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121話:戦争回避のために・その5

 ファルム王国。ディアマンデ王国の西側、アルミニア王国とディアマンデ王国にはさまれるように存在する王国である。建国時は、広さなどでは他国に劣る国であったけれど、現在では、元ツァボライト王国に当たる土地の分も広がり、他国に負けないくらいの大きな国となった。


 その主要産業は鉱山であり、自国でかなりの量を運用できる。それが経済の発展と軍事の発展につながったともいわれている。


 わたしの記憶と地理関係が正しいのなら、ファルム王国の位置は、メタル王国ができる前から鉱山として有名だったはずだ。しかし、そうなると疑問がある。それほど前から鉱山として鉱石を採掘していたのなら、とっくに廃坑となっているはずであり、いまもなお大量の鉱脈があるなどということはあり得ない。


 特に土属性の魔法で鉱石を効率よく採掘できるこの世界では、余計にあり得ないことなのだ。そこに裏があるのか、それともわたしの思い違いなのかはわからないけれども。


 ちなみに、建国祭で西側からの出店として出されていた野菜類は、この鉱山で発展した北側で育てられたものであり、南側の元ツァボライト王国領は自然が豊かなため、もっと別の特産品がある。


 北側は自然を切り開いて発展し、南側は自然が残るという、同じ国でも南北で大きく発展が異なるのは、もともと別の国だったからというわけだ。





 現在、わたしが現在、馬車で揺られているのはファルム王国の王都メタッルムレクスヤ。もともと、ツァボライト王国との戦争時点では、王都ファルムが存在したのだけれど、ツァボライト王国を統治した時点で、王都と各地までの距離を考え直し、遷都。その際に、もともとあった都市を広げ、都にし、かつて大陸に存在した都市の名前をとって「メタッルムレクスヤ」とあらためたそうだ。


 メタッルとかいうあたり、メタル王国時代からの都市なのだろうけど、その部分は知らない。メタル王国も建国までしか知らないので、その後にどんな都市ができたとか、詳細は知らないのだ。


 街並みは、ディアマンデ王国のものとさして変わらないものの、郊外に工場地帯があるのか、黒い煙が立ち上っている。おそらく、王都に住む人口割合もディアマンデ王国とは異なるのだろう。


 貴族たちが多いディアマンデ王国に対して、ファルム王国は工場での労働者なども多く住んでいるはずだ。


 そして、わたしと陛下が通されたのは、小さな屋敷だった。おそらく、来賓用の屋敷なのだろう。手入れが行き届いているのに、生活感などはまったくない。


 説明は明日ということで、今日は一旦、この屋敷で休むようにとのことだった。まあ、来て早々、一方的に話すようなぶしつけな感じではないようだ。


「仮面は取らぬのか」


 陛下にそう言われたものの、わたしは周囲の様子から、取らないほうがいいと判断した。


「人目がありますゆえ、この格好でしばらく過ごさせていただくことになるでしょう」


 人目、つまり、監視がついている。そこかしこから探るように視線が飛んできていた。そのため、脱ぐに脱げないのが現状だ。


「監視がついていたか」


 これは別にわたしの感覚が優れているとか、そう言うことではなくて、陛下が陛下であるがゆえの仕方ない部分でもあるだろう。

 陛下というのは、人前に出れば視線を集めてしまう。良くも悪くも。その視線のすべてを気に留めていては、気疲れするどころの話ではない。そうなると必然的に、他人の視線に鈍感になる、人の目を気にしない、人の目に気付かないスキルが必要となる。


 だけど、それでいい。監視やよこしまな視線には護衛が気付けばいい。単なる役割分担でしかない。


「しかし、監視はあれど、そこまで殺気立っているわけではないようだな」


 国内の様子をそう感じ取ったのは、わたしも同じだった。ここに来るまで、しばらくは、馬車に揺られてファルム王国内を移動したわけだけれど、そこまで物々しい雰囲気ではなかった。


「わたくしとしてはもう少し、物々しい歓迎を受けるかと思っていたのですが拍子抜けでした。あるいは、あえてそう見えるルートでここまで案内されたというだけで、別のルートを使えば、その一端が垣間見えたのかもしれませんが」


 わたしたちは最短ルートでここまで来ている。しかし、事情を考えれば、そのルートを選ぶのは必定であり、ならば、そうしたことも可能だろう。


「どうだろうな。常駐する兵がどのくらいいるのかはわからないが、騎士や兵士をそこまで見かけなかったことからその可能性はあるが」


「ですが、兵力の何割かは、平時に工場などで労働力を担っている平民だと思います。街中でそう見かけないのもおかしくはありません」


 労働力を労働力としてだけ置いているわけではなく、有事の際は徴兵できる存在となっていると聞いた。それを聞いたとき、わたしは、いや、戦争のときなんて工場フル稼働するんだから、そこは明確に分けたほうがよくないかと思ったけれど、常に戦争の準備として備蓄やら生産やらを行っていたことを考えると、短期決戦ですべてを兵力に変えて、備蓄を使い切る勢いで終わらせるというのも1つの方法なのかもしれない。

 まあ、持久戦に持ち込まれたら詰みかねないという難点もあるから、奇襲とか弱い相手にしか使えない戦法だと思うけど。


「どちらともいえないというのがいまわかることか」


 その通り。可能性というだけなら、どちらともいえるし、どちらともいえない。ここから調査しようにも、監視があるから思うように動けないでしょうし、下手に動けば、それを理由に拘束される可能性は十分にある。


「まあ、こちらとしては、向こうがいつでも行軍可能な準備を整えていると想定して動いたほうがよいでしょう」


 どちらともいえないなら最悪のほうを想定する。楽観的に考えて失敗するよりも悲観的に考えて、考えすぎだったというほうがはるかにいい。


「だろうな。ここに来るまで、街を見ていたのは観察のほかに、逃走経路の確保という意味もあったのだろう?」


 目ざとい。わたしが、馬車で揺られて、街を眺めていたのは、いざというときに地理関係を把握している必要があるからだ。そこから、どういうルートを通るのが最も早いかを考えなくてはならない。


「一応、いくつかルートはありますが、逃走しやすい経路というのは、向こうも予測しやすい経路です。地の利が向こうにある以上、多少の荒事はつきものとなりましょう」


 逃走しやすい経路というのは、最短であったり、見つかりにくいであったり、そういった特徴がある。それゆえに、逆に警戒をされるポイントでもある。しかし、それらとは異なる観点のルートを探すには、このあたりの地理をもっと詳しく知る必要がある。

 その上、地の利は向こうにあるので、逃走を選んだ時点で、そのルートの大半は先回りして潰されるだろうから、必然的に戦う必要が生じる。


「いざというときは頼む」


「はい、かしこまりました」


 多少の荒事になっても構わないということだろう。まあ、リスクを承知でここまで来た時点で、そのくらいの覚悟はしていらっしゃるでしょう。


「それでは、陛下はお休みください」


 わたしは陛下が寝ている間に、見張りをしながらいろいろ考えることにしよう。明日話すこと、話さないこと、様々を。


「休まなくてもいいのか?」


 それはわたしが休まなくてもという意味だろう。それに対して、わたしは静かにうなずいた。


「道中の護衛を騎士の方たちに任せて、わたくしは休んでいたので一晩程度なら問題ありません」


 実際、ディアマンデ王国内での馬車の移動はほとんど休んでいた。ファルム王国に入ってからは、経路や周囲の確認なども含めて起きていたけれど、そこまでつかれているわけではない。


「では、言葉に甘えることにする」


 陛下が休まれたのを確認して、わたしは椅子に座りながら考えを巡らせる。まず、相手がだれかという問題点。国王同士の話し合いということを考えれば、国王のファライト・ファルム王がいるのは確実だけれど、おそらくそれだけではない。

 コーボルト公爵、ニコラウス公爵、スチール宰相あたりは間違いなく同席するはずだ。


 ……こちらを少人数で来させておいて、人数で威圧するって、かなりひどいと思うけれど、隣国の王がきているのに挨拶をしないというのは失礼に当たるという考えもあるだろうし、納得はできなくもない。


 あとは、目撃者として連れてきた人物が当人なのかを確認するためにフェロモリーもおそらく同席するでしょう。


 ほかにいるとしたらジングなる三属性魔法使いとクロガネ・スチール。この2人は、いまのところ、どちらともいえない。いる可能性もあるし、別行動で動いている可能性もある。そういう意味では、出てきてくれたほうが安心できる。


 そして、問題は、向こうの想定する着地点がわからないこと。


 この抗議を無効にすることなのか、それとも、難癖をつけてこちらが悪かったことにすることなのか、そのどちらかでその後の対応もだいぶ変わってくる。

 全面的に非を認めるということはおそらくない。ほかの着地点もいくつかあるのかもしれないけれど、どれも大体、いま挙げたことの派生だろう。


 こちらの持っている手札は「ファルム王国からの密偵たち」、「フォルトゥナ」、「フェロモリーの攻撃」。


 しかし、1つ目に関しては、こちらが密偵を放っているのも公然の事実であるし、それを捕らえられている可能性すらもある。そうなればイーブンでしかない。


 つまり、大きく使えるのは「フォルトゥナ」、「フェロモリーの攻撃」の2つだろう。そこにわたしの「知識」というアドバンテージを加えて、どこまでこちらの優位に持っていけるかというところが勝負の分かれ目か。


 できれば、ほかに、こちらの有利になるようなことが見つかればうれしいんだけど、そこまで都合よくはいかないでしょう。


 どうしたものか……。

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