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メイドな悪魔のロールプレイ〜強制ハードモードなメイドの奮闘記〜  作者: ガブ


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47/48

47話

終わるといったな、あれは嘘だ

というわけで過去回想続きます

どんどん謎が明かされていくよ~~

47話




 長い旅路の果て──勇者一行はついにヴァルタニア城へと足を踏み入れた。

 迷うことなく歩を進める先は、ただひとつ。《災厄の悪魔》が鎮座するであろう玉座の間。

 

 その存在は隠されるどころか、城全体を震わせるほどの圧として漏れ出していた。

 ただ立っているだけで膝が折れそうになるほどの波動。勇者ですら、背を伝う汗を隠せない。

 

「……凄まじい圧だねえ。思わず腰が引けそうだよ」

「ね〜! アルなんて、ぴーんって尻尾が逆立ってるよ!」

「うるせえ! これは生理現象だっての!」

「もう……軽口はほどほどにしてくださいね」

 

 緊張と恐怖に押し潰されかねない場面で、口をついて出る軽口。

 それでも仲間たちに余裕が残っていたのは、勇者の存在ゆえだった。

 

 彼の身から放たれる輝きが、黒々とした圧力を打ち払い、仲間たちの心を包み込んでいた。


「──ここだ」

 

 玉座の間へと続く巨大な扉が、勇者の手に応じて低く唸りを上げる。

 

 ヴァルタニア神国の王家の血を継ぐ者だけに許された封印。

 ゆっくりと解かれるその音は、雷鳴のように城内へ響き渡った。

 

 扉は主の帰還を喜ぶかのように、ひとりでに開いていく。

 だが、その先に待つのは栄光の王ではなく、《災厄の悪魔》。

 歓迎は祝福ではなく、これから始まる死闘への序曲に他ならなかった。


「ふふ......ようやく。ようやくですね。待ちくたびれましたよ」


 玉座に腰かけるのは、一人の少女。

 麦の穂のように金色に揺れる髪。

 曇りなき空を閉じ込めたかのような、澄み渡る青の瞳。


 ──勇者と瓜二つの顔立ち。

 ただ性別だけが違う、鏡写しのような存在だった。


「お兄様......ついに帰ってきてくださったのですね」


 ヴァルタニア神国第一王女フェリシア。勇者の双子の妹であった。


 そして、その傍らに控えていたのは、一人のメイドだった。

 透き通るような青色の髪を揺らし、汚れひとつないメイド服を纏っている。


 その姿勢はただ静かに、顔を伏せて主に仕える者のそれ。

 けれども彼女の周囲に漂う気配は、異様なほど澄み切っており、場の空気を凍りつかせるような緊張を孕んでいた。

 まるで、この世の理から外れたものが人の姿を借りているかのように──。


 勇者は何も返さない。

 ほかの皆は、その青髪のメイドからも押し潰されるような気配を感じ取り、身をこわばらせることしかできなかった。


 ──最初に沈黙を破ったのは勇者だった。


「無駄なおしゃべりはよしてくれるかな。悪いけど、フェルに用はないんだ」

「久しぶりの再会だというのに、連れないお兄様ですね。それでは女性に嫌われてしまいますよ?」


 かみ合っているようで、決してかみ合わない会話。

 勇者の視線は終始、フェリシアには向けられない。彼が見ているのは、ただひとり──傍らに控える青髪のメイドだけだった。


「くせえ、ドブくせえ……ドブを煮詰めたようなにおいがしやがる。これが《災厄の悪魔》ってやつか」


 アルジェントの言葉は明らかな強がりだった。喉を震わせるだけでも苦しいはずなのに、あえて毒舌を選ぶ。

 張り詰めた空気に小さな亀裂を入れるようなその一言に、勇者は驚きを覚えた。──まだ、仲間たちは折れていない。


「へいへ~い、魔神くん、びびってる~?」

「ほざけ。あの血統魔法の解析をしていただけだ。もう解析完了したぞ」

「もう、こんなところで喧嘩しないでください!」


 玉座の間を覆う威圧に似つかわしくない、気の抜けた会話。

 けれど勇者にとっては、それこそが何より心強かった。仲間が日常を崩さない限り、自分もまた折れるわけにはいかないのだ。


「──うるさい羽虫を連れてきたようですね。先に殺しますか」

「いいかげん口を閉じようか。……さっきから、君の“糸”は丸見えだよ」


 勇者は腰に下げた聖剣を抜き放つ。

 鋭い一閃が、フェリシアのはるか頭上──虚空を薙いだ。


 一見すれば空を斬っただけの無駄撃ち。だが次の瞬間、甲高い断裂音と共に、透明な糸がはじけ飛んだ。

 その反動に引きずられるように、フェリシアの身体は糸の切れた人形のように崩れ落ち、玉座の階段へと倒れ伏した。

 

 それを確認した勇者は、ためらうことなく剣先を青髪のメイドへと向けた。

 エリュドナたちもまた互いに視線を交わし、即座に散開。各々が武器を構え、戦闘の陣形を整える。


「くすくす……あらあら。こうもあっさり見破られてしまうなんて」

 

 青髪のメイドは口元を手で隠し、可憐に笑う。だがその声音には底知れぬ嘲弄が混じっていた。

 

「なかなかの名演技だったと思っていたのですが──おや、これは観客が優秀すぎたようですね」


 青髪のメイドから溢れ出すのは、もはや隠すことをやめた明確な敵意。悪意。そして圧倒的な殺意。


「──《始原の青》イア。……誠に残念ですが、ここからはわたくし自身が舞台に立たせていただきましょう」


 ──こうして勇者一行と《災厄の悪魔》の戦いは、舞台の幕開けと共に始まった。観客などいない、ただ血と命だけが拍手を送る舞台で。


 

 

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