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130話:光の標と少女の道・その1

 あれから、書状をつくり、いくつかの約束を交わし、シンシャさんが南側……ムスケル子爵領へ行くのを見送った。案内役としては、わたしとラミー夫人が全幅の信頼を置くカナスタさんが選ばれた。


 彼女なら問題なくシンシャさんたちを案内することができるだろうし、仲介役などもこなしてくれるだろう。


 まあ、何やらラミー夫人と話し込んでいたけれど、くれぐれも気を付けるようにとかそういった諸注意を受けていたのだろうか。彼女には不要だと思うんだけど……。






 そんな出来事を経て、その経過を待っていたときのことだ。わたしの耳に飛んでもないニュースが飛び込んできたのは。


 思わず、わたしは王子に聞き返す。


「アリスさんが光の魔法の発現をしたというのは本当なのですか?」


 光の魔法……「光の力に目覚めしもの」の能力は、結局のところ、彼女自身の思い描く形となる。だけど、わたしの介入により、王子ルートで本来目覚めるはずだったその力は発現せずにここまで来てしまった。


 だからこそ、どこかのタイミングで、彼女の魔法を発現させなければと思っていたのだけれど、まさか自力で発現するとは……。


 ……光の魔法は各ルートで、それなりのイベントを経て発現するもの。つまり、わたしが処刑されたことになって、戦争回避やらその後のあれこれをやっている間に、そのようなイベントがあったのだろうか。


 そう思うと、驚き半分、興味半分というような思いになるのもおかしくはない。わたし自身、すでに処刑や戦死を回避したこともあって、アリスちゃんがこれから存在しないはずの逆ハーレムルートに進もうと、外野からワクワクしながら見られるのでいいのだけど、……でも、そんな兆候はなかったと思う。


 一体、何が彼女を発現させたのだろうか。


 報告を受けた時点では、そんなふうに他人ごとだったわたし。しかし、……




「カメリア様のことを思っていたら、気づいたときには使えるようになっていたんです」


 などというアリスちゃんの言葉を聞いて、頭が痛くなった。なるほど、そう来るか、と。

 現在、久しぶりにアリスちゃんと再会した状況であるものの、表向きは、王子がアリスちゃんの力を確かめる場ということになっている。


「そうだったのですね……」


 てっきり、波乱万丈なイベントの果てに、わたしとは無関係なところで手にした力だと思っていたのだけれど、わたしがまったく関与していない間に、わたしのせいで発現しているとは思っていなかった。


「それで、どのような力に至ったのですか?」


 わたしは発現したことしか聞かされていないので、それが具体的にどのような力なのかがまったくわかっていない。


 一応、「たちとぶ」の知識として、各ルートで目覚めた力に関しては把握している。だけれど、そのいずれとも発現の状況が異なるのだ。だから、どのような力が発現したのか皆目見当もつかない。

 例えば、王子のルートでは、誘拐事件を経て、王子とともに歩むために「力」を手にした。お兄様のルートでは、「防御」を。クレイモア君のルートでは「治癒」を。アリュエット君のルートでは「付与」を。シャムロックのルートでは「浄化」を。

 そうした、まったく別の力を発現するわけだけれど、この場合は、わたしとの道を歩んだがゆえに、発現したのだろう。……どんな力だろうか。


「はい、いろいろなことができるようになりました!」


 ……?

 何を言っているのか、本当に一瞬理解できなかった。わたしの知る限り、「光の魔法」あるいは「光の力」というのは、強い思いによって発現するものであり、それゆえに「突出した1つの力」として発現するはずだ。


 いや、あるいは「力」や「付与」のような発現なら、いろいろなことはできるだろうけど、第一声がそうなるとは思えない。


「それは、結局のところ、どのような力なのですか?」


 わたしの問いかけに、アリスちゃんは、首をかしげている。つまり、わたしの問いかけの意味が分かっていないというか、なんというか。


「いろいろはいろいろですよ」


 などというトンチンカンな答えが返ってくるのだから、わたしは質問する先を変更する。


「天使アルコル、どういうことでしょうか。わたくしの知る限り、『光の力』というのは『突出した1つの力』として発現するものだと思っていたのですが?」


 その問いかけに、アルコルが現れる。彼女の表情もまた、酷く微妙なものであり、この状況に困惑していることがうかがえる。


「私としても、未だにこの『発現』がわかっていないのです。確かに、本来、『光の力』とはそう発現するものであり、いままで私が見て来たものもそうでした」


 アルコルすらもわかっていない非常事態ということだ。いや、まあ、その原因は、わたしによって発現したからということなのだろうけど、そうだとしても、なぜそのような形になったのか。


「アリスさん、わたくしを思っていたら発現したとおっしゃっていましたが、具体的にどのようなことを思っていたのですか?」


 そうなると、アリスちゃんの「思い」のほうを聞いて、発現した理由を探っていくべきだろう。

 どういう意味かというと、例えば「誰かを守りたい」と思えば「防御」、「誰かを救いたい」と思えば「治癒」とかそんなふうに、思いの形からいくらか推察できる部分がある。


「え、いえ……、その……。カメリア様の力になりたいなあって」


 照れながらそんなふうに言う様子に、はたで様子を見ていた王子は呆れ顔をしているけど、しかして、わたしとしては、そこよりも、それでなぜ「いろいろなこと」が発現したのかが気になっているところだ。


「だれかの力になりたいというのなら『付与』が発現するのでは……」


 例えば、アリュエット君ルートのように。しかし、アリスちゃんの言い分からは、その力は「付与」ではなさそうに思える。


「『付与』も出来ますよ。やってみますか?」


 にっこりという彼女。「付与」も出来るということは、「付与」以外も出来るということだろう。なぜそうなったのか。


 だれかの力になりたいという気持ちと、わたしの力になりたいという気持ちで、どうして、そのような差がでるのか。対象が明確だからか。不特定のだれかにというわけではなく、わたし個人に対しての思いだから、複数発現した……?

 いや、でも王子と道を歩みたいという王子ルートでも発現したのは1つの力。


「とりあえず、殿下、アリスさんの『付与』を受けてみてください」


 実際に使えるのかどうか、見てから判断してみよう。そう思って、わたしは王子に話を振った。いままで傍観の立場だったのに、急に実験台のような役割が振られたためか、眉根を寄せていた。


「なぜ、オレが。お前が受ければいいだろうが」


「一応、殿下がアリスさんの力を確認する場ですから。それに則るのなら殿下が受けるべきだと思ったのですが」


 どちらが受けるのか、押し付けあう形になったけれど、その状況にアリスちゃんの言葉が加わる。


「えっと、お二方にかけてもよろしいでしょうか」


 何やら、アリスちゃんには、アリスちゃんの思惑というか、考えというか、確認してみたいことがあるようで、わたしと王子はそれに従うことにした。


「それでは、やってみます!」


 まずもって、どのような力が付与されるのかを教えてもらいたかったのだけれど、まあ、付与されてからでもいいか。そう思いながら、アリスちゃんの様子を見て、待つ。


「あ、あのう……、もう、『付与』していますので……」


 ああ、なんというか、実感がないというか、こう「パワーアップしたぞ!」みたいな感覚も何もないので、まったくわからなかった。実際、そう言うものなのだろうか。


「それで、どのような力を『付与』したのですか?」


「えっと……、なんか、その……、いろいろです」


 いや、いろいろって言われても……。とりあえず、走ったり、跳んだり、殴ったりして見るか……。


 王子も同じことを思ったのか、王子のほうが先に、走って、跳ねてとしていたけれど、確かに、普段のあまり運動しない王子の身体能力を考えれば、かなり上昇しているように見える。


 いかにも魔法チック。そんなことを思いながら、わたしも走ったところで、急ブレーキ。危うく壁にぶつかるところだった。


「で、殿下、よく、これをそんなに制御できてらっしゃいますね」


 元の走力の差なのだろうか。少し力んで走っただけで、壁にぶつかるところだった。この感じだと、ジャンプしたら天井に頭をぶつけるのでは……?


「いや、オレはそういったことは何も考えず、普通に走ったり、跳ねたりしただけなのだが……。お前こそ、何をどうしたら……」


 ……わたしと王子の差。つまり、そこがアリスちゃんの確認したかったことなのかもしれない。そう思ってアリスちゃんのほうを見る。

 でもアリスちゃんもすこぶる驚いているようだ。


「アルコルに言われて、もしかしてとは思っていたんですが……」


 その言葉で、わたしはアルコルのほうへと視線を向けた。アルコルは若干困ったような顔をして答える。


「アリスが発現した力の大きさは、歴代の『光の力に目覚めしもの』の中でも、類を見ないほどに強大なものでした。ですが、試したところ、そのいずれも、普通の水準でしか力が発揮されない。そこで、もしかして、『カメリア・ロックハート』にのみ、その強大な力のすべてが発揮されるのではないかと思ったのですが……」


 ……いやいやいや、なんじゃそら。


 そう思うのも無理はない。アリスちゃんはわたし特化の「光の力」に目覚めたということになる。そんなことがあるのだろうか。


「本来なら、こんなことは絶対に起こらないのですが……」


 アルコルは困ったようにわたしを見る。見られても困る。わたしだって困惑しているのだから。


 一体全体どうして、こんなことになったのだろうか。


 いや、それ以前に、絶対に起こらないというのはどういうことで、それがなぜ起こっているのか。謎はいっぱいだ。

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