表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/275

137話:カメリア・ロックハートの真実・その3

 祖母が……、おばあちゃんがカメリア・ロックハートだった。


 それを聞いたわたしの感想は「なるほどね」というものだった。


 驚きや困惑よりも納得が先に来た。


 前から疑問に思っていたことがある。


 祖母の言葉、「神様たちがやり直す機会をくださったんだ」というもの。


 確かに、いまのわたしは、ミザール様をはじめ七柱の神様がいらして、それを信仰しているから「神様たち」と呼ぶことはある。


 だけれど、前世の日本において、「神様がやり直す機会をくださった」ならともかく、「神様たち」と表現するだろうか。もちろん、宗教とか思想なんかで、人によってはするかもしれない。


 でも、この話を聞いて、ようやく、そのことに、納得がいった。


 祖母の話していた「何もかも決められた道を歩かされたことがある」や「全部言われたようにやって、それで……。まるで使い終わった道具みたいに処分される」というのは、カメリア・ロックハートとしての人生のことを示していたのだろう。


 だから、「やり直す機会」というものを転生したことによって得て、抑え込んでいたカリスマ性や統治力を最大限に発揮して、家も地位もすべて捨て、自由に生きた結果、わたしの知る祖母になったのだろう。


 そして、カメリア・ロックハートであるのなら、祖母の言う「神様たち」というのは、現代日本で一般的に言われている広義の「神様」ではなくて、この世界のミザール様をはじめとした「神様たち」なのだから、この表現はすとんと腑に落ちる。


「では、わたくしがカメリアとして転生することに選ばれたのは、それが関係しているのでしょうか」


 祖母がカメリアであるのなら、血のつながりはなくとも、何らかの縁として選ばれたのではないだろうか。


「いいえ、……ああ、いえ、正確に言うのなら関係がないわけではありませんが、偶然という部分も大きいのですよ」


 なんか、運命的なものがあるのかと思っていたのに、あっさりと否定されてしまった。しかし、では、偶然だとでもいうのだろうか。


「もともと、カメリア・ロックハートの代わりになる人物を探すために、私は、『グランシャリオ・ゲームズ』として、いくつかの予測をまとめたものを『ゲーム』という媒体であなたの世界に撒きました」


 それが「たちとぶ」……「銀嶺光明記~王子たちと学ぶ恋の魔法~」なのだろう。


「それらは、私とつながり、その中でも資質がカメリア・ロックハートに近しい人物を探しました。そうして見つかったのが、柄原(つかはら)椿姫(つばき)さん、あなただったのです」


 ……それはつまり、わたしは前世のころから、祖母に匹敵するだけのカリスマ性や統治力を持っていたと?


 ゲームやりたいがために運動部に入れという両親を、どうにかこうにか納得させて、馬鹿みたいに遊んでいたわたしが?


「わたくしに、そのような資質があったとは、とてもではありませんが、そう思えません」


 そんな特別な才能があったら、もっとなんか別のことをやっていたと思う。そう思うくらいには、ただの平凡な一少女だったはずだ。


「あなたもまた、カメリアであった頃のあなたの祖母と同じです。もっとも、魔法というシステムのない世界では、その特異性を視覚的に発露することが難しいので、仕方のないことではあると思いますが」


 いや、確かに、「五属性」とかそんなわかりやすい指標はなかった。目で見てカリスマ性が高いとか統治力があるとかそんなことはわからない。

 でも、わたしにそんな資質があったなんてとてもじゃないけど信じられない。


「少なくとも、私は、そう判断したからあなたを選んだのです。あなたが信じようと信じまいと」


 まあ、そう言うことなのだろう。……あれ、でも、そうなると、祖母がカメリアであったことと「関係がないわけではない」という部分が見えてこない。わたし個人の資質であれば、関係ないはずだ。


「そして、私たちにとって、あなたが、姫椿(ひめつばき)心愛(ここあ)の孫であったことは非常に驚き、それでいて、ありがたかったのです」


 孫といっても、血はつながっていないんだけど。そのあたりはわかっていて言っていると思うけど、でも、だとしたらなぜ「ありがたい」のか。


 例えば、血がつながっているのなら、アリスちゃんやクロガネ・スチールの尻拭いとして、アリス・スートやマカネちゃんが選ばれたように、血筋としての意味がある。

 でも、わたしと祖母は本当に血がつながっていないはずなのだ。


「ありがたいというのはどういう意味なのでしょうか」


「簡単な話をしますと、あなたはあの世界にとって、不確定な存在であったということです」


 不確定な存在?

 それはどういう意味だろうか。優柔不断……とかそんな意味ではないだろう。


「あの世界において、あなたの祖母、姫椿(ひめつばき)心愛(ここあ)は本来存在しなかった存在であり、不確定です。そして、あなたの両親は、彼女がおらずとも存在はしていましたので確定的な存在ですが、あなたの祖母が介入しなければ、結ばれる前にどちらも命を落としていました」


 祖母はカメリアを転生させたことによって生まれた、この世界にとって不確定な存在。

 両親は、祖母と血がつながっているわけではないので、祖母がいなくても存在しているので確定した存在。

 では、わたしはというと……。


「祖母の介入があったから両親は結ばれた。つまり、祖母の介入がなければわたくしは生まれなかったということ。不確定な存在がなければいなかったはずの存在のわたくしは存在が不確定だったということですか」


 簡単に言えば、祖母はいないかもしれないし、いるかもしれない。それでも世界にわたしの両親は存在する。でも、祖母がいないなら、わたしは生まれないし、祖母がいるならわたしは生まれる。

 それゆえに、わたしの存在は「不確定」なもの。


「その通りです。そして、だからこそ、よりあなたは選ぶにふさわしいということになったのです」


 ミザール様が、前世の世界にどのくらい介入できるのかはわからないけれど、普通に考えて、そこに生きる人間に関与するというのは非常に難しいことなのではないだろうか。でも、それは存在が確定している存在ならの話だ。

 不確定な存在なら、介入して、別の世界に転生させたところで、元の世界に出る影響はそれほどない……のではないだろうか。


「だから、祖母がカメリアの転生体であったことは、関係があるけれど、偶然に近いということだったのですね」


 資質を持っていたのは偶然であり、そこが一番大きいけれど、もしかすると、わたしと同じように資質を持つ存在はそれなりにいたのかもしれない。わたしごときが資質を持てるのだから。


 でも、それでいて、それでも、わたしを明確に選んだのは、祖母がカメリアであったがゆえに、存在が不確定だったという部分も関わってくる。そう言うことなのだろう。


「そして、あなたを転生させたのは正解でした。私の思っていた通りに、世界は潤滑に道を刻みだしたのですから」


「潤滑に……と言われましても、その……、変革を行うはずだったクロガネ・スチールも、アリスさん……アリス・カードもどちらもこれ以上、大きく動くとは思えないような状況なのですが……」


 わたしを介して、光と闇の攻防戦が世界に影響を及ぼす、みたいな映画のキャッチコピーみたいなことが起きそうな雰囲気はすでに失せている。何せ、クロガネ・スチールのたくらみはわたしが砕いてしまったし。


「それでいいというと語弊はありますが、むしろ、ここからなのです。本当に問題になる部分というのは」


 そう言われてみると、よく考えれば、アリスちゃんやクロガネ・スチールとわたしが出会ってから1年も経っていない。


 つまり「たちとぶ」でも同じように、カメリアを介そうとしても、その程度の時間しか経っていないことになる。


 1年も経たないで起こる世界を巻き込む規模の変革ってなんだよという話である。いや、そうなるほどの劇的で衝撃的なものという可能性もあるけれど。


「幸い、あなたに影響を受けたおかげで、アンドラダイト・ディアマンデは、クロガネ・スチールにそそのかされることなく、このときを迎えることができていますし」


 ……クロガネ・スチールにそそのかされることなくというのはどういうことか。


「つまり、カメリアが殿下に処刑されるのは、クロガネ・スチールが関与していたと?」


「ええ、そして、本来なら、そこでアリス・カードか、それともカメリア・ロックハート自身かが、反撃をして、大きな変革につながるはずだったのですが、カメリア・ロックハートは処刑を受け入れてしまった上に、アリス・カードが知ったときにはもう遅かったのです」


 確かに、普通に考えれば、形だけでもカメリアを正妻とすればいいだけというのは、何度も疑問に思ったことだ。でも、その裏に、そういったことがあったとは……。


「これから先、ディアマンデ王国は、あなたのよりどころとして、そして、そこを中心に、あなたの行動が光と闇を呑み込んで、世界に大きな影響を与えるのです」


 ……いや、ちょっと待ってほしい。わたしはもう処刑されたことにして、隠居を決め込もうとしているのだ。そんなわたしの行動が世界に大きな影響を与えるはずなどない。


「あなたがこれからどのよう道をたどるのか、その予測を話すことはできませんが……、あなたは、あなたの道を歩むことになります」


 いや、だから、その道を歩むために、ここまで頑張ったのだ。そして、自分の道を歩んだら、世界はきっと変わらないと思うんだけど……。


「その、わたくしの行動が、そう言った変革をもたらさなかったとしても、何ら罰などがないと約束していただけますでしょうか」


 これで、「世界を変えられなかったからお前はクビだ」とか「天罰を与える」とかそんなことになりたくはないんだけど。


「ええ、約束はしましょう。必要ないとは思いますが」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ