32話
難産でした。やはり書き続けないと腕は落ち続けるんだなと泣
32話
テンドウに連れられ、案内されたのは白亜の壁の紅一点──門だ。
普段は信徒を迎えるため開かれてるはずの門は、今日に限って固く閉ざされている。
私が無理やりこじ開けようか、そう思った瞬間──カチン、という小さな音が鳴った。
するとどうだろう。あんなにも私たちを拒んでいた門は、細切れになって塵となってしまった。
「正面突破、なのじゃろう?」
「ええ。私が壊そうかと思っていましたが、貴方がやってくれるのならば話が早いです」
私はテンドウにあることを耳打ちする。それに対してテンドウは目を細め、唸り声を上げた。
「たしかに、ワシならば可能じゃ。じゃが──いや、なんでもない。巻き込むモノもおらんしな」
テンドウが城を見据えて刀に手を掛ける。私から言っておいて申し訳ないが、一旦待ったをかける。
「少し待ってください。一つだけ、聞かなければならないことがあります」
「なんじゃ?」
「預言者についてです」
そう。一番の不安要素が、この預言者とやらだ。
勇者が口にしていたが、預言者という存在は私の知識に存在しない。
悪魔として産まれた時に備えられた知識の中に、それが存在しないのだ。
どこから来たのか、なぜ神に召し上げられるほど強力な存在が、悪魔に識られていないのか。
下手をすればウロボロスよりも強力。その可能性を捨て切れないのだ。
「預言者は、ここ100年ほど前にウロボロスの元へ来た人間じゃ。まあ、今もなお現役ということは、人間ではないんじゃろうがな」
「……率直に聞きますが、預言者は"強い"ですか?」
テンドウなら預言者について、何かしら知っているはず。
しまったな、前もって預言者についてもっと話を聞いておくべきだった。
「……奴の強さは、正直わからん。気配を読んでも、平均的な人間としかわからんのだ。じゃが、名前の通り奴は未来を読める。そのアドバンテージは計り知れないじゃろう」
「……よほど気配を偽るのが上手いようですね」
流石に未来が読めるだけ──というのはみくびりすぎだろう。警戒するに越したことはない。
「予知の精度の方はどうだ?極東の巫女は万物を見通すと聞くが」
ご主人様の疑問に、テンドウは目を細めて答えた。
「預言者の予知は──巫女様よりも内容は抽象的じゃが、その分的中精度は高い。それに頻度も多く、代償も軽いようじゃ」
へえ、ダイワ国にも予知を使える人がいるのか。まあ日本モチーフの国だし、巫女がいてもおかしくないか。
「巫女様は──いや、話がそれたな。お喋りはここまでにして、そろそろ仕掛けるとしよう」
「ええ。頼みましたよ」
私たち4人は聖都の中に足を踏み入れる。その瞬間、肌がピリつくような感覚が私を襲う。
「……これが対魔結界ですか」
アルジェントとご主人様はピンピンしてる。当然だ。アルジェントは成り立てとはいえ神、ご主人様は人なのだから。
「……斬るか?」
「いえ、私が対処します。貴方は、私の合図を待ってください」
殺戮前だったら、不可能だっただろう。レベルも、スキルも、神に挑むには足りなかった。
しかし今の私は、【根源悪】。《災厄の悪魔》なのだ。
改めて、ステータスオープン。
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名前:イア・ノワリンデ 性別:女 種族:悪魔族LV50/50
【根源悪】……あらゆる全てと敵対する。
【契約中】……契約中、悪魔は十全に力を扱える。
【未受肉】
HP【6000】
MP【6000】
SP【6000】
《神の呪い》
《称号》
《災厄の悪魔》
約500年前、亡国の王子によって呼び出され、世界の半分を滅ぼした存在。
「君は世界を滅ぼすだろう。おめでとう、君は世界の敵対者だ」
スキル獲得……《神聖特攻》《人類特攻》
《血塗れの怪物》
通った道は血に塗れ、目に入った全てを鏖殺する。まるでその様子は──血塗れの怪物
「いったい何人殺した?なぜ何も感じない。……え、お前はアリを踏み殺した時、何か思うかい、だって?」
スキル獲得……《畏怖》《怪物》
《神殺し》
「神聖は失墜し、地に溺れる」
スキル獲得…《神特攻》
《精霊の天敵》
「おめでとう。君はこの世の理をも凌駕する。君は、あらゆる自然の敵となったのだ」
スキル獲得……《精霊特攻》《自然影響無効》
〈罪業スキル〉
《知恵の実》
「人が人たる所以は、全てこの罪によって始まった」
貴方は目に見える全てを解析することができる。
〈固有スキル〉
《黒霧》《月下の獣》《怪物》
〈種族スキル〉
《魂食》《不死》《堕落》《誘惑》《道連れ》
〈術系統スキル〉
《契約術Lv3》《料理術Lv1》《食器戦闘技術Lv4》《投擲技術Lv4》《掃除術Lv1》《幻惑術Lv1》《悪魔術Lv5》《交渉術Lv1》《隠密術Lv6》
〈魔法系統スキル〉
《空間魔法Lv20》
第10階位:〈収納〉〈回帰付与〉
第9階位:〈座標設定〉
第8階位:〈空間隔離〉
第7階位:〈瞬歩〉
第6階位:〈空間断絶〉
第5階位:〈空間転移〉
〈強化系統スキル〉
《脚力上昇Lv6》《腕力上昇Lv4》《嗅覚上昇Lv2》《瞬間強化Lv1》《神聖特攻》《神特攻》《人類特攻》
〈耐性系統スキル〉
《自然影響無効》《苦痛耐性Lv3》
〈その他スキル〉
《畏怖》《分身Lv3》《予測Lv4》《気配察知Lv6》《飛翔Lv2》《変装Lv1》《作り笑いLv-》《作り泣きLv-》《鑑定Lv2》《人化Lv–》《世界共通言語Lv–》
〈戦闘技能〉
《回転脚》《爆裂脚》
〈眷属〉
《月の銀獅子:アルジェント》
残りSLP0
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この通り、弱体化した神が創った結界如き、破れないはずがない。
「【知恵の実】──ふふ、厨二御心をくすぐられますね」
──解析完了。
もし効果音が鳴るのならば、パキンとガラスが割れるような音がしたのだろう。
まるで空が砕けたような、そんな光景。創国からこの国を護り続けた結界は、呆気なくその姿を消すのだった。




