30話
前回の投稿から気づけば1年経ってました。
今年の4月に就職いたしまして、ようやく最近落ち着いてきました。ぼちぼちまた書いていきます。
30話
「おはようございます、テンドウ。気分はいかがですか?」
「……最悪な気分じゃの。全てお主の掌の上と考えるとな」
テンドウはゆっくりと身体を起こすと、服についた埃を叩いて落とした。
その様子にご主人様は私の肩をちょいちょいとつつき、そっと耳打ちをしてきた。
「まさか本当に説得に成功したのか?いったいどんな魔法を……」
「ふふ、ただの利害の一致ですよ」
そう。彼は私という悪魔に対して、対価や契約内容をハッキリさせないまま契約を結ぶと宣言してしまったのだ。
いくら神とはいえ、悪魔の契約を踏み倒すことは不可能。今後が楽しみですねぇ。
「さて、ここまでお主は大口を叩いたのだ。なにか策はあるのだろうな?」
真っ白な顎鬚を撫でながら問いかけてくるテンドウ。それに対して私はにっこりと笑いながら答える。
「正面突破です」
「……なに?」
「もう一度言いましょうか?正面突破ですよ」
そう、彼は知らないのだ。聖国の住人が、私の巻いた毒によって今もなお死に続けているのを。
元々ウロボロスの命令で私を始末しにきた彼は、私がなぜここにきたのかも知らないだろう。
私の言葉に少し思案げになった彼は、アルジェント、私、そして最後にご主人様に目を向けた。
「正面突破するには、そこの2人が足手纏いになるぞ?よもや、聖国の神をそこまで侮っているわけではないだろう」
「ええ。現状はともかく、アルジェントは問題ありません。きっと、そろそろでしょうから」
コテンと首を傾げるアルジェントに、私はフッと微笑みかける。
きっと剣神も思ってるはずだ。神獣にまだなりたてとはいえ、アルジェントは弱すぎると。
それは当たり前なのだ。だってまだ、きちんと接続されていないからである。
「ご主人様は気にしないでください。私が守ります。ご主人様には、見届ける義務がありますので」
「フッ、傲慢だな。だがそれでこそ悪魔か」
テンドウはニッと笑みを浮かべると、刀の柄に手を触れた。
そして一瞬にてご主人様の方へと距離を詰め、刀を振り抜いた。
「ギィッ──ッ!!」
ご主人様──ではなく、その背後に迫っていた天使を、テンドウは容赦なく切り捨てた。
自分が切られるとでも思ったのか、ご主人様は腰を抜かして地面に座り込んでしまっていた。
相変わらずかわいいですねご主人様は。もしテンドウがそんな暴挙に出るなら、私が見逃すはずないと知っているでしょうに。
「……おい、せめて一言言ってから対処してくれないか。」
「一言言ったら相手に気づかれてしまうだろう。クク、それにしてもまるで女子のような座り方をするのだな」
言われてみれば、とご主人様をよくみてみると、俗にいう女の子座りをしてへたり込んでいる。
私からすれば別に気にすることでもないが、テンドウからすればよほどおかしかったのだろう。
「……おい悪魔。やっぱりこいつ殺してもいいぞ」
「今は利用価値がありますので、残念ながらそれは諦めてください」
ご主人様の両脇に手を伸ばして持ち上げる。じたばたと抵抗するのを尻目に、そのままお姫様抱っこをする。
「んなっ、おい離せ!」
「どうせご主人様のことです。腰が抜けて立ち上がれないでしょう?大人しくしていてください」
図星だったのか、不満そうな表情を浮かべてはいるが大人しくなった。
「さて、当然ですが既に私たちの位置は捕捉されているでしょう。ここからは時間との勝負です」
おそらく、弱体化したウロボロスは私とテンドウがいればどうにかなる。
問題は"勇者"だ。どんな形であれ、勇者として召喚された存在は破格の力を持つ。
その力が現状未知数な以上、彼女との争いは避けたい。
以前出会った時、私とご主人様が殺されなかった結果から思うに、彼女も進んでウロボロスに従っているわけではないはずだ。
テンドウのようにどうにかキッカケを作れれば、こちらに寝返らせることもできると思う。
まあ、ここまできたらあとはなるようになるしかないかな。
「テンドウ、先導は任せますよ」
「相分かった。悪魔も、そこの娘も、遅れるなよ」
アルジェントは何も言わずに首を縦に振った。流石は元魔物。自分より強い人には素直に従うみたいだ。
そうして私たちはテンドウを先頭に、聖国へと向かって駆け出した。




