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Day.4-4 新たなるミッション

 幸い、図書館の周辺はベンチがたくさん置かれている。

 午前中であるこの時間はそこに座っている人はほとんどいない。

 これはむしろ好都合である。


「端っこへ行きましょう」


「そうだな」


 連れだって、一番端のベンチへと歩く。

 長話になるようなら何か飲み物でも買っておけばよかったか。

 俺が持っているのは酒だけだ。

 ほんと、傍から見りゃあ単なる酒狂いだよなぁ。


 木製のベンチに座り、一息つく。

 あっちの世界と比べてはるかにゆったりとした足取りで通りを行き交う人々。

 様々なにおい。

 

 図書館の周辺は手入れが施された造園になっていて、ここを散策しながら思索にふける人もいるのだろう。

 目深にフードを被った人物が一人、ちょうどその庭をゆったりとした歩調で進んでいる。

 何を見るでもなく、ふらふらと覚束ない酔っぱらいのような足取りで。


 ううむ……怪しい。


「あれは気にするな。

 シトリのやつだ」


「あっ、屍体でしたか」


「念の為、一体だけこちらへ配置しておいてもらった。

 私の見る限り周辺には不審者はいないが、一応の配慮だ」


 シトリの術はかなり遠距離まで届くみたいだ。

 

 それにしても……イリヤさん、慎重な態度を取っているな。

 一体何の話だ?


「ここである人物と待ち合わせをしている。

 その人物が到着するまでの間に、必要な情報を共有しておく」


「待ち合わせ、ですか」


「ここの図書館の司書だ。

 後で中を案内してもらうつもりだ」


「へぇ、ガイド付きってことですか。

 それは贅沢ですね」


「ま、ただの道案内で呼んだわけではないのだがな。

 その辺の事情は追って司書から説明してもらう。

 まずは何より、現在の城内の動きについてだ」


 イリヤさんの表情が険しくなった。

 俺は頷く。

 雑談終了、いよいよ本題だ。


「王の長期にわたる不在により、城内で新たなる王を選定しようとする動きが活発化している」


「今朝、ちょうど俺も王様から少し事情を聞いたところです。

 二人の息子と、三人の大将について」


「ほぅ、そこは既に知っていたか。

 ならば話は早いな。

 三大将のうち、王子ソラリオの後見人に当たるのがユリウス・スペリオル。

 そして王子ロクスの後見人がヴァルト・ラガドという男だ。

 もう一人、最年長のヨハネ・ドミナトゥスというのが三大将の取りまとめ役をしている。

 年齢から言えばソラリオが次王に当たるのが順当なのだが、この王子、相当な放蕩(ほうとう)息子で政治の世界にはとにかく向いていない。

 ユリウスもどちらかと言えば穏健派であり現在は王の生死がはっきりしていないとして態度を保留している」


 うむ、ややこしい話になってきた。

 全部を覚えるのは大変だ。

 かいつまんで、要点だけ抑えておくか。

 

「ロクスの後見人はラガドだが、問題はこの男の方だ。

 野心家でとにかく気が短い。

 この機に乗じて何としてもロクスを担ぎ上げ、自分が権力を得ることに執心している。

 城内でロクス派を焚き付け、発言力を増そうと画策しているのだ。

 ロクス王子が次王の座に就けば、軍の方針は実質的にラガドが決定することになる。

 そうなれば奴はロメール帝国の圧倒的な軍事力を総動員して周辺諸国へ侵略戦争を仕掛けるだろう」


「それは……面倒ですね。

 今のところ帝国はそんなに激しく戦争してないんでしょう?」


「現王は周辺諸国との融和を基本政策としている。

 それが故にスカイピアへの外遊を行ったわけだが、裏目に出たな」


 王が戻らない限り、ラガド大将は強固な態度を崩さないだろう。

 それはしかし、戦争へと国家を駆り立て、国力を、国民を疲弊させるだけだ。

 しかも今は非常時、魔族が虎視眈々と帝国を狙っている。

 間が悪いことこの上ないな。


 ……やっぱり王様を早く城内へ連れ戻すべきでは?


「王は、まだ隠れているつもりか?」


 イリヤさんが訊いてくる。


「そう言ってましたよ」


「呑気なものだな」


「自分が不在の間に城内で怪しい動きをする奴が出てくるだろうから、イリヤさんやジュークに見つけてもらうんだ、と」


「そんな事を?

 ふぅむ……人任せな王だな」


「そのラガドってのが一番怪しいんじゃないですか?」


「こいつはあくまで自分の欲望に忠実なだけだと私は考えている。

 もしこいつが裏切り者だとしたら、ここまで露骨に立ち回るだろうか。

 それに私はラガドと古い付き合いだが、あの男は昔から頑なに武力で問題を解決しようとする人間だった」


 ならば、違うか。

 うーん、でも俺が自分で確かめたわけじゃないしな。

 一応、警戒だけしておきたいところだ。


「ところで、俺の力が必要になるかもって言ってましたよね?」


「あぁ、その件か。

 覚えているか、ネハンの店のマリという女店主のことを」


「あの妨害装置が置かれていた店の……」


 俺も、顔は知っている。

 二度、マリさんには会っている。


「城内に身柄を押さえ、取り調べをしていたのだが……」


「どうしました?

 何か事件に関与していた証拠でも?」


「いや、何も。

 この取り調べはラガドが指揮を執っているのだが、今日中にマリが何らかの供述をしなければ地下の牢獄へ移すと言っているらしい」


「地下の牢獄って?」


「極悪人を収監するために主として用いられる場所だ。

 それと……拷問部屋としての役割も」


「拷問ですって!?」


 ただ疑わしいというだけで、あやふやな状況証拠だけで、拷問だと?

 それはいくらなんでも、むちゃくちゃ過ぎる。


「ラガドの事だ。

 事実がどうであろうと罪をこの女に擦り付けて功績を稼ぐつもりだろう。

 それに拷問の結果口を割ろうと割るまいと、死人に口なしだ」


「そんなバカな!

 いいんですか、そんな横暴を許して」


 それじゃどの道、マリさんを殺す気マンマンってことじゃないか!


「私が許すわけが無かろう。

 そこで、だ。

 お前を城内へ連れて行く。

 お前の能力で事件の真相と、裏切り者を探れ」


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