37話
37話
少々話が逸れた。閑話休題。
こうして世界が存続している通り、勇者一行は見事《災厄の悪魔》を討伐することに成功した。
しかしながらそれは、世界を三つの勢力に分断する結果ともなった。
なぜなら《災厄の悪魔》はヒトを操る能力を持っていたから。
この能力によって《災厄の悪魔》側に与したのが《竜人族》と《魔人族》。もとより《魔物族》と一部の《魔人族》はヒトと敵対しており、これらの種族をひっくるめて闇の勢力と呼んだ。
そしてこの闇の勢力は、いくら《災厄の悪魔》を討伐したといえど、残念なことに外も内もボロボロだった人々──後に光の勢力と呼ばれる──にとって都合が良かった。
勝者側であった光の勢力は、徹底的に闇の勢力を迫害することで、《災厄の悪魔》亡き後も団結することを図ったのだ。
それを良しとしなかったのが、中立勢力。彼らは勢力問わず、力を求められれば手を貸した。
悪く言えば蝙蝠だが、彼らによって助けられた人々は両勢力共に少なくない。
ちなみに光の勢力は《普人族》、《獣人族》、《森人族》。中立勢力は《悪魔族》、《天使族》、《技人族》である。
勢力に関して、知識とチュートリアルの《声》による説明と差異はない。
さて、情報を整理する中で一つ推測できたことがある。
私は生まれたての悪魔ではない、ということだ。これに関しては8割型確信している。
《災厄の悪魔》と呼ばれるだけなら、何か条件を満たした悪魔がそうなのだと、特に何も思わなかった。
しかしながら先ほどのヒマリの言動に加え、さらには最近獲得した《災厄の悪魔》という称号。
後者に関してはメタ的な考え方なってしまうが、称号の記述にこう書かれているのだ。
《災厄の悪魔》
約500年前、亡国の王子によって呼び出され、世界の半分を滅ぼした存在。
「君は世界を滅ぼすだろう。おめでとう、君は世界の敵対者だ」
スキル獲得……《神聖特攻》《人類特攻》
ここで仄めかされている通り、私は500年前に倒された《災厄の悪魔》として、復活した可能性が非常に高い。
そして何よりも、これはゲームであり、尚且つストーリーモードだ。もしこうなら面白い。
こうなってくると、確証はないがわかったことがいくつかある。
私が復活したように、例の勇者パーティーのメンバーも転生した可能性があるのだ。
もし私がウロボロスならそうする。なんせ《輪廻》の権能を持つであろう神が、強力なヒトをむざむざ寿命を全うさせるだけで終わらせるはずがない。
そうなると、いま戦っているヒマリは確実に聖女の転生体だろうね。
明らかに何かを知っている口ぶり。ウロボロスと対等な関係を築いているところ。
ただ剣神の義娘というだけでは、そんなこと不可能だ。
ただウロボロスが《不老不死》ではなく、転生させた理由が懸念材料ではある。
もしかして、不老不死は流石に権能にないのかな?そうなるとやはり、権能は《再生》《死》《輪廻》に絞り込めそうだ。
──ここまでの推測が正しいなら、やはりあの「36回」にも意味があるはず。
まずヒマリははじめから私が死んでも生き返ることを前提に行動していた。それは何故か。前回の《災厄の悪魔》も《不死》で生き返っていたからだろう。
しかし、最終的に死んでしまった。なぜなら《不死》には生き返るたびにレベルが1下がるという制約があるから。
だがそうなるとおかしい。経験値プールがなくとも、私は約50回は生き返れる。
前回の《災厄の悪魔》がどれだけのレベルだったかはわからない。
だが少なくとも私以上であることは間違いない。
そうなってくると、36回というのはやけに中途半端な数だ。それに断言しているのも気になる。
前回は、復活できる回数に限りがあった?それとも前回の数を参考に、復活できる回数を断定している?はたまたそもそも制約が異なった?
どれも等しく可能性がある。なにせこの世界は、人間の手を加えず全てを自立型AIに任せ完成したものなのだ。
ゲームとして売り出す際、運営がスキルに関して調整している可能性がある。
だめだ。情報が足りない。もはや単純に考えてみる?
36、倍数にすれば72。悪魔、72といえばソロモン72柱か。いささかベタすぎる設定ではあるが、あり得る話ではある。
例えば《災厄の悪魔》には72柱の眷属がおり、それらを身代わりにすることで《不死》を発動していたとかね。
信用し切るには情報が足りないが、72回で何かあるかもしれないというのは覚えておこう。
さて、情報の整理はこれくらいで充分かな。変数として一応前回の勇者パーティー(聖女以外)があるけど、そんな強力な存在がいればすぐにわかる。
いまは考慮しなくて良さそうかな。
それじゃあまあ、とりあえず72回死んでみることにしよう。偶然にも、72回死ねばヒマリの面前あたりにたどり着ける。
アルジェントの同期のため、もう暫く時間を稼ぐとしましょうかねえ。




