25話
筆が進んだので本日2本目。
高評価、感想、ブックマークありがとうございます
大変励みになります
25話
鈴木さんに別れを告げると、その瞬間視界が暗転しご主人様の元へと帰ってきた。
ログアウトしていた時と同様の扱いになっていたみたいで、ご主人様からは特に何も言われなかった。
「無事、信者ぶっ殺そう作戦は成功したようです。現時点で信者の約10万人は殺害できました。今後も死者は増えていくと思うので、大成功といえるでしょう」
「そんな作戦名だったのか。──それはさておき、よかった。……10万人、か」
自分の命令でこんなにも多くの死者が出たことにダメージを受けたのか、ご主人様は顔を俯かせぎゅっと拳を握った。
「……ご主人様、後悔していますか?」
私の言葉にご主人様は顔をあげると、首を横にふるふると振った。
「後悔はしていない。ただ……これだけ人を殺しておいて、何も思わなかったんだ」
「まあ、ウジウジするよりはましです。これからもっと殺すことになるのですから」
だって、そろそろ属国だけでなく、聖国にも毒が完全に回るのだから。
『平均して経験値を6万6千×4万2千獲得しました。魂食により6万6千×4万2千獲得しました。総計55億4千4百万経験値を獲得しました』
『Lvが49→50に上昇しました。HP、MP、SPが100上昇しました。SLP2を獲得しました』
『レベル上限に達しました。限界を超えた経験値は貯蓄されます』
『悪魔族の種族レベルが50になったことにより、種族スキル《堕落》《誘惑》を獲得しました』
『種族レベルが50になったことにより、種族進化クエストが解放されました。詳細はシステムメニュー:クエストより確認ください』
経験値に関しては私から何か言うまで報告しなくていいよ。その代わり国が滅びたり深刻なダメージを受けていた場合、報告してほしい。
『【水神:ウンディーネ】の消滅が確認されました。条件を満たしことにより、称号【神殺し】を獲得しました。条件を満たしことにより【精霊の天敵】を獲得しました』
『またこれまで倒したもののドロップ品は全てアイテムボックスに格納されています』
……これは予想外。なんか気づいたら神を殺してました。
どうやらサリンは神にも通用するらしい。人間の兵器って素晴らしいね。
これ以上追加のサリンは撒けないけど、先程ので充分みたいだね。なにせ、どうやっても浄化できないんだから。
「ご主人様、想定外のことが起こりました。水神ウンディーネとやらを殺してしまいました」
「ウンディーネといえば、ウロボロスの眷属の1柱じゃないか!……まさか毒にやられたのか?」
「ええ、状況的に考えてその可能性が高いです」
偶然にもウロボロスの戦力を削れたのは非常にでかい。
……というか仮にも神と呼ばれる存在を従えてるのか。ウロボロスへの認識をちょっと改めないと。
「さて、下準備はこれで充分でしょう。ご主人様、アルジェントを迎えにいきま──」
『ガオオオォァァァァアアア!!!』
突如として響き渡った獣の遠吠え。私とご主人様はすぐさま遠吠えのした方へと目を向ける。
「頂上の方から聞こえたな」
「ええ、間違いなく今のはアルジェントの遠吠えです。しかもこの反応は──」
先程感知した嫌な気配と、アルジェントの気配が同じ場所にいる。どうやらかち合ってしまったようだ。
「急ぎましょう。ここでアルジェントを失うのは困ります」
「ああ、助けに行くぞ!」
私はご主人様を引き寄せ、先ほどと同様脇に抱えると、そのまま全力で走り出した。
「おい、またこの抱きかたなのか!」
「我慢してください。これが1番速いんです」
「おらおらおらおらおらあああぁぁぁ!!」
こちらに立ち向かってくる雑魚ども叩き、蹴り、潰す。こちらに恐怖して逃げ惑う雑魚どもも同じように捻り潰す。
「どうしたどうしたどうしたああ!こんだけ数がいて、こんなもんなのか、テメェらはよお!」
しかしどれだけ雑魚を潰しても、どれだけ血を浴びてもこの気持ちは収まらない。これも全部、アイツのせいだ!
「クソ、イアのやつあんなに尻尾握りやがって……!」
思い出すだけで顔が赤くなる。優しく触れる感じで握られた時、こちらのことなんて考えずに強く握られた時のこと──。
「ああああああ!!くそ、きえろきえろきえろ!!!」
この悶々とした気持ちが消えない限り、イアの前に立とうものなら大変なことになってしまう。
合流するまでに、この気持ちを鎮めなければならない。
「くそ、弱過ぎて話になんねえ。……お?この気配は──」
オレは頂上へと視線を向ける。そこには、膨大な神の力の気配があった。
自然と口角が上がり、身体が動き出す。
「どうせイアを狙った連中だろ、ぶっ殺す!」
木々の合間を縫うように走る。道中出会した魔物は鎧袖一触で殺し、スピードを緩めることなく走り続ける。
途中でなぜかイアからの力の共有が倍以上になり困惑したが、とりあえずは有り難く利用させてもらうことにした。
「こんだけ力が増したってことは、アイツの作戦は無事成功したってことか?……ならやっぱ、オレが不穏分子を殺しとかなきゃな」
そろそろ頂上が見えてくる頃合いだ。神の気配も近くなってきた。……というか、神の気配もこちらに近づいてきている?
それなら好都合だ!
「《領域創造:満月の夜》」
これは一部の空間をオレ有利の空間に書き換える権能だ。まだ効果範囲は狭いが、相手側から来てくれるなら関係ない。
それにいくらオレが神獣の成り立てとはいえ、神は神だ。あくまで神の力を持っているだけのやつより格は上だ。逃げようとしても引き摺り込める。
「ホッホッホ。ウロボロスの命より待っておったが、よもや悪魔でなく首輪付きの神獣と出会うとは」
そこにいたのは、一本の刀を腰に携えた爺さんだった。身なりは白一色に統一されていて、血がついたら落とすのに苦労しそうだ。
腰は曲がっておらず、むしろピンと背筋を伸ばしていた。
「……へえ、中々骨のありそうな爺さんじゃねえか」
「ワシもお主のような別嬪さんは久しぶりにおうたぞ。いつもだったらお茶にでも誘うんじゃが……お主はそうもいかないみたいじゃの」
カラカラと笑うジジイに対し、警戒は解かない。
……むしろ、実際コイツを見てはっきりしたことがある。
こいつは神の力を与えられたんじゃない。自分で得たんだ。
まずい、コイツ……オレなんかよりよっぽど強いぞ。もしかしたら、イア以上──だとしても!
「どうせ狙いはアイツなんだろ!だったら尚更オレが引く理由にはなんねぇな……!」
ハナから本気を出す。様子を見る余裕なんてねえ。
オレはすぐさま全身を神獣化させ、自分の出し得る最高速度で殴りかかった。
満月下、イアからの力の供給、そしてオレ自身の神獣としての力。
オレはその全てを振り絞り──
「ホッホッホ。お主には経験が足りておらん。どれだけ力があったとしても、使い方がわからなければどうもできんぞ」
──全くをもって届かなかった。
オレの全力に対しジジイは刀を鞘から抜いてすらなく、拳はジジイの小指一つで受け止められていた。
「な──」
「悪いの、神獣を傷つけるような罰当たりなことはしたくないんでの。用があるのは主の主人──悪魔だけじゃ」
オレはすぐさまジジイから離れ、再び拳を構える。現状どうやらジジイから攻撃してくることはないようだ。
だがしかし、オレがやつにダメージを与えられる手段もない。
……いや、ひとつあるか?
「はっ、ジジイのくせになかなかやるな。あんた、ナニモンなんだ?」
「ワシとしたことが、若い娘を前にしてついはしゃいで名乗るを忘れていたようじゃの。ワシはテンドー。身に余る光栄ではあるが、《剣聖》と言う名を拝命させてもらっておる」
ジジイ──テンドーはそう言うと、左目をパチリとさせウインクをした。




