39話
TRPGにハマりました
39話
ひどく懐かしい夢を見た。おそらく、生前──何回か前の時の夢。
「──もうすぐだ」
「ええ、ようやくここまで来ました」
僕の言葉に、黒髪の少女がふんわりとした笑みを浮かべる。
「しっかしまあ、かなり遠くまで来たな~」
銀髪に猫耳を生やした女性が、ぶっきらぼうに言った。
「妨害さえなきゃ転移で一発なんだがな。こんな長旅、久しぶりだよ」
黒い長髪を一まとめにして垂らしている男性が、心底面白そうに言った。
「それな~。こんなに歩いたの、昨日ぶりだよ!」
普人より耳の長い金髪の少年が、おちゃらけたように言った。
そう。僕らはXXXXXを殺すために、ここまで来たんだ。
国を滅ぼされ、僕だけが生き残った。皆の仇を、そして世界を守るために。
僕らは、XXXXXを殺さないといけないんだ。
......XXXXX?
「......あれ?」
違和感を覚え、その場に立ち止まる。なにか大事なものが思い出せない。
明らかに僕は、何かを忘れている。いや、そもそも僕は誰だ?
「どうかしましたか、XX」
「なんかあった~?」
XX、僕はXXというのか?
いや、そもそもここはどこだ?
この人たちは誰だ?
僕は、ボクは、ウロボロスに呪われて、そのすべてを終わらせるために来たんだろう?
XXXXXって、なんだ?
「いや、なんでもないよ」
見覚えがあるけれど、覚えていない。
なんだこの虚しさは。なんだこの切なさは。なんだこの気持ち悪さは。
僕はこの人たちを知っている。なのに、思い出せない。
ウロボロスに呪われ、全てを忘れないようにさせられた僕が、覚えていない?
なにかがおかしい。そんな僕の気持ちに呼応するように、夢心地な僕の意識が浮上していく。
「おや、もう少しかかると思っていましたが。随分とお早いお目覚めですね」
聞き覚えのない声。口調はイアにそっくりだが、声色は似ても似つかない。それに、あいつがここにいるはずもない。
起きていることはバレているようだし、目を開くことにした。
「……お前が【預言者】か」
身長はボクよりも高い、170cm程。黒いローブを身にまとっており、容姿はわからない。ただ声色からして、女性だろう。
それにしても、ボクが気絶したのは階段だったはずだが。おそらく【預言者】によって移動させられたのだろうか。
「ご明察。私は【預言者】と呼ばれしものだ。とはいっても、そんな大層な力はもっていないがね」
「ふん。【未来視】が大した力じゃないなら、いったい何を力と呼ぶんだ」
【預言者】と会話しつつ、あたりの情報を集めることに注力する。
まず、自分の体に違和感はない。寝ている間に何かされた訳ではないようだ。
次にここはどこか。階段を降りた先だとは思うが、何のための空間かはわからない。
辺りは薄暗く、はっきりと視認はできない。ただ床は白く石英か何かでできているようだ。また少し先には朧げながら竜の形をした石像のようなものが見える。
「ここがどこか気になるかい?」
「......」
「ふふ。そう警戒しなくてもいいさ。私が君を害することはない」
たしかに【預言者】のいう通り、彼女がボクを害する気ならとっくに殺されてるはずだ。
なにか思惑があるのか、本当にボクを害する気がないのか。
「さて、君がここに来た理由を当ててみようか」
「.......」
「ああ、君はしゃべらなくていい。私の話を聞くだけでいいんだ」
ボクは何もしゃべらない。が、彼女は何も気にすることなく、ボクを見据えて話し出した。
「結論から言おうか。君はこの度の戦いにおける唯一の変数である【預言者】を、足止め、あわよくば殺害しようとしている」
まあ、この状況からそう推測するのは妥当だろう。むしろそれ以外の理由がない。
「まあ、【災厄の悪魔】が警戒するほど私の力は強くないわけなんだが。それは置いておこう。──私はそれを逆手に取ったわけだ。【災厄の悪魔】から君を引き離すために、ヒマリにも出てもらってね」
ボクが【災厄の悪魔】から引き離された?いや、確かに今の状況はその通りだ。その点においてはボクも悪魔も賭けに出たわけだ。
けど、殺害以外の動機でボクをイアから引き離す必要があった?
「ふふ、困惑しているね。私はね、君に観客席についてほしいんだ。それで、君に決断してほしい」
観客席?決断?
【預言者】は、いったい何を言っているんだ。
「これを見ていれば自ずとわかるよ。君の目的でもある"【預言者】の足止め"も達成できるんだ。まあゆっくり座っていてくれ」
彼女が指をパチンと鳴らすと、目の前に大きなスクリーンが現れる。
そこには、ヒマリとウロボロスと対峙するイアの姿があった。
「コーラとポップコーンは持ったかい?さあ、愉快な悲劇の始まりだよ」




