48話
回想が長くなりすぎてそろそろ主人公が恋しくなってくるこの頃です
書いてるうちに筆がのって思った以上に長くなってしまって......
それはそうとお待たせいたしました
48話
先手を打ったのは、エリュドナによる極大魔法だった。
魔法の極みに到達した者のみが扱える奥義──それが極大魔法である。
彼は全属性の魔法を極め、その中でも最も破壊力を誇る雷の極大魔法【雷霆】を選んだ。
次の瞬間、白光が世界を塗りつぶす。
雷鳴が城を揺らし、空気が裂けるような閃光がイアを呑み込んだ。
「……やったか?!」
「毎度のことだけどさ〜、アルのそれはフラグって言うんだよね〜」
アルジェントとシンセライズが軽口を交わしながら、瓦礫を踏みしめてイアへと迫る。
──当然、彼らはわかっている。かの【災厄の悪魔】が極大魔法ごときで死ぬはずがないことを。
魔法の極致ですら、彼女にとってはただの目眩まし。それを前提とした、息の合った連携だった。
アルジェントの体が眩い光に包まれ、見る間に白銀の毛並みを持つ巨大な獅子へと変貌する。
これが獣人族の最終奥義──【神獣化】。
本来は一時的にしか神獣の姿を保てないが、勇者一行として数多の修羅場を越えた今、アルジェントはその制約をついに打ち破っていた。
一方のシンセライズも、静かに息を整えながら背の【神弓ユグドラシル】を手に取る。
「僕はみんなみたいに派手じゃないけどね〜。でも、地味だからって──弱いわけじゃないんだよね〜」
矢を番え、弦を引く。
狙いは外さない。放たれた一矢は、百発百中。そして一撃必殺。
この世界のどこを探しても、この連撃に耐えられる存在はいないだろう。
──だが。
「……足りませんね。私を“殺しきる”には、まるで足りません」
イアが人差し指をひとつ折る。
それだけで【雷霆】はあらぬ方向へとねじ曲がり、アルジェントの身体を無数の糸が絡め取った。
しかし、次の瞬間。
シンセライズの放った矢が、見事にイアの額を撃ち抜いていた。
イアは一瞬、目を見開いた。
けれどすぐにその表情を緩め、刺さった矢をつまむと、まるで埃でも払うように引き抜いた。
矢は空気に溶けるように消え失せる。
「……ただの矢で、私の糸を抜けるはずがありません。それに──一度“殺された”ということは、なるほど」
まるで面白い玩具を見つけた子供のように、イアの瞳が楽しげに揺れる。
だがその光は一瞬で消え、次の瞬間にはいつもの薄ら笑いに戻っていた。
「ですが──ここで退場、ということになりますね」
その言葉と同時に、シンセライズの身体が痙攣し、口から鮮血を吐いた。
膝をつき、倒れ込む。
何をされたのか、誰にも分からない。ただ、結果だけが現実だった。
「──いえ。残念ながら退場はいたしません」
静かに、ヒマリが聖杖を掲げる。
澄んだ光が彼女の足元から広がり、倒れたシンセライズを包み込む。
聖女が扱う神聖魔法の極意──【死者蘇生】。
それは、完全なる蘇生。魂すら欠けることなく、死者を生者へと還す。
「ふふ……きちんと【魂保護】まで施しているなんて。以前、悪魔と相対したことがあるのですね?」
「……あたりまえです」
ヒマリの声は、微塵の迷いもなかった。
ここまで、すべてはヒマリたちの想定通りだった。
「──見たでしょ、勇者。物理は糸で無効、魔法は反射。精神体攻撃は有効。あと【道連れ】持ち。僕たちはいつも通り支援。君がメインで頼むよ〜」
シンセライズの軽口を皮切りに、空気が変わる。
エリュドナの【空間魔法】によって、アルジェントとシンセライズは瞬時に間合いを離脱。
ヒマリは即座に全員へ強化魔法を展開し、同時に【浄化】【聖域】の陣を広げる。
“邪悪なるもの”への概念干渉によって、それは確かにイアの行動を制限する結界となった。
──ここまでは勇者のための布石。
ここからが、彼らの真の戦いだった。
「うん、いつも通り頼むよ。──じゃあ行こうか。【聖剣解放】」
勇者が静かに聖剣を構えた瞬間、眩い光が刀身を包む。
それは世界の理すら断ち切る、輪廻の刃。
【輪廻剣ウロボロス】──勇者たる所以、その力の一端が今、解き放たれる。
「ここからが本番、ということですね。ですが──様子見なのが“そちらだけ”とは思わないことです」
「そんなもの、重々承知さ。けれど……油断してくれるというのなら──それを利用しない手はないだろう?」
その瞬間。
臨戦態勢を取っていたイアの動きが、ぴたりと止まった。
まるで時間そのものが凍結したかのように、彼女は一切の動作を失う。
「──君が何度蘇ろうと関係ない。死ぬまで、殺すだけだ」
勇者が静かに聖剣を振り下ろす。
空気が裂け、光が奔り、音が追いつくよりも早く──イアの首が舞った。
さしもの大悪魔も、時間干渉という力の前では抗えない。
イアの身体が崩れ落ち、その瞬間──【道連れ】が発動し、そして【不死】によって再び彼女が蘇る。
本来であれば、勇者も共に命を落とすはずだった。
だが、何も起きなかった。
「……死んだ? この私が──二度も、為すすべなく?」
イアは知らなかった。
【輪廻剣ウロボロス】というの存在を。
それもそのはず、この剣はつい最近、神獣ウロボロスその身を基に創り上げたもの。
いかに太古の悪魔であろうと、その理を知る者はいない。
だが、イアの顔に浮かんだのは驚愕ではなかった。
──歓喜、だった。
「ふふ……これだから、人間は面白い。有象無象の悪魔どもとは、まるで違う。……ああ、素晴らしい。召喚されたかいがありました!」
その恍惚の笑みを見た瞬間、勇者たちの背筋を悪寒が走る。
まるで決して触れてはならぬ何かを、無理やり起こしてしまったかのような。
だが、もう止まれない。
彼らの戦いは──すでに、引き返せない領域へと突入していた。
遅れた理由はポケモンだったりいろいろありました




