表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/275

119話:戦争回避のために・その3

 書状の返事を待つ間、暇を持てましたわたしは、王子の部屋に引きこもって、ひたすらに本を読むか、作戦を練るだけの時間を過ごしていた。


 そんなある日、王子を訪ねて数人が王城に訪れたという報告がウィリディスさんに入った。おそらくアリスちゃんたちだろう。定期的に、王子を詰問しに来ているらしい。


 最初の詰問は、公爵たちによって収められたけれど、その後も、明確な答えが出ないことにしびれを切らして、何度か訪れていたようだ。


 追い返すかどうかを考えている王子に、わたしは一言、「わたくしとしては通して構わないと思いますよ」とだけ伝えた。




 なぜ、通して構わないと言ったのかといえば、それは前回の話し合いのあとにさかのぼる。一通り話したあと、わたしとラミー夫人は少しだけ会話をしていた。


「そういえば、カナスタが、少し気になることを言っていたから、あなたにも伝えておくわ」


 そう切り出したラミー夫人。カナスタさんの名前を聞いて、わたしは何事かと反応した。


「屋敷に戻ったカナスタは、アリュエットから質問責めにあったそうよ。『どこに行っていた』とか『何をしていた』とか。もちろん、カナスタは任務の秘匿性上答えられないと言ったそうだけど」


 あのまま、ジョーカー家に戻っていたら大変なことになっていたと思いながら、しかして、まあ、アリュエット君の考えも読み解けた。


 カナスタさんが普段、ラミー夫人の御者として重用されていることはわかっているのだから、そこから、あえて「北方」にそれを起用しなかった理由と、ちょうど近い時期にあったわたしの処刑をつなげて考えた結果なのでしょう。


「なんとなく、わたくしが生きて、何かをしようとしていることまでは勘づかれているとみていいような気がしますね」


 というよりも、頭脳担当のお兄様がいるから、そのあたりは端からお見通しだろう。第一、お兄様とは一番付き合いの長い家族なので、わたしの行動について、よくわかっているでしょうし。

 そのうえ、協力者であるラミー夫人側の情報に一番近い、アリュエット君がいるし、王子側の情報にはクレイモア君がいる。

 それだけの情報が集まれば、必然と、おおよその部分が見えてきてもおかしくない。


「まあ、明かすにしろ、明かさないにしろ、そのあたりは注意をしておいたほうがいいと思って、一応知らせておくわ」


 と、そんなような会話があったのだ。





 それゆえに、今回の詰問に関しては、より詳しい追及が入るであろうことは予測できるし、そこまでわかっているのに、あえてわたしが姿を見せないというのも、逆にややこしいことになると思ったのだ。


「わかった。お前がいいというのなら通すか」


 王子はそういって、ウィリディスさんに指示を出した。しかし、建国祭からそれほど経っていないにも関わらず、久しぶりな気分なのは、それまで毎日のようにだれかしらと顔を合わせていたからだろう。





 部屋に通された彼らが唖然としていたのは、あまりにも平然とわたしがいたからだろうか。まあ、死んだことになっている人間が、普通に本を読み、お茶をしながら待っていたら、そんな反応にもなるだろうか。


「お前はなんというか……、心配するだけ無駄だったっつーか」


 そんなシャムロックの言葉に、「失敬な」と思いつつも、確かにわたし自身が仕組んだことだったので、「心配するだけ無駄」というのは正しいのだけれど。


「久しぶりの再会にそのような言葉を選ぶあたり、お変わりはないようですね」


 そう言って、本を机の上に置くと、アリスちゃんが泣きそうな顔をしながらわたしにすがってきた。それを受け止め、彼女の頭をなでながら、彼らのほうを見ると、なんとも言えない顔をしていた。


「それで、説明してくれるということでいいのかな」


 お兄様の言葉に、わたしは首を横に振った。否定。なぜ、通しておいて、と思うかもしれないけれど、この段階でざっくばらんに説明してしまうと、後々、すべてが終わったあとに、陛下と示し合わせるであろう説明に齟齬が出てしまう恐れもある。だから、いまの段階では離せないということにしておくべきだろう。


「申し訳ありませんが説明することはできません。ここへお通ししたのは、アリュエット様をはじめ、おそらく、ここにいる皆さまはわたくしが生きていることを薄々でも勘づいているであろうと思い、その口止めをするために呼んだまでに過ぎません」


 もちろん、口止めなどしなくても言わないだろうけど。


「そこまで隠匿しなくてはならないような内容に関わっているということでいいのでしょうか」


 クレイモア君の質問に答えたのは、わたしではなく王子だった。それも呆れたような声と顔で。


「関わっているもなにも、こいつが中心に動いている」


 まあ、確かにわたしが主導で動いているような部分はあるけれども、どちらかといえば、中心というか主導というか、それが原因となっている核の部分はファルム王国であって、わたしではない。


「こちらでもいくらかは予想できている範囲があります。おそらく、ファルム王国が関わっているであろうことは」


 そこまで予測できたのなら大したものだ。まあ、クロガネ・スチールの件があれば、そこに注目するのは当たり前で、そこからたどりつくのもそう難しくないのかもしれないけれど。


「それの正誤も含めて答えるわけにはいきません。ですが、近い内に明かされることもあるでしょう。それまで、待っていてくださいませんか」


 明かされたあとにわたしが戻ってくるかどうかはわからないけれどもね。とりあえずは、ファルム王国の書状の返答しだいで変わってくるし、どうなるかもわからないけれど、戦争になるなら戦争になるで明かすことになるし、回避できたなら回避できたで明かすことになる。


「わかったよ。それでも、1つだけ聞いていいかな」


 お兄様がうなずいてから、わたしの1つ聞きたいというので、こちらもうなずいて、質問の続きを促した。


「急場だったのかもしれない、早急にやらなくてはならなかったのかもしれない。だけど、なんだって、こんなに急に処刑されてまで動こうとしたんだい?」


 その言葉に、わたしが答えるよりも早く、王子が答える。ため息でも吐きた気な顔をしながら、やれやれと肩をすくめて。


「お前は自分の妹を甘く見すぎだよ、ベゴニア」


 お兄様は目を丸くしたけれど、王子はそのまま言葉を続ける。


「急だった?

 こいつは、この一連の計画を俺と初めて会った頃にはもうすでに考えていたようなやつだぞ」


「その時点の計画から変更した点はそれなりにありますけどね」


 計画の流れ、「最終手段」、協力者、かなりの要素に変更が加わっているので、緻密な計画というわけではない。まあ、元から行き当たりばったりな部分はだいぶあったので、変更があるのは当たり前なのだけれど。


「つまり、7年も前から……?」


「正確には、計画を考えたのは、わたくしが魔法を確認した日、8年前になりますね。動き出したのは7年前、殿下と出会ってからになりますが」


 計画を考えたというよりも、前世を思い出したというほうが正しいのだけれど、そこからどうやって生き延びるかを考えたのだし。

 唖然として言葉も出ないようなので、少しだけ付け加える。


「わたくしは、『知り得ない知識』を少しばかり有しています。当時で、すでに、アリスさんのことも、存じていましたしね」


 頭をなでられていたアリスちゃんがびくりと驚いたように反応した。そして、その上でさらに反応を見せたのが天使アルコルだった。


「やはり、あなたは……」


「『変革者』などと称されるものではないと思いますがね」


 アルコルが見えなければ急に何の話だろうとなるのは無理もないけれど、あえて、そのままわたしは言葉を続ける。


「同様に、天使アルコル、あなたのこともわたくしはそのときから知っていました。まさか、わたくしにも見えるとは思っていませんでしたがね」


 その言葉で、そこにアルコルがいるというのが皆にも伝わっただろう。それに対して、アルコルが返す。


「天使や死神について知っていたのも『知り得ない知識』というものに関係するのですか」


「ええ、大体の部分はそうです。もちろん、その知識に対する裏付けもとってはいましたが。ただ、あなたのおっしゃるロンシィ・ジャッカメンなる人物を知らなかったように、すべてを知っているわけではありません」


 わたしの知識はあくまで前世で知っている一般常識や教育課程で習う知識、そして「たちとぶ」をはじめとしたグランシャリオ・ゲームズの発売したゲームの知識とビジュアルファンブックの知識。そこから外れた知識は、こちらで調べた「知り得る知識」にすぎない。


「でも、カメリア様は、それほど前からわたしのことも含めていろんなことを知っていたってことですよね」


 唯一、アルコルとの会話が理解できているアリスちゃんが、わたしにそう言った。それに対してうなずくと、


「だから、きっと、そんなカメリア様が立てた作戦なのだとしたら、わたしは胸を張って待ちます。信じて、祈って、『思う』ことにします」


 それに対して、ほかの全員がため息を吐いた。そして、シャムロックが頭を掻いてから言う。


「仕方がねえ。待てば明かされるってお前が言うのなら待ってやるよ」


 その言葉に、ほかの皆もうなずいて、納得したようだった。そうして、彼らは待つことを選んで帰っていった。



 そこにわたしが帰らないかもしれないことを考えると、心苦しくはある。そう思いながら、わたしは、王子の部屋の窓から外、空を見上げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ