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メイドな悪魔のロールプレイ〜強制ハードモードなメイドの奮闘記〜  作者: ガブ


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46/48

46話

結構重要な部分なので短くは出来なかったです

次で回想は終わると思います


また、評価、ブックマーク、いいねありがとうございます!目に見えて反応があると、やっぱり嬉しいです

46話




 そして──討伐隊の出発の日が訪れた。

 各国から選りすぐられた精鋭が勇者とヒマリと共に並び、たった数名でその威容は一国の軍勢にも匹敵するほどだった。

 

 彼らを見送る国民たちの声援は、地鳴りのように大地を震わせていた。

 人々は口々に「勇者よ、悪を討て!」「聖女よ、光を示せ!」と叫び、祈りと期待を惜しみなく注いだ。

 

 それはまるで、討伐隊そのものが神話の登場人物であるかのような熱狂だった。

 その中心に立つ勇者の背は、どこまでも大きく頼もしく見えた。

 

 そして彼の隣には、白い法衣を纏ったヒマリの姿があった。

 聖女として、民にとって希望そのものとして。

 ヒマリは声援に手を振ることなく、ただ静かに前を見据えていた。

 歓声に包まれながらも、彼女の胸中には張り詰めた緊張と、微かな震えがあった。

 

 ──この戦いに勝てなければ、大陸は滅ぶ。

 

 その事実が、まだ幼い少女の心を重く圧し潰そうとしていた。

 それでも彼女は一歩を踏み出す。

 勇者の隣に立つと決めた以上、逃げることなど許されなかった。


 討伐隊を組む精鋭たちは、皆すでに勇者と面識があった。

 勇者と肩を並べることに何の疑問もなく、互いを信頼し合っている。

 ただ一人、初めて顔を合わせるのはヒマリだけ。

 

「やあ、はじめまして。俺はエリュドナ・フォン・メイガス。盟友のために馳せ参じたよ。よろしく頼むよ、聖女様」


 黒の長髪を後ろで一つにまとめ、いかにも高級そうなローブを纏った男──エリュドナは、切れ長の目を柔らかく細め、にっこりと笑みを浮かべてみせた。

 その姿は温厚さを感じさせながらも、底知れぬ威圧感を秘めている。


 彼は魔国メイガスの第二王子にして、【魔神】とまで呼ばれるほど魔法に精通した天才。

 勇者とは留学先の学園で知り合い、以来、互いを高め合う友として絆を築いてきた人物だった。


 そんな彼のあいさつを皮切りに、皆が次々とヒマリに声をかける。


「ボクはシンセライズっていうんだ~! こっちまで噂は届いてたよ。ぜひ会ってみたかったんだ! よろしくねぇ」


 普人よりも長い耳を持つ金髪の少年──シンセライズが、顔を輝かせながらヒマリの手を取った。

 その無邪気な笑顔には一点の曇りも邪気もなく、ヒマリは思わず毒気を抜かれてしまう。


 彼はエルフ族の英雄。数多の森を駆け巡り、魔物を滅し、人類の生存圏拡充に多大な貢献をした存在である。

 その力と血統は、すでにエルフという枠を超越し、【ハイ・エルフ】へと至っていた。


「オレはアルジェント・フォン・シルヴァスタ。聖女っつったっけか、頼りにしてるぜ!」


 銀の髪に猫耳を揺らしながら、活発な声を上げる女性──アルジェントが、ヒマリの背をばんばんと叩いた。

 彼女は砂漠の国シルヴァスタの第三王女にして、肩書きに縛られぬ放浪の旅人。

 踊り子のように露出の多い衣装とは裏腹に、その体つきは鍛え抜かれており、思いのほかの怪力にヒマリはじんじんと痛む背中をそっとさすった。


「はは、皆、噂の聖女様が気になって仕方がないみたいだね。ただ、一度にまくし立てたら、彼女も困ってしまうよ」


 勇者が軽く笑ってそう言うと、エリュドナたちは名残惜しそうにしながらも、渋々ヒマリから一歩距離を取った。


「ヒマリ、改めて自己紹介できるかな?」


 そっと頭に置かれた勇者の手が、優しく髪を撫でる。

 温かな感触に背中を押されるように、ヒマリはこくりと首を縦に振った。


「……わたしはヒマリ。皆様のおっしゃる通り、【聖女】の名を拝命しています。これから、よろしくお願いします」


 その声は震えて小さかったが、不思議と堂々として聞こえた。

 仲間たちは一様に微笑み、彼女を迎え入れる眼差しを向けた。


 そうして、ヒマリたちは旅に出た。


 国境を越え、かつてヴァルタニア神国があった地を目指して。

 街を抜けるたび、民衆が道の両側に並び、歓声と祈りを込めて手を振る。


 ──勇者とその仲間たち。そこに【聖女】の姿もある。


 人々の目には眩い希望として映っているのだろう。けれど、ヒマリの胸に渦巻くのは希望だけではなかった。

 聖女として、勇者の隣に立つと決めた以上、逃げることなど許されない。

 それでも──まだ幼い少女にとって、この道がどれほど過酷であるかは想像に難くなかった。


 それでも彼女は歩みを止めなかった。

 祈りと決意を胸に、勇者の隣に立ち続けるために。



 旅立ちの日から一年。


 その間に多くの出来事があった。

 滅びゆく国を目の当たりにし、救った国もあった。

 命を失った人々がいれば、救い出した人々もいた。


 数え切れぬ別れと出会いが繰り返される。

 そのすべてがヒマリたちを鍛え、成長させ、仲間としての絆を強く結び直していった。


「──もうすぐだ」

「ええ、ようやくここまで来ました」

 

 勇者の言葉に、ヒマリがふんわりと微笑む。

 

「しっかしまあ、かなり遠くまで来たな~」

 

 アルジェントが手を後ろで組みながら、ぶっきらぼうに言う。

 

「妨害さえなければ転移で一発なんだがな。……こんな長旅も、たまには悪くない」

 

 エリュドナは心底楽しげに口元を緩める。

 

「それな~! こんなに歩いたの、昨日ぶりだよ!」

 

 シンセライズがおどけて肩をすくめると、空気が一気に和らいだ。

 皆の様子に勇者は小さく笑い、視線を遠くにそびえるヴァルタニア城へと向ける。

 

 その瞬間──ズキン、と鈍い痛みが頭を貫いた。

 

「……あれ?」

「どうかしましたか?」

 

 すぐにヒマリが駆け寄る。

 

「なんかあった~?」

 

 シンセライズも覗き込むように首を傾げる。

 

「いや、なんでもないよ」

 


 勇者は痛みを振り払うように首を振った。

 その一瞬、普段なら決して見せない苦悶の色が彼の顔をよぎる。

 

 ヒマリの胸が小さくざわめいた。けれど仲間たちの前で不安を言葉にすれば、彼の威信を損ねてしまうだろう。

 だから彼女は静かに目を伏せ、誰にも気づかれぬように回復の祈りを紡いだ。

 

 白い光が勇者を包み込む。痛みは確かに和らいでいくはずなのに、ヒマリの胸に残った不安は決して消えなかった。

 

「──目的地は、《災厄の悪魔》が潜むヴァルタニア城。皆、覚悟はいいか」

「あったりまえだ」

「当たり前だろ、盟友!」

「もちろんだよ〜!」

「無論です」

 

 それぞれの答え方は違っても、声には一分の迷いもなかった。

 勇者を先頭に、六人の足取りはひとつの鼓動となって響き合う。

 

 ──決戦の刻は、もう目の前に迫っていた。

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