36話
中途半端ですが、長くなりそうだったので一旦投稿します。
36話
まずはアルジェントとご主人様の空間をそれぞれ隔離する。気休め程度であるが、ウロボロスの気を一瞬でもそちらに割ければ御の字だ。
彼女らを守っている、その姿勢をウロボロスとヒマリに見せつける必要がある。
「アルジェントを殺したくば、私を殺してからにしてください」
ふふ。ベタなセリフだけど、一度はこうやって宣ってみたかったのだ。
きっと言ってみたいセリフランキング20位以内には入ることだろう。
それはさておき、こう宣言しておいてなんだけど。現状私が彼女たちに対して出来ることはあまり多くない。
《神聖特攻》や《神特攻》のおかげでどんなダメージでも通るけれど、決め手には欠ける。
やはりここは甘えず、時間を稼ぐことに専念しよう。
「時間稼ぎ、ですか。いくらわたくしたちが弱体化したと言えど、舐めすぎでは?」
ヒマリが眉を顰めたその瞬間、私の頭が消し飛んだ。何の予兆もなく、文字通り消し飛んだのだ。
『《不死》が発動しました。レベルが49に減少します。HP、MPが100、SPが1下降しました」
『レベルが50に上昇しました。HP、MPが100、SPが1上昇しました』
「…………かふっ」
その瞬間、ヒマリが咳き込むように血を吐いた。私の種族スキル《道連れ》が発動したのだ。
確実に心臓を潰したはず……なのだが、ヒマリはそっと口を拭うだけで気にする様子もない。
「心臓を潰した筈ですが──随分とお元気なようで」
アンパンのヒーローみたく、新しい顔よ!とでも言うべきか、生え変わった顔で微笑みかける。
しかしながら彼女はスルー。表情ひとつ変わらない。残念だ。
まあでも、今の流れで分かったことは二つ。
一つ目、ヒマリはなんらかの権能で死を免れていること。
二つ目、たったいま私を殺したのはヒマリであること。
ウロボロスと関連づけるとすれば……一つ目は《輪廻》あるいは《不老不死》とでも呼ぼうか。
もしくは先ほどの"回帰せよ"で物だけを戻したのがブラフであり、本当はヒトも元に戻せるか。
正直錬金術の象徴でもあるウロボロスの権能を、コレだけで推測するのは難しい。
まず後者たぶんない。《空間魔法》とのしての《回帰》は、物が手元に戻ってくるだけだ。似て非なるものと考えた方がいい。
可能性があるとすれば前者。心臓が確実に潰れ、血を吐いてることから異常な再生能力、つまり《再生》の権能ともみれるが……はてさて。
二つ目はわからない。私には一切感知できなかった。
ご主人様やアルジェントがいる状況下で使わなかったあたり、何かしら条件はありそうだが──情報が足りない。
一つ目と同様無理やり関連づけるなら、《死》だろうか。しかし、それなら確実に感知できるはずなのだ。
できないということは、全く別の力が働いていることになる。
まあでも、《道連れ》でヒマリを殺すことは可能だとわかった。充分な成果だ。
「……やはり、蘇りますか。そこは以前と変わらないようで」
……どうにも、ヒマリは意味ありげな言葉を呟くのが趣味なようだ。
もはやヒマリがウロボロスに似たのではなく、ウロボロスがヒマリに似たかのような仕草だ。
「ふむ。以前とは──」
私のセリフは途切れることとなる。なぜなら再度殺されたから。
今度は頭だけでなく、全身余すとこなく消し飛ばされた。
『《不死》が発動しました。レベルが49に減少します。HP、MPが100、SPが1下降しました」
『レベルが50に上昇しました。HP、MPが100、SPが1上昇しました』
もう一度殺されたわけだが、何が起こったのか認知できない。細切れになったわけでも、塵となったわけでもない。
初めからなかったかのように、私は消滅しているのだ。某カードゲーム風に言うなら、『ゲームから除外する』が適当だろう。
蘇生されたついでに、一歩前進する。気づいているのか、気づいていないのか。ヒマリもウロボロスも動かない。
それならばありがたく利用させてもらおう。
私は殺されるたびに《不死》で蘇り、ヒマリを《道連れ》にする。ついでに一歩一歩前進する。
なぜ殺し方のバリエーションを変えない?
不自然なほどに同様の殺し方だ。何よりも私は無防備で、なおかつわざと殺されている。
なのにも関わらず、先ほど使った《神罰》や別系統の能力は使わない。
まさか《耐性》がつくことを知らないのかな?と思ったけど、そんなはずはない。彼女も私と似た系統のスキルを使っているなら、同様の方法で耐性を得るはずであるから。
それにウロボロスが一切行動していないのも気になる。
何かに集中している……?
分体があることは把握済みだが、何かをしている様子はない。
アルジェントへの干渉や、ご主人様へちょっかいをかけてる様子もない。
どういうことだ。万が一もないと考えていたが、信者の大半を殺したことが思った以上に効いている可能性があるのか?
正直内心疑問だらけで、多少なりとも苛立ちがヒマリに捉えられてしまったのか。
相変わらずの表情で問いかけてきた。
「36回。そろそろ焦ってきましたか?」
「……さて、何のことでしょうか」
どうしよう。本当にヒマリが何を想定して宣ったのかがわからない。
36回。わざわざ口に出して問いかけてきたのだから、重要な数であるはず。
まさかウロボロスがこちらに意識を割かないのも、アルジェントたちに干渉する素振りも見せないのもこれが原因か。
幸いにも経験値プールは今もなお増え続けているし、時間の余裕はある。冷静に考えてみるとしよう。
──まず、気がかりなのはヒマリの「……やはり、蘇りますか。そこは以前と変わらないようで」という言い回し。
まるで昔に私と戦ったことでもあるような、言い回しだ。
ならば《災厄の悪魔》について、私の持ちうる知識を整理していこう。こういうとき、悪魔族として知識がインプットされているのは助かるな。
──かつて《災厄の悪魔》は500年前にヴァルタニア神国に召喚され、その国を起点に世界に災いをもたらそうとした。
召喚主は不明。だが、王族に連なるものだったという曖昧な記録は残っていたようだ。
その力は強大であり、近隣国を中心として大陸全土の大規模な同盟が組まれたようだ。
その時に旗印となったのが、王道たる勇者だ。もちろん、カレンとは別の存在である。
性別は不明。出身はこちらもヴァルタニア神国。ちょっと気になるけど、今は置いておく。
──当然旗印となった勇者には、頼もしいパーティーメンバーがいた。
まずは魔法使い。魔国──フェンリルが守護する国──出身であり、人の身でありながら《魔神》と呼ばれるレベルの腕前だったらしい。
二人目は聖職者。聖国──ウロボロスが守護する国──出身であり、《聖女》と呼ばれる戦場の天使であった。
三人目は斥候。この人物についてはあまり情報はない。出身国不明、二つ名不明。唯一わかることがあるとすれば、この人物が人族ではなかったということか。
最後。四人目は遊び人、と呼ばれていたらしい。この人物も不明情報が多く、わかるのはデバッファー兼バッファーだったということくらい。
以上四人が《災厄の悪魔》に対する人類の少数精鋭であり、最後の砦でもあった。
こういうところは、人類の素晴らしい点とあげてもいいだろう。いくらヒト同士で争っていても、外敵が現れた瞬間一致団結して滅しようとするのだ。
いくら神がいるとはいえど、早々できるもんじゃない。




