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117話:戦争回避のために・その1

 久々に……とはいえ、そう長い間、空けていたわけではないのだけれど、王都に帰ってきた。もちろん、王都に帰るにあたって、1つ付きまとう問題がある。


 王都に入るためには、しかるべき検査を受けなくてはならない。まあ、検査といっても、そこまで大仰なものではなく、積み荷であったり、目的であったり、そう言ったものを確認するだけだ。


 だから、実際、そこまで真剣な検査ではなくて、簡易で事務的に検査するだけのもの……だった。そう、いままでならば、そうだったのだけど、密偵の件と建国祭での「杭」の持ち込みの件もあり、現在はかなり検査が重くなっている。


 かといって、素直に、カメリア・ロックハートとして入ろうとすれば、ややこしいことになるので、あらかじめラミー夫人が手を打ってくれていた。


 身分の証明をラミー夫人が出してくれていたのだ。まあ、「この人物の身分を保証しますよう」というだけなので、偽装などには当たらない……のだろうか?

 死人の身分を保証するというのもおかしな話だけれども。まあ、そこは置いておこう。


 そのうえ、送迎として重用されているので、この検査でも顔の利くカナスタさんが御者なので、ほぼ検査なしで通ることができた。


 ……これはこれで問題な気もする。まあ、ラミー夫人とカナスタさんだから通ったということで納得しておきましょう。


 そうして、ようやく王都の中に入ったわけだけれど、これからの行動が問題になってくる。


「……王城に向かっていただけますか」


 わたしはカナスタさんにそのように伝える。カナスタさんは少しだけ驚いたような感じで、わたしのほうを振り返った。


「王城ですか?」


 おそらく、彼女はジョーカー家に向かうつもりでいたのだろう。しかし、いまの段階ではラミー夫人が帰っているという確証はないし、だれもいないはずのラミー夫人の私室で生活するわけにもいかない。

 そうなると、事情を知っている人のいるところに行くのが最も正しい選択だろう。だから、王城を選択したわけだ。


「向かっていただけますか?」


 彼女の問いかけに、理由を説明せずに、そのままそう問い返すと、カナスタさんはうなずいた。


「かしこまりました。では、王城に向かいます」


 カナスタさんは、わたしに何か考えがあると思ったのだろう。まあ、ここで妙に突っかかってくるような性格ではないことくらい、一緒に過ごしていた間に理解している。

 王城までは大通りを使えば、さほど時間がかからないので、すぐにでも目的地に着くだろう。


「王城の近辺で止めてください」


 長時間停めれば怪しまれるけれど、一旦停めて、人を降ろすくらいでは、見張りは飛んでこない。だから、どこかで降りようと思う。


「中に入る方法はあるのですか?」


 ここでは、さすがにラミー夫人の身分証明だけではどうにもならない。だからこそ、近くで降りて、隠し通路を使う必要があるのだ。


「あります。できれば、西側で降ろしていただけると助かります」


 王城に出入りできる隠し通路の中で、もっとも見つかりにくい場所は西側にある。そのため、できれば西側で降りたいけれど、どこで降りても、隠し通路で中に入ることは可能である。


「かしこまりました」


 カナスタさんは快くうなずいて、どのあたりに停めるかを考えているのだろう。


「それから、ラミー様が帰っておられたら王城に来るようにお伝えください。もし、まだ帰られていらっしゃらないようでしたら、帰りしだい、そのようにお願いします」


 まあ、おそらく、カナスタさんから、わたしが王城に向かったと聞けば、言われずともラミー夫人は王城に来るでしょうけど、一応、言伝を預けておく。


「わかりました。奥様にそのように必ず伝えます」


 いまの言葉で、なぜ、わたしがジョーカー家ではなく、王城を選んだのかも理解したのだろう。はっとした顔をしてから、あらためて深くうなずいていた。






 馬車は人通りの少ない王城の西側で停車し、長時間留まっていれば怪しまれるということもあり、カナスタさんとの挨拶もそこそこに、ジョーカー家に向かっていく彼女を見送った。


 そして、周囲の様子を警戒して、だれも見ていないことを確認して、隠し通路に入る。ここで見つかることはないでしょうけど、念のために、通路の中でローブを羽織り、仮面をつける。


 このまま直接、陛下のもとへ行くということも可能だけれど、おそらく、人払いをされていないであろう場所に、この格好で現れると面倒なことになるので、そうなると、ほかに事情を知っている人物のところへ向かうのが適当でしょう。


 だとすれば、向かう場所は1つ。王子の部屋である。


 現状、王子かウィリディスさんのどちらかを頼るしかないのだけれど、そうなれば、コンタクトを取れるのは王子の部屋だ。どちらもが王子の部屋にいる可能性が最も高い。

 問題は、王子の部屋にほかの使用人や侍女がいることだけれど、いたらどうにか人払い、いなければ、どうにかして部屋に入れてもらうということになる。どっちにしても面倒くさいことこの上ないけれど、ほかがもっと面倒だから仕方ない。





 隠し通路的に、わたしが知らないものはたくさんあるのだろうけど、あるものの中から、王子の部屋にもっとも近い場所に出て、素早く王子の部屋の中の様子をうかがう。


 どうにも、王子の部屋の周りには、わたしの知るときとは異なり、ほとんど人がいなかった。いつもなら、もう少し活気があるというか、人がいるはずなのだけれど、最初から人払いをしていたということだろうか。


 まあ、人がいないのなら好都合。わたしは、王子の部屋のドアをノックした。


 しかし、反応がない。部屋にいないはずはないのだけれど。そう思って再びノックをすると、そろりとドアがわずかに開いて、ウィリディスさんが覗くようにこちらを見るのがわかった。


 わたしの格好のせいか、ドアがガタっと大きな音を立てたので、わたしもばれないかと冷や冷やしたが、どうやら大丈夫なようだ。


「入ってもよろしいですか?」


「……どうぞ」


 部屋の主ではないのに、いれるかどうかの判断をしてもいいのかと悩んだようだけれど、無用な問答で見つかるリスクがあることは彼女も理解しているのだろう。通してくれた。


「おい、だれも入れるなと……、お前か。いつ戻った?」


「つい先ほどですね。ラミー様がご帰宅なさっているかわからなかったので、こちらを頼らせていただきました」


 わたしが軽く事情を説明すると、それだけでおおよそは理解したようだ。ウィリディスさんの用意してくれた椅子に座りながら、今度は、わたしから問いかける。


「人が少ないようですが、何かあったのでしょうか」


 その問いかけに、ウィリディスさんは若干苦い顔を、王子は気にも留めていないようで平然とした顔をしていた。


「侍女や使用人の何人かは、お前の処刑に思うところが合ったらしく、ボイコットを企てていて、それがまた、いろいろと面倒なことにもつながりそうになったのでな、あとできちんと説明をするからそのときまでは全員休暇ということにして、なるべく人も入れず、会わず、このあたりにもだれも近寄らないようにしていた」


 それはまた、面倒なことに……。まあ、わたしのせいなので、ここは素直に謝っておくべきだろう。


「わたくしのせいで、そのようなことまで起きるとは。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 その言葉に、王子はため息を吐いた。謝罪などいらないというか、わたしが悪いと思っていないのだろう。


「お前は国を守るためにその選択をしたんだ。そして、オレもそれが正しいと受け入れた。なら、これはオレのせいで起きたことでもある。お前が謝る必要はない」


 きっぱりとそう言ってのける。一国の王子となれば、気概がいいのだろうか。


「それよりも、お前が戻ってきたということは、ひとまずはどうにかなったということでいいのか?」


「詳しい説明は、陛下にご説明するときにしますが、ひとまず、退けることができたとみていいでしょう。いまごろか、少し前かに、リップスティークからも報告がきていると思いますし」


 最初にフェロモリーが岩を塀に撃ち込んでいた時に行かせた報告は、すでに届いているはずだ。もっとも、それをすぐに認めるものではなく、事実確認をしっかりしてから、それが正しいかどうかを判断するだろう。

 いま、おそらく調査のためにリップスティークに、何人も向かっているはずだ。


 だから、その調査の間に、陛下に説明する謁見の機会をどうにか設けていただいて、事実確認ができしだい、あらためて説明をして、ファルム王国に書状なり使者なりで、直接話す場をとりつける必要がある。


「何か必要なものはあるか?」


「そうですね、陛下にわたくしが戻ったことを知らせなくてはならないので、紙とペンをまずはいただきたいです。さすがに、ぶしつけに陛下に謁見するわけにはいきませんから」


 この間は、王子に問いただすために、ほとんど人がいない環境になるとわかっていたからこそ、ああいう登場の仕方になったけれど、そういうことでもない限り、陛下の状況をわたしが知るすべがない。


「そのくらいはすぐに用意できる。というか、このあたりにあるものを勝手につかってくれ」


 まあ、勝手に使っていいというのなら勝手に使わせてもらおう。文面はあらかじめ考えてあるので、それをそのまま紙に書くだけだ。


「それでは、この書状を陛下に渡してください」


「これを、ですか?」


 さらさらと書いて、できた書状をウィリディスさんに渡す。それを見たウィリディスさんは首をかしげる。その様子を見て、王子がその書状をひったくるように見た。


「なるほどな、暗号文の類か。それなら渡すときに一言添えたほうがいいか。それとも、これは、よく使われているものなのか?」


 暗号文というほど高尚なものではないけれど、陛下とラミー夫人がやり取りをするときに、たまに用いているという暗号的やり取りを入れただけだ。


「ラミー様と陛下が手紙のやり取りをするときに、検閲されても大丈夫なように使うものですので、ラミー様のお名前をそれとなく出していただければ伝わるかと」


 これで伝わらずに、適当に流し読みして捨てられたら困るけれど、ストレートに書いても面倒くさいことになるので、一言添えてもらえるならありがたい。


「こういうのは早いほうがいい。さっそくオレが渡してくる」


 そういって、王子はウィリディスさんを連れて出ていった。……1人で取り残されても困るんだけど、まあ、ついていくわけにもいかないから仕方ない。

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