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メイドな悪魔のロールプレイ〜強制ハードモードなメイドの奮闘記〜  作者: ガブ


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19話 現実回

19話




 "もう一つの現実"から、"本当の現実"へと目が覚める。まるで心地のいい微睡みから、喧騒によって起こされるように。

 私は『フルダイブ型VR機器』に備え付けられているベッドから身体を起こし、大きく伸びをする。


「ふわぁ…さて、お昼ご飯の用意をしないとね」


 ベッドから降りてから、スリッパを履く。とそこで、少し顔がベタついているのが気になりだす。

 お昼ご飯を作る前に、まずは顔を洗いに行こう。目を覚ますのもかねてね。




「つめたっ」


 思った以上に水が冷たくて、少々驚いてしまった。そういえば昨日の天気予報で言ってたな、今日は雪が降るかもしれないって。

 

 私は濡れた顔をタオルで丁寧に拭いてから、保湿のための化粧水を塗る。そのあとにちゃんと乳液も塗る。

 まとめていた髪をほどいて、髪を櫛でとく。


「……ん?」


 違和感を覚えたため私は一旦櫛で髪をとくのをやめて、手で髪の毛をかき分ける。

 顔を洗面台の鏡に寄せて、髪の毛を目を凝らして見つめる。

 

 一体どういうことなのか、私の髪の毛のほんの一房が、青く染まっていたのだ。


「前に染めたのがまだ抜け切ってなかったか…?」


 たしかに私は2ヶ月ほど前、青色に髪の毛を染めていた。もう完全に色が抜けきっていたと思っていたが、どうやらまだだったらしい。

 違和感が完全になくなったわけではないが、これ以上は気にしても無駄と割り切りることにした。


 洗面台に付着した水を使ったタオルで拭き取り、それを昨日の夜の洗濯物も入っているカゴに入れる。

 そして洗濯機の蓋を開け、靴下とブラジャーとパンツは洗濯袋に入れて洗濯機へと入れ、それ以外はそのまま入れる。

 洗剤を指定の量入れてから、蓋を閉め開始ボタンを押す。


 これで洗濯も終わったので、私は洗面所を後にし、献立を考えながらキッチンへと向かう。

 

「さて、お昼ご飯はなにを作ろうか」


 先日お裾分けしてもらった鹿のロース肉がまだ残ってたはずだし、鹿肉の蒸し焼きでも作ろうかな。

 

 キッチンへとついた私は、まずは炊飯器に水を入れ、精米済みのものを入れる。

 タイマーをセットし、開始ボタンをポチッと押す。


 肉を食べる上でご飯は非常に大事だ。炊き忘れなんてあってはならない。


 次に冷蔵庫からブロック状の鹿肉を取り出す。昨日のうちに今日ようのを解凍しておいたものだ。

 常温で置いていない分少し硬いがまあ大丈夫だろう。

 1ブロックにつき大体200グラムの大きさなので、1つだけを使う。

 まずあらかじめフライパンとオーブンを熱しておく。これは1番大事。


 次に鹿肉に塩と胡椒を少し多めに振りかけ、それを揉んで馴染ませる。シンプルだが大変な上、しっかりとやらないと味にムラができてしまう。


 これをオーリーブオイルで湿らせたフライパンに入れて、焼き目がつくまで焼く。

 表裏両方に焼き目がついたらオッケーで、トングで取り出してアルミホイルで包む。

 

 そしてアルミホイルに包んだ鹿肉を、オーブンに入れて167℃にして、13分ほど待つ。

 この間に先ほどのフライパンを使って、肉の味をより引き立たせるソースを作る。


 必要なのはバターに赤ワインに加え、ミキサーしたベリーと醤油と蜂蜜だ。

 このベリーはうちの畑で育てていて、使い道を模索した時にソースに混ぜると美味しいことに気づいたのだ。


 それはさておき、フライパンを今度は中火で温める。そこへこれらの材料を入れ、煮詰める。汁っけがある程度減るまで煮詰めたら、フライパンからソースを別の容器に移す。

 

 とここで、ピピピーというタイマーのなる音が聞こえた。ちょうどいいタイミングだ。

 オーブンの火を止めて、肉をさらにここから余熱で焼く。だいたい30分ほど待てばちょうどいい具合になるだろう。


 少し時間ができたので、私はキッチンを出てすぐにあるリビングに行き、ソファーに腰掛ける。

 テレビの電源をつけ、それをぼーっと眺める。


『次のニュースです。

 本日、午前8時頃に多摩市貝取の交差点にて、女子高校生がトラックに撥ねられる事件が発生しました。

 目撃者の証言によりますと、トラックは赤信号を無視して直進し、青信号を渡っていた被害者に追突した模様です。

 犯人は未だ逃走中で捕まっておらず、周囲の防犯カメラやドライブレコーダーの情報から捜査を進める方針です。

 またなぜか被害者が辺りで見つかっておらず、捜索が続けられています』

 

 なんともまあ不思議な事件もあるものだ。交通事故が発生したのに、撥ねられた側も撥ねた側も見つかっていないなんて。


 犯人は逃走中とのことだが、女子高生の方が見つからないのはおかしいね。

 相当な重傷を負ってるはずだろうけど…続報が非常に気になるな。


『続きまして、大人気VRゲーム【The Ideal Story】が全世界同接3000万を記録し、ギネス世界記録を大幅に更新しました。

 いやあ、すごいですね池崎さん!』


 お、この話題は私もすごく気になるな。今ちょうどハマってるゲームだし。


『そうですね。いまや知らない人の方が珍しいですからね。ゼロから電子空間に世界を作り出し、人間の手を加えず全てを自立型AIに任せ完成したものですからね』

『すごいですよね。かくいう私もプレイさせてもらっているんですが、本当素晴らしいクオリティで。あの"もう一つの現実をあなたに"という謳い文句さまざまですよ』


 頬を赤く染めて、興奮気味に話すアナウンサー。テレビという液晶越しでも、彼の熱意が伝わってくる。

 

 ものすごく気持ちがわかる。現実味のない、もう一つの現実。

 どれだけバカにしようが、どんな人でも心の底では願っている、現実とは違う自分になれるのだ。

 まあ私はストーリーモード以外やらせてもらえないんだけどね。あれ、目から涙が……。


『もちろん私もやらせてもらってますね。種族は犬の獣人族を選びましたね。どうやらあのゲーム、スポーンする場所もランダムらしくて私は少し寂れた村にスポーンしましたね』

『へえ、そうだったんですか。私は運良く街の近くにスポーンできました。ただ聞いた話、どれだけ辺鄙な村でも冒険者ギルドはあるらしいですね』


 ふむふむ、なんか私のやってるゲームと違くないかな。

 悪魔族で始めたら、スポーンなんてせずにすぐストーリーモードが始まったんだけどな…。やっぱり悪魔族はベリーハードみたい。


『ストーリーモードも魅力的ですよね。人によって千差万別、"もう一つの人生"を体験してるようですし』

『わかりますね。私なんて感動して泣いてしまいましたし。あと、スキル制度も素晴らしいですね。自分の努力値がわかりやすいですね』

 

 そんなこんなでうんうんと頷いたり、やっぱ悪魔族不遇だなと思いながらテレビを見ていると、キッチンからピピピーという音が聞こえてきた。

 もう30分も経ったのかと少々驚いたが、テレビを消して立ち上がり、キッチンへと向かう。


 オーブンを開けて、アルミホイルに包まれた肉を取り出す。

 ゆっくりとアルミホイルを剥がし、その状態をオズオズと確認する。


「おお…いい出来上がりだ」


 焼き具合も、焦げ具合も、ニオイも全てバッチリ。肉を切り分けてさらに盛り付け、そこへ先ほど作ったソースをかける。

 どんぶりにご飯を盛り付け、箸を持ってそれぞれ食卓に並べる。


「おお…我ながら会心の出来だな」


 ここで写真をパシャリと一枚。専用のインスタに投稿しておく。これは最近始めたばかりのはずなのに、いつの間にやらもうフォロワーが1万人を超えていた。

 みんな美味しそうな料理が好きなんだろうね。


「コメントつくの早いな…。なになに、『安定のどんぶりで安心した』『料理美味しそうなのに、横にあるのがめちゃでかいどんぶり』って、なんだそんなにどんぶりがダメなのかい」


 こんな美味しそうな肉があれば、どんぶりの1杯や2杯余裕だろう。え、余裕だよね……?


「まあそれはともかくとして、いただきます」


 まず肉を1枚口に運ぶ。まず感じるのがいい塩梅の塩胡椒加減だ。肉の味をよく引き立ててくれている。

 その後に来るのが、このソースだ。

 甘味のソースはこの味付けにマッチしていて、さらに1段階上の風味へと昇華させてくれる。

 私はこの"味"が冷めないうちに、ご飯を口の中に運ぶ。


「〜〜〜ッ!うまい!」


 よく噛んで飲み込み、次のもう1枚をまた口に運ぶ。今度は同時にご飯も口に入れる。

 不味いはずがない。美味しすぎる。

 肉を口に運んで次にご飯を口に入れる。それを繰り返してるうちに気づけば肉とご飯は全てなくなっていた。


「ごちそうさまでした」


 満足のいく昼ごはんであった。もう夜はカップ麺でいいや。

 使ったフライパンや食器を洗い、食洗機に入れスイッチオン。

 歯を磨きトイレを済ませ、私は再びもう一つの現実へと向かった。

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― 新着の感想 ―
轢かれた女の子の名前勇者と一緒そう
[一言] 轢かれた女の子が勇者?
[一言] いいねぇ〜 現実を侵食してるのか、なんらかの強制力が働いているのか。 思えば、『悪魔セット』を組んでくれたあのAIも気になりますねぇ?
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