容だと思っていたけれど、違ったらしい。


「私にできるのはそこまでだからね」


 その謎の言葉の意味は、用意された屋敷で、彼女と話したらすぐにわかった。






「つまり、カナスタさんは、わたくしの使用人に転職したいと……?」


 ようはそういう話であった。もちろん、ラミー夫人が許可を出したのは言うまでもない。ある意味では、ジョーカー公爵家と縁深いカナスタさんが使用人となれば、監視というか状況確認などの役割にもなるので、そう言った意味も含めて、カナスタさんをわたしの使用人に付けることを良しとしたのだろう。


「はい。奥様からも、今後のことを考えるなら信頼のおける使用人は1人でもいたほうがいいでしょうと」


 まあ、確かに、今後、どこへなりとも行くにしても、1人のほうが気楽というのはあっても、不便でもあるだろう。そうした中で、十分に信用できるとわかっている使用人が1人いれば状況は変わってくる。


「わかりました。ラミー様がそう言ってらっしゃるのなら、断る必要もないでしょう。今日からよろしくお願いしますね」


 そもそも、ラミー夫人に、一度、ジョーカー公爵家での使用人をやめて、わたしの使用人になりたいと言った時点で、わたしに断られて戻ったカナスタさんは肩身の狭い思いをするだろう。まあ、それ自体はカナスタさん自身の問題なのだけれど、それがわかっていて断れるかは、また別の話だ。


「はい、こちらこそよろしくお願いします。お部屋の準備はすでにできています。ご夕食はどのくらいにお召し上がりになりますか?」


 なるほど、夕飯は、わたしの時間に合わせてくれるということか。別に、好きに作ってもよかったのだけれど、カナスタさんが作ってくれる流れになっているな。


「では、そちらにお任せします。頃合いを見て、準備してくだされば」


 正直、現状のわたしは、ただの引きこもり。する仕事があるわけでもないし、わたしの行動に合わせる必要もないでしょう。カナスタさん基準で用意してくれるほうが、わたしとしては気楽になる。


「かしこまりました。また、必要なものがあれば手配するとのことです」


 これはラミー夫人がカナスタさんに伝えたけれど、実際におっしゃったのは陛下でしょう。至れり尽くせりというか、ずいぶんな好待遇だ。


「そうですね、一通りのものはすでに揃っているのでしょう?」


「はい、衣類や生活用品、あと、王城などとの連絡用に文具や手紙などは用意してあります」


 そこまであるのなら、ひとまずは特にいらないでしょう。適宜、本を頼むかもしれないけれど、それくらいか。


「でしたら、ひとまずは特に必要なものはありません」


 そう言って、わたしは、用意されているという部屋に向かった。カナスタさんはそれを見送っていたけれど、おそらくこれから料理の準備やそのほか雑務をこなすのだろう。……ふむ、なるべく負担をかけないようにしよう。





 わたしは部屋に入ると、椅子に座り、少しばかり考えなくてはならない問題について思案する。


 それは、ミザール様との対話でわかった事実。そして、早急にどうにか代案を考えないといけない問題。



 フォルトゥナをどうするかという問題である。



 なぜ、この問題が再浮上するかというと、その処理方法に問題があるからだ。わたしは、これまで、その破壊方法は光の魔法使いと闇の魔法使い……アリス・スートとマカネちゃんが心を通わせたことによって破壊することができたというものを元にしていた。


 確かに、それ自体には問題がない。


 だけれど、アリス・スートやマカネちゃん……、マカネ・スチールがその力を持つに至ったのは、カメリアが死んだことにより、変革が起こらなかったことを端にしたイレギュラーなのだ。


 つまり。今後、ミザール様の言うように、わたしの行動を元に、世界も過去も未来も巻き込んだ大規模な変革が起きるのだとしたら、おそらくその未来において、アリス・スートもマカネ・スチールも「光の力に目覚めしもの」でも「闇の力に呼び起されしもの」でもないただの一般人や宰相令嬢になっているはずなのだ。


 そうなると、フォルトゥナを「氷結」で封印して、その代までつなぐことは無意味になってしまう。


 このままだと、「壊し方を知っている」とうそぶいて同盟を結ばせた、まさに悪役。……どうしよう。いや、知っているは知っているんだ。ウソではないんだ。


 でも、実現できない。


 少なくとも変革後にしばらくの間は、どちらも生まれてこないだろうし、そもそも、大規模な変革になるのだとしたら、いままでよりももっとスパンが空くのかもしれない。そうなったら、フォルトゥナは、少なくとも、わたしの生きている間どころか、数十年、数百年単位で破壊できないことになってしまう。


 いやはや、困った困った。


 代案を考えないと。


 そもそも、なぜ、フォルトゥナを破壊できるのか。そこから紐解いていき、どうにかこうにか理屈を見つけて、破壊できるようにしないといけないわけだけれど。




「カメリア様、お食事の用意ができました」


 カナスタさんに呼ばれ、ずいぶん長いこと考えていたのだと、そこでようやく自覚した。とりあえず、いまは新しい仮住まいでの初めての食事を楽しむか。


 そう思い、カナスタさんが持ってきた食事を見る。かなり豪勢なのは、初日だからなのか、それとも張り切っているのか。


 本当は、食堂などがあれば、そこでカナスタさんとともに食事をとりたかったのだけれど、閉鎖されている部屋の中の一室が食堂らしい。というか、食堂が広いからと不要なものをそこに押し込んだ結果、食堂が閉鎖になったらしいけれど。


 カナスタさんの料理はどれもおいしく、食べ過ぎてしまいそうだけれど、あまり派手に動けないいまは運動不足になりがちなので、ほどほどに抑えるように心がけないと……。

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