27話
どう書くか迷って少し難産でした。お待たせいたしました!
それはそれとて、ブックマーク、評価、感想、いいね等ありがとうございます!
27話
「うわぁぁぁぁぁああああ!!」
焦りからか恐怖からか、思わずイアの頭を地面に落としてしまった。
敵が目の前にいると分かっていながらも、腰が抜けて地面にへたり込んでしまう。
「……現れ方的に転移かの?偶然ヤツが転移してきた瞬間にワシの刀で斬ってしもうたのか」
チン、という音を立ててジジイは刀を鞘に納めた。まるでもう敵はいないと言わんばかりに、目の前にいるオレなんて敵ですらないと言わんばかりに。
「くそ、くそっ!」
必死に足に力を込めようとするが、全くを持って動かない。
何が神獣だ、何が月下の獣だ!こんな体たらくで神を名乗れるものか!クソ、動け動け動け!!
「想定外ではあるが、悪魔を殺せたのならよしとするかの。──ふむ、死んでしまったのか……」
イアのことしか眼中になかったオレには、ジジイの言葉なんて耳に入らなかった。
なんとかイアの頭に手を伸ばし掴み取ると、そっと胸元に抱き寄せる。
つめたい。もともとイアは冷たかったが、より一層冷たくなっている気がする。
「………ねぇ」
「お主も運が悪いのぉ。まさか悪魔がお主を軸にして転移してくるとはの」
「おまえはぜってぇ許さねえ!!」
心の底から沸々と、カッとマグマのようなものが全身を駆け巡る。
それは決して冷やされることはなく、その産声を上げる。
その感情は、その想いは、その罪は。人類史上”怒り”と呼ばれるものだった。
『”憤怒”を確認しました。こ──』
「──何にそんなに怒ってるんですか?アルジェント」
ぽん、と何者かがオレの肩に手を置いた。もう聞こえるはずのない声。真っ赤になった頭が、一瞬にして鎮まった。
「……あ」
「ほら、きちんと私ならここにいますよ」
イアはニコリと笑いながら、オレの頬をむにむにと揉んでくる。
まるで先ほどまで死んでいたのが嘘のように、イアは五体満足で存在していた。
「え、あ、イア、生きて──」
「ふふ、私は悪魔ですよ?死んだくらいじゃ死にません」
それに、と呟くとイアはスッと目を細めてジジイの方を見た。
なぜか先ほどからジジイはぴくりとも動いておらず、虚な顔をしてその場に佇んでいる。
イアはジジイの目前まで行き、グイッと顔を近づけてその瞳を覗き込んだ。
「見えているんでしょう?ウロボロス。一度だけ言うので聞いていてくださいね。──私はあなたを殺します」
そう言うとイアは手をチョキの形にして、ジジイをその手で切った。
外傷はないが、まるで糸の切れた操り人形のようにジジイはその場に崩れ落ちた。
「ふふ、契約とは悪魔の十八番ですよ?神如きがその点において勝てるわけないじゃないですか」
そう言って口元に弧を描いたイアは──とても悪魔らしくて、とても頼もしくて、とても格好良かった。
ふう、危ないところでした。ここでアルジェントが死ぬとラフィニアとの約束が果たせませんからね。身を挺して庇って正解でした。
それに道中で新しく得たスキルも試せましたし、結果は上々です。
私は今しがたウロボロスから奪ったお爺さんの首元を掴み、引き摺りながらアルジェントの方へと向かう。
「アルジェント、怪我はないですか?」
「ああ、お前のおかげでな」
顔、首、胴、脚、全てを改めて確認したが怪我はなかった。
うん、アルジェントが無事でよかった。
「……お前こそどうなんだ。その、さっき死んだみたいだったが」
よほど先ほどの出来事がショックだったのか、心配そうに私の首元を見つめるアルジェント。
「大丈夫ですよ、怪我おろか汚れひとつありません」
私の種族スキル《不死》はレベルを1消費するだけで、私の全てを再構築してくれる。
メイド服とかも私の魔力からできているので、汚れとかも一切ないのだ。
しかも今の私は経験値が現在進行形でどんどん貯蓄されていっている。
無限とまではいかないが、《不死》をいくら使おうがレベルはすぐ50に戻る。
「ならいい。──ところでよ、どうやってここまできたんだ?お前転移魔法使えなかったはずだよな?」
アルジェントの言う通り、前の私は転移魔法をまだ習得していなかった。
しかし今回大量のSLPを得たおかげで、いろいろスキルをレベルアップさせることができたのだ。
まず、SLPを12使って空間魔法のレベルを20にした。レベル20から上げるとなると、1レベル上げるためにSLPが2必要となったので流石にやめておいた。
というかレベル20で欲しかったものが解放されたからね。言わずともわかると思うがど、《空間転移》だ。
「愚問ですね。使えないなら使えるようになればいいんですよ?」
ちなみにレベル10で《瞬歩》、レベル15で《空間断絶》、レベル20で《空間転移》を習得した。
それぞれ能力は以下の通りだった。
《瞬歩》……自身が認識できる範囲に転移できる。
《空間断絶》……空間を断ち切ることによって、あらゆる物理法則を無視して物質を切断する。
《空間転移》……指定した座標に転移する。
上記のどれも破格の性能をしており、しかも空間断絶という攻撃魔法も手に入れられたのだ。戦略の幅が非常に広がった。
また他にも種族スキル《道連れ》をとっておいた。獲得にSLPが20必要とコストは高かったが、その分能力が「自身のHPが0になったとき、HPが0になる要因となったもの全ての状態異常抵抗力を0にする」という破格のものだった。
因みにこのお爺さんが虚な状態なのは、道連れの効果で状態異常抵抗力が0になったところに、《堕落》と《誘惑》をかけたからだ。
堕落はあらゆる思考や行動を阻害する状態異常で、誘惑は簡単に言うとかけた相手がこちらの意のままになる。なんでもし放題だ。
残ったSLP22ポイントはすべて契約術につっこみ、スキルレベルを22まで上げておいた。
「……それができれば誰も苦労しねえよ」
アルジェントは呆れたような、胡散臭いものを見るような目で私を見つめてきた。
その後ため息をひとつ吐くと、私が引き摺っているお爺さんに目を移した。
「そのジジイはどうするんだ?なんか事情がありそうな感じだったが、ウロボロスの手下なんだろ?」
「このお爺さんならもう大丈夫ですよ。ウロボロスから契約を奪い取りましたので」
「……契約を奪った?」
私の言葉に目を丸くするアルジェント。
何言ってるのかわからねえとでも言いたげな顔をしているが、やった張本人である私もなんで出来たのかわかってないから安心してほしい。
「契約というのは簡単にいうと魔力の繋がりなんです。契約者、被契約者のお互いの魔力を絡め合わせることによってその効力を発揮させています。私はそれを無理やり上書きしたんです」
契約術のレベルが上がったおかげで、私は何やらその繋がりを目で見えるようになった。見えるなら干渉できるくね?って思って試しにやったらできてしまったのだ。
「……神と神の契約だよな?それを奪えたのか?」
「ええ、いとも容易く。信者と神の契約だったら不可能だったかもしれませんが、このお爺さんは違うようでしたし」
私は一応被契約者であるアルジェントの見聞きした情報も勝手に共有されるようになっており、そのため先ほどの会話ややりとりも把握している。
だからこそこのお爺さんは殺さずに生かしたのだ。わざわざ種族スキルを獲得してまで。
「ああああ、もうお前に関して疑問に思うオレが間違ってた!聞けば聞くほど訳がわからなくなるなお前は」
アルジェントは頭を抱えてキッとこちらを睨むと、もう一度大きくため息を吐いた。
なんか……ごめんなさい?
明日から赤湯に免許合宿に行きます。一応合間合間には書くつもりなのでご期待!




