42話
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42話
「つかまえた♡」
イアはヒマリの肩をがっしりと掴み、即座にスキルを発動させようとした。
だが──腐っても聖女、ヒマリは反射的に自らの肩を切り落とし、その一瞬の隙に距離を取った。
「……どういうことです」
忌々しげに睨みつけながら、ヒマリは絞り出すように問う。
「七二回の死。その制約を、ただの悪魔ごときが超えられるはずがありません」
実際、五百年前に討たれた《災厄の悪魔》も、七二回で滅んだ。
にもかかわらず、この悪魔はいまだ健在──ならば何らかの仕掛けがある。ヒマリはそう確信する。
「ふふ」
「……なにがおかしいのです」
「いえ、勇者様が傍にいないと──あなた、感情を隠すのが下手だなと思いまして」
くすくすと笑う悪魔に、ヒマリは強烈な違和感を覚えた。
見た目も、声も、纏う気配も、つい先ほどと変わらぬはずなのに──直感が、異様なほどの警鐘を鳴らしている。
濃密な死の気配。
今のイアからは、それがはっきりと感じ取れた。
「くすくす……油断しがちなところも、五百年前からお変わりないようで」
「……貴女は、誰ですか」
幸いにも、初撃以降イアが動く気配はない。
ならば少しでも情報を引き出すべき──そう判断したヒマリは、問いを重ねる。
「おやおや。これはこれは物寂しい。私たちはあんなにも深く求め合ったというのに」
「そんな記憶はありません。五百年前に戦ったのも、先程の貴女──」
そこで、ヒマリの思考はふいに停止した。
視線はまるで縫いとめられたかのように、イアの髪へと釘付けになる。
第一の違和感。その正体に、ようやく気づいたのだ。
──この悪魔の髪は、たしか黒であったはず。
だが今、そこに揺れているのは深い深いアルパインブルー。
まるで本来の姿を隠していた仮初の色が剥がれ落ち、真の相貌が滲み出たかのように。
碧は闇よりも濃く、なお鮮烈で──死と魔を象徴する色彩そのものだった。
碧色の髪を持つ悪魔──その色を許される存在は、歴史上ただ一柱。
凡百の悪魔ならば、せいぜい髪にわずかに碧が差す程度。全てをその色に染め上げられる者など、他にはいない。
「まさか……いや、そんな……」
ヒマリの顔から血の気が引いていく。
彼女は気づいてしまったのだ。思い出してはならない、忌まわしい記憶を。
──魂を汚され、尊厳を踏みにじられ、それでもなお勝利を与えられた、あの屈辱の出来事を。
「──おや。ようやく思い出しましたか」
唇の端をゆるやかに吊り上げ、悪魔は恭しく一礼する。
「では改めて名乗りましょう。私は《紺碧の主》イア。かつては《始原の青》とも呼ばれました」
その声には、かすかな愉悦と、千年を越える自負が滲んでいる。
「──以後、お見知り置きを」
その言葉を境に、世界そのものが軋みを上げて動き始める。
長い沈黙を破るかのように、破滅の幕が切って落とされたのだ。
「──ウロボロスッ! 神獣のことは後回しです!! こちらを優先してください!!」
イアによる隔離空間の解析に集中していたウロボロスは、その声に即座に反応した。
先程までのやり取りは耳に届いていなかったのだろう。イアの姿を視界に収めた瞬間、その巨体から露骨な敵意が放たれる。
『貴様……! 五百年前、我らの存在を歪めたな? さもなくば、我が貴様を忘れるはずがない!』
「おや、気づきましたか。ですが、それも"彼"との契約ゆえのこと。──こんな私でも、契約は大事にする主義でして」
『戯言を──!!』
たかが悪魔に、神である己の存在を歪められたこと。
たとえ相手が始原の悪魔であろうと──ウロボロスにとって、それは決して許されぬ冒涜だった。
そして、それはヒマリにとっても同じこと。
五百年前に刻まれた屈辱を、いまこそ晴らさずにいられるものか。
憤怒と殺意を共有するかのように、二つの存在が視線を交わす。
次の瞬間、先程までの均衡が嘘のように、ヒマリとウロボロスが同時にイアへと襲いかかった。
悪魔の設定は転スラrespect
聖女様についてですが、加筆修正を順々にしていくか(結構展開変わるかも〜大筋は変わらないですが)、メイド悪魔みたいに再投稿するか迷ってます。




