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123話:戦争回避のために・その7

 具体的な「魔法による」不当な戦略行為。そうなると、次に挙げられるのが、火炎放射器のように放った炎の魔法。


「フェロモリーが貴国領土に向かって火の魔法を放った。それを貴国側は防衛行動として魔法で防いだ。それに相違はないか?」


 ……この流れ、基本的な行為に関しては認める方向でファルム王国が進めているように感じてならない。どういうつもりだろうか。


「その通りだ。こちらはあくまで防衛行動のためだけに、魔法を使用し、自国に火が届かないようにしたと聞いている」


 わたしが「氷結」で火を防いだ。まあ、その前に岩も風の魔法で防いでいるのだけれど。そこは塀の破壊のほうに含まれているのだろう。


「目撃者の両名に関しても同様の見解であるか」


 フェロモリーとわたし、両方に、間違いないことを確認させる。そして、両方ともがうなずき、これは、いまこの場での共通の「事実」として認識された。


「続いて、フェロモリーが貴国の領土に不法に侵入。火の魔法により森林を焼き払った。それを消火活動及び防衛のために貴国側が魔法による消火を行った。これに関しては?」


 これに関しても間違ってはない。そのまま起きたことを正しく述べているように思える。


「相違ない。ただ、付け加えるならば、消火活動、防衛行動のほかに、森林のそばには農耕地もあるのでそういったものへの被害防止とその場で働く農民を守るためという意味でも可及的速やかな消火活動が求められたがゆえに魔法による消火という手段をとらざるを得なかったのだ」


 もちろん、当時のわたしがそこまで考えていたわけもなく、通常の消化活動ではなく、あえて「魔法」で消火を行った理由付けとして陛下が考え、付け加えられたのでしょう。まあ、侵略行為を受けている有事ということもあれば、そうでなくても可及的速やかに消火するべきだっただろうから、保険的な付け加えに過ぎない。


 その後、先ほどと同様に、わたしとフェロモリーの確認もとって、次に移る。


「続いて、フェロモリーが魔法による直接的な攻撃行動を行い、防衛のために魔法による戦闘が発生。ただし、貴国の魔法使いはすべて防衛行動のみで、直接的な攻撃行動に転じることはなかった。これはどうだ?」


 もしここでうなずいて、フェロモリーが、最後に攻撃してきただろうと言ってきたら……。ここまではそう言わせるための前振りだったとか。

 ……いや、ないな。その場合、証人が1対1なのだから、結果平行線をたどるだけだ。


「こちらの認識では相違ない」


 陛下がうなずき、同じようにわたしたちへの確認も入り、両方がうなずいた。そう、フェロモリーも認めている。


「それでは、今回の魔法による不当な侵略行為はフェロモリー・ブーデンが独断で行ったものであり、ファルム王国としてはフェロモリー・ブーデンに厳格な処分を下すことにしたいと思うが、ディアマンデ王国としてはどうする」


 これはつまり、ファルム王国としては三属性の魔法使いを1人失う代わりに、今回のことはなかったことにしないかという提案だ。


 返答は慎重にならないといけない。ここで条件を飲んでしまえば、あれ以上の深い言及ができなくなるかもしれないからだ。


 だけど、わたしたちがそれに対する答えを言うことはなかった。「黒いもや」が室内に発生したからだ。


 クロガネ・スチールの乱入。


 彼はこの場にいるかもしれないとは思っていたけど、出てくるとは思っていなかった。何せ、ディアマンデ王国に潜入していた張本人である。その事実は、ファルム王国側にとっても都合のいいものではないし、それを指摘されたら適当にごまかすか、全面的に認めるか、どちらにせよ苦しくなる。


「陛下、なぜ非を認めるのです!」


 そのように自国の王に対して声を荒げるクロガネ・スチール。だけれど、すぐにジングに押さえつけられてしまう。まあ、王への無礼と、あと他国の人間がいる手前、対処はきちんとしないといけないと思っているというのもあるかもしれない。


「なぜもなにも、この件は、フェロモリーに非があると判断した。それだけのことだ」


 あくまで「ファルム王国に非がある」のではなく、「フェロモリー・ブーデンに非がある」として通そうとしているようだ。首脳陣の反応からして、乱入は意図したもの、芝居などではなく、本当にクロガネ・スチールの独断によって行われたものなのだろう。


「馬鹿な!

 まだいくつでも覆せる方法はあるでしょう!」


 彼の主張にファライト王はため息を吐く。そして、ジングに追い出すようにと指示を出した。ジングがその言葉に従って、クロガネ・スチールを追い出そうとするので、わたしはそれに合わせて口を開く。


「フォルトゥナ」


 それで明確に動揺を見せたのは、スチール宰相であった。しかし、明確に彼らの雰囲気が変わるのは感じて取れた。


「何の話だ」


 と、ファライト王はしらを切ろうとするが、周りの反応から、それが隠しきれないものであるというのも悟ったのだろう。でも、ファライト王が何かを言う前に、わたしが口を開く。


「いえ、方法がいくつもあるとおっしゃっていたので、おそらくその中の1つであろう、それを口に出しただけです」


 沈黙。どこまで知っているのかを探ろうとしているけれど、まあ、わたしはいま、仮面をつけているし、表情などでは探りづらい。結局、言葉で聞くしかないと思うのは必然だろう。


「なぜ、知っている。あれを知るのは先代のクロム王ぐらいのものだと思っていたが」


 なぜ知っているのかときたか。これまた、「知っていたから」としか答えられない微妙な質問が来てしまった。


「こちらにも独自の情報網がありますゆえ。ああ、それから、あなた方が設置なさった杭でしたらすでに別の場所に移してあります」


 あなた方というのはクロガネ・スチールに向けた言葉である。ファルム王国全体を指してというわけではなく、密偵たちということ。


「さて、フォルトゥナというものが明らかになり、その設置もすでに明るみに出ましたが、どういたしますか」


 それは暗に、公表したら戦争は避けられなくなるけれど、ファルム王国はディアマンデ王国だけではなく、ほか諸外国をも敵に回しかねないということを意味する。何せ、そんな危険な兵器を勝手に他国に対して仕込んでいたという状況なのだから。

 他国からすれば、自分たちの国が標的になる可能性もあるというのと、その兵器を奪いたいという2つの意味からファルム王国よりもディアマンデ王国側につく勢力が多くなる。


 そうなったら、ディアマンデ王国から目当てのものを入手するだけに収まらない規模となり、かつ、隣国と協力関係を結ばれたらウィリディスさんを他国に移動させられる可能性もかなり高まる。


「つまり、フォルトゥナを封じろということか」


「いいえ、わたくしが提案するのは破壊です」


 まあ、いまは破壊が不可能だから、封印するというのも間違いではないのだけれど、そう打ち出したほうがインパクトはあるだろう。


「神話の時代からの遺物だ。破壊できるはずがない。そう聞いている!」


 クロガネ・スチールの主張。聞いているということはおそらく、死神アルカイドから聞いたことなのだろう。


「だれから聞いたのか、その方があえて話さなかったのか、それとも知らなかったのかはわかりませんが、わたくしは逸れの破壊方法を知っています。ただし、現代でそれを行うことは叶いませんが」


 その言葉に、ファライト王が耳ざとく反応を示す。


「つまり、それが行うことができる時代までディアマンデ王国が管理すると?」


 馬鹿馬鹿しいとでも言いたげな語調だったのは、そんなものただのハッタリで自分たちが欲しいだけなのではないかという思いがあるからだろう。


「ディアマンデ王国には複合魔法『氷結』を使える魔法使いが、3人存在します。そちらで封印するよりも確実かと」


 もちろんラミー夫人、わたし、パンジーちゃんの3人のことである。そして、ファルム王国にはその人材が存在しない。


「つまり『氷結』で氷の中に封印をすると?」


「ええ、その通りです」


 だが、その主張にも反論はもちろん出てくる。


「だが、『氷結』をしたところで融かす手段がないわけではない。悪意ある何者かが盗み、使用した場合、その責任はとれるのか」


 実際に使おうとした悪意あるものたちに言われたくないのだけれど、その主張に対する答えも、事前に用意してきている。


「ですから、本体をディアマンデ王国が、『杭』をファルム王国が保管するという分割管理を行うことを提案いたします」


 本体が壊れれば、杭だけあったところでどうしようもない。杭を刺さなければ、本体が合ったところでどうしようもない。本当に悪意あるなにものかが使おうとしても、2つの国が厳重に管理している状況を突破しなくてはならない。


「なぜ、そちらが本体で、こちらが設置体なのだ」


 杭と本体では、当然、本体を持っているほうが優位なのだと思うゆえに、この疑問なのだろうけど、単純に考えればわかる話だ。


「本体の破壊方法を知っているのがディアマンデ王国側であるという点、それから、わたくしたちが『杭』の総数を知らないこと。この2点からこの分割が妥当と判断しました」


 本体の破壊方法は、光の魔法使いと闇の魔法使いが真に心を通わせる必要がある。クロガネ・スチールとアリスちゃんでは、おそらく無理だろう。主にクロガネ・スチール側の問題で。


 その方法を話したところで、まず信じるかどうかという部分による疑念、信じたところで実行するかどうかということ、その他もろもろがある。


 そして、何より、わたしたちは「杭」の総数を知らない。これで全部ですと渡された「杭」が、本当に全部ではなかったら?

 状況はいままでと変わらない。


「もちろん、すでにディアマンデ王国側に持ち込まれた『杭』に関しては、すべてそちらに返還いたします。この提案、受けていただけるでしょうか」


 これは、ほぼ脅迫のようなものだ。受けなかったら他国から袋叩きにあうのがわかっているようなものだし。それらすべてと全力で戦ってやるというだけの力は、まだファルム王国にはない。


「受けはするが、正式な取り決めは後日だ。もっと詳細に条件や管理などについて話し合う必要がある。この場でどうこう確約できるものではない。それでよいな」


「ええ、ありがとうございます」


 陛下そっちのけで、わたしとファライト王が話をまとめてしまったが、陛下の顔をうかがってもうなずいているので問題ないだろう。まあ、なにか言いたいことがあれば口を出すでしょうし。ただ、すっごい失礼なやつに見えることは間違いない。もっとも、こんな場にローブと仮面で参加している時点で最初から失礼なやつではあるのだけれど。

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