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136話:カメリア・ロックハートの真実・その2

「本来、柄原(つかはら)椿姫(つばき)さん。あなたをこの世界で、『カメリア・ロックハート』に生まれ変わらせるなどということは必要のないことだったのです」


 ……?

 必要がないのにやったという意味ではなくて、おそらく、ミザール様の想定する通りに物事が運んでいれば、そんなことはしなくてもよかったのに……ということなのだと解釈した。


「では、なぜ、その『必要のないこと』が『必要なこと』になってしまったのですか?」


 当然、それをいまから説明するのだろうけど、それでも、わたしは思わずそう問いかけてしまった。


「あなたは、この世界の『魔法』と呼ばれるものの仕組みについて、どの程度わかっていますか」


 思っていたこととはまったく違うことを問われて、わたしは一瞬フリーズする。だけれど、きっと、それは必要な情報だから喋っているのだろう。


「魔法とは神々に与えられた力であり、信仰や教養でその才に差が出るため、教養の不十分な平民には発現しないと言われています」


 これは、この世界での一般的な「魔法」の知識。だから、そこから、わたしによる解釈を踏まえた「魔法」とは何かを答える。


「ですが、貴族と同じように平民を教育したところで、魔法は使えません。根本的に、『貴族』や『王族』と『平民』で、分けられていると考えるべきでしょう」


 そうでもなければ、平民には魔法が発現しない謎は不明のままだ。確実に教養などではないということしかわからない。


「その差は何か。『立場』でしょう。つまり、世界を運行するシステムとして五柱の属性神様たちは『人を導く立場』にある存在に『導く力』である『魔法』を授けたのではないでしょうか」


 わたしはこれまでに、「魔法」は「導く力」だと言ってきた。なぜなら、それは「貴族」や「王族」と「平民」を決定的に隔てる要素であるから。


 しかして、その力は優越感に浸るためにあるわけではない。平民を導くためにある。


 魔法を持っているから人を導くのか、人を導くから魔法を授けられたのか、その因果関係はわからないけれど、おそらくそうなのだろうと。


「なるほど。その解釈は正しい。『魔法』とは『導く力』というのも的確でしょう。それゆえに、その立場にある人間にのみ発現するように調整されているのです」


 しかし、魔法がそうであるとして、では、アリスちゃんのような「光の魔法使い」はどうなのか。システムが異なるというのはアルコルから聞いている。


「『光の力に目覚めしもの』と『闇の力に呼び起されしもの』は、立場というものに左右されないのでしょうか」


 平民に多いというのは偶然なのか。それとも作為的に、平民から選定しているということもあるのだろうか。


「いいえ、左右されません。平民に発現する確率が高いのは、貴族の割合に対して、平民の割合のほうが多いのだから当然でしょう。左右されるとした『素質』でしょうか」


 まあ、当然といえば当然か。でも、ここまでは予想通り。わたしも考えていた通りではある。予想が外れていないことに安堵しつつも、これが本題の『転生』にどうかかわってくるのかがまったく見えてこない。


「さて、『魔法』がどういう理由で、与えられたものかがわかったとして、そこから先の話である、『属性数』や『魔力量』、『魔力変換』というものがどういう基準で与えられているのかは、わかりますか?」


 ……まったくわからない。それこそ、個人の「資質」によるものではないのだろうか。ミザール様の言い方からすると、何か明確な基準のようなものがあるのかもしれないけれど。


「すみません、わたくしには考え及びません。個人の『資質』ではないのでしょうか」


 わからないものは素直にわからないというべきだろう。そして、わたしの言葉に対して、ミザール様の声が返ってくる。


「ある意味では『資質』と言っても間違いではないでしょう。その『資質』を具体的に言い現わすと、『属性数』は『カリスマ性』、『魔力量』や『魔力変換』は『支配力』や『治世力』、『統治力』と呼ばれるものが影響します」


 なるほど、ようするに「導く力」というものを「カリスマ性」と「統治力」という両面から見ているのだろう。


 例えば、パンジーちゃんは地元では慕われているようだし、カリスマ性はそれなりにあるから二属性だけれど、統治力は低いので魔力量や魔力変換はいまいち。


 例えば、王子のように統治力が高いので魔力量や魔力変換は高いけれど、オレ様感によりカリスマ性はそこまで伸びず一属性。


 フェロモリーとかもああ見えて、部下たちにはかなり慕われているようだったので、カリスマ性は相当高いのだろう。


 そして、ここに来て、ようやく問題が見えてきた。


 いまの話が本当だとするのなら、おかしい点がある。


 五属性になるほどのめちゃくちゃなカリスマ性があり、トップクラスの魔力量や魔力変換を持つほどの統治力を持つはずの「カメリア・ロックハート」。


 わたしの知る「たちとぶ」のカメリアとまったく結びつかないのだ。そもそも、そのような卓越したカリスマ性と統治力があったら、王子に簡単に処刑されるなどということは起こり得ないだろう。


「つまり、カメリア・ロックハートは、イレギュラーだったということですか?」


 本来なら渡り得ない力が、イレギュラー的にカメリアに渡ってしまい、五属性のハイスペック魔法使いが生まれたのではないだろうか。


「いいえ、彼女の『資質』を考えれば、与えられた力は正当なものでしょう」


 しかし、わたしの考えはミザール様に否定されてしまった。だけど、そうだとしたら、わたしの知る「カメリア」と、カメリアの持つ「資質」は遠くかけ離れたものになってしまう。それはいったいどういうことなのだろうか。


「もともと、カメリア・ロックハートは類まれなるカリスマ性と支配力、統治力を持っていました。しかし、成長するにつれ、教育により、王族の婚約者として、自分を出さないようにしなくてはいけないと教えられ、自我を殺し、言われたことだけをする人形のようになってしまったのです」


 ほぼ洗脳教育に近いだろう。


 確かに、わたしなんかは、最初から建前上の王子との関係などは理解していたし、そのあたりを割り切って流すことはできたけれど、未熟で、かつ、それでも高い資質を持つ少女だったら、そんなことになってしまったのだろうか。


「そして、それこそが私たちの予想を外れてしまった点なのです」


 まあ、それはそうだろう。おそらくだけれど、神様たちが決めた「魔法」と呼ばれるシステムの中で、ほぼ理論上最高といってもいい存在が出てきたのに、それが自我を押し込み、言われるがままの人形のような状態になるなんて想像はできないだろう。


 普通は、反目して、どこかでその才覚を発揮するものではないだろうか。いや、子供にそれをやれというのも無茶な話なのは分かるけれど。


「本来、カメリア・ロックハートという、類まれな存在がいたからこそ、『アリス・カード』と『クロガネ・コウ』……、『クロガネ・スチール』は、それを起爆剤として世界に大きな影響を与えるはずだったのですから」


 想定としては、「光の力に目覚めしもの」と「闇の力に呼び起されしもの」が、「カメリア・ロックハート」を巡り、それにより、世界に変革をもたらそうとしていた。しかし、カメリアがそのように動かなかった。


「幾度も、カメリア・ロックハートの動きを予測したものの、大きく動くのはアリス・カードのほうでした。彼女は、カメリアとめぐるはずの5人それぞれに関係を持つ道ができてしまったのです」


 それが「たちとぶ」における、攻略対象たちとのルートだったということだろう。つまり、本来、あれは、カメリアの動きを予測するためのものだったのに、結局、カメリアの動きは変わらず、動いたのはアリスのほうだったということだろうか。


「そして、いずれの予測でも、カメリアは死んでしまう」


 それが処刑によるものか、戦死かは別として、どの予測でもカメリアに訪れるのは死だったのだろう。


「その結果、『(アリス)』も『(クロガネ)』も、どちらも、世界を大きく変えるに至らないという運行上あり得ないイレギュラーが発生したのです」


 間にカメリアが挟まる前提だった2人が、その歯車を失った結果、どちらもうまく回らなかったということか。


「それでもその先を予測し続け、世界を大きく変えるために、再び選定が行われ、『アリス・スート』と『マカネ・スチール』に遺伝という形で力を発生させました。本来は、力の遺伝など起こらないものですが、イレギュラーを改善するための処置として、再び選定するにはそうせざるを得なかったのです」


 その先の予測というのが「たちとぶ2」に該当する部分なのだろう。


 一度、アリスちゃんとクロガネ・スチールを選定した際に、その2人が選ばれているのだから、本来、次の選定が起こるまでもっと長いスパンが必要なはずだ。だから、特例として、急場しのぎで、その血筋から最適なものを選定したのだろう。それがアリス・スートとマカネちゃんだったわけだ。


「それでも、それによってもたらされる変革は予想よりもずっと小さなものでした。ですから、私は根底の問題である『カメリア・ロックハート』をどうにかするしかないと判断したのです」


 まあ、当初予定していた、カメリアを交えた世界に与える影響よりも、ずっと小さい変革になってしまったのは仕方がないというか……。


 だから、カメリアをどうにかするしかない。


 それで、わたしがこの世界に転生したということだろう。


「ですから、『カメリア・ロックハート』をひとまず、転生させたのです。あなたの世界に」


 ……。カメリアが転生した?


 わたしの世界というのは前世の世界のことだろう。まさか、わたしがカメリアの転生体で、巡り巡ってなんて言うオチではないでしょうね。



「それがあなたの祖母、姫椿(ひめつばき)心愛(ここあ)です」

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