サイドストーリー2 ダイヤモンド
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クラリスが修道院送りになった後のお話です。
「もちろんです。どんな協力も惜しみません。お姉ちゃんのこと、どうかよろしくお願い致します」
そう言って、目の前の美しい辺境伯は嬉しそうに微笑んでくれた。
なるほど。「リュミエールの真珠」と呼ばれるだけあるね。確かにこの世のものとは思えない美しさだわ。もちろん、クラリスには及ばないけどね。
…個人の感想ですので、クレームは受け付けません。
早速外堀を埋めるために動き始めた俺は、その日クラリスの実家であるリュミエール家の屋敷を訪れていた。
クラリスには申し訳ないけど、彼女の過去について勝手にいろいろと調べさせてもらった。
クラリスはこの国の有力貴族であるリュミエール辺境伯家出身だったけど、5年前に起きたある有力貴族による反乱未遂事件に巻き込まれる形で身分を剥奪され、セント・ジュード修道院での無期限謹慎を命じられたらしい。
その情報だけだとクラリスは他の有力貴族同士の権力争いのとばっちりを受けて転落しただけに見えたので、それならどうしてクラリスがあんなに自罰的なんだろうと最初は不思議に思ったけど…
もう少し詳しく当時の状況を調べている中で、クラリスが今、俺の目の前にいるエリカ・リュミエール辺境伯…つまり自分の妹への嫉妬から彼女に濡れ衣を着せて領内から追放し、最後には殺害しようとまでしたという事実が判明した。
ということで、クラリスが毎日礼拝堂で泣きながら謝罪し続けている相手はおそらくリュミエール辺境伯で、クラリスの心を救える人間はおそらく彼女しかいないと思う。
だから俺は、事前にいろんな交渉のカードを準備したうえでリュミエール辺境伯に面会を申し入れた。なんとか辺境伯にクラリスのことを許してもらって、彼女の修道院での謹慎処分を終了させることに協力してくれないかと打診するために。
5年も前のこととは言え、辺境伯の立場からするとクラリスに対して今も憎悪や軽蔑の感情を持っていたとしてもおかしくない状況だから、非常に難しい交渉になることを覚悟していたんだけど…
まだ一枚も交渉のカードを切っていないというのに、リュミエール辺境伯は二つ返事でそれを承諾してくれた。
辺境伯によると、クラリスが今の状況になってしまったのは自分にも非があるから、クラリスの境遇には心を痛めており、逆に彼女に申し訳なく思っているとのことだった。だからクラリスのことを許すも何もないし、謝罪の必要も全くないと。
そして辺境伯本人も自分の家族の謹慎処分がなるべく早く終わるように前から力を尽くしているとのことで、俺という協力者が現れたことに感謝しているとまで言ってくれた。
…うん、「不死の聖女」と呼ばれるだけあるね。器の大きさが桁違いだよ。
自分の同性婚を正式に認めてほしいとこの国の女王に直談判したとか、辺境伯が義父と慕う大権力者のブライトン伯爵が唯一、気を使う相手が他ならぬ彼女だとか…
有事の際には最前線で魔物の返り血を浴びながら戦うことも厭わないとか、最上級のアンデッドが与える死の恐怖にさらされても眉一つ動かさないとか…
もういろんな伝説がある人なんだけど、たぶんその伝説、すべてが事実に基づいたものなんだろうな。
…俺、すごい人を義理の妹にすることになるんだね。彼女との関係も大事にしていかないとね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「えっ、なんで…?どうしてエリカがここに…?」
「……」
「…えっ、ちょっ、何?…っ!?」
目を大きく見開いて驚くクラリスに無言で歩み寄った辺境伯は、有無を言わさずクラリスのことを強く抱きしめた。
クラリスは驚いた表情のまま、何をどうすれば良いかわからず固まってしまった様子だった。
「…聞いたよ。毎日泣きながら私に謝罪してるんだって?」
「…!?」
「そんなに申し訳ないと思ってるなら、なんで私との面会を毎回拒否してたのさ」
「……あなたに合わせる顔がないから…」
「…何それ」
「ごめんなさい」
「私がお姉ちゃんに別に怒ってないのは知ってたよね?私、何度も謝罪の必要なんかないって手紙にも書いたよね?」
「…ごめん。でも、私にはあなたに許してもらう資格なんかないから…」
「……なるほどね。こりゃ確かに重症だわ。彼氏さんが必死になってうちの屋敷にまで訪ねてきたのもわかる」
「…!?」
その言葉を聞いたクラリスは、辺境伯に抱きしめられたままの状態で、近くで様子を見守っていた俺の方に少し非難めいた視線を飛ばしてきた。
勝手なことしてごめんな。でも今回の件を含めて、俺に対する不満や小言はあなたの夫になって一生聞いてあげる予定だから今は妹さんとの感動の再会に集中して。
「お姉ちゃんがどう思っていようが、私はもうお姉ちゃんのこと許してるから。…正直、最初から怒ってないから本当は許すも何もないんだけどさ」
「…エリカ」
「…あとね?」
「うん?」
「女王陛下からも恩赦が出たよ。だからお姉ちゃんたちの謹慎期間は今日で終了」
「…えっ!?」
そう。辺境伯が今までいろいろと根回しをしていたところに俺が登場したことで、前リュミエール辺境伯とセシル夫人…そしてクラリス辺境伯令嬢の恩赦はあっさりと決まった。
…山奥の修道院に幽閉されている罪人の娘が、遠い国とはいえ大陸有数の軍事大国の王子妃に化けるというならそりゃ誰だって歓迎するよね。
俺が負傷前まで冒険者の真似事していた理由。それはうちの国の王家に代々伝わる謎の伝統にあった。うちの国、武力には絶対的な価値があると信じて疑わない典型的な脳筋系の軍事国家でさ…
王家の人間は男女問わず、幼い頃から剣(本人の適性によって他の武器でも可)の腕を磨くことを要求され、18歳になった時点で王族としての身分を隠して冒険の旅に出ることが義務付けられているんだよね。
俺はその修行の旅の途中で負傷してセント・ジュード修道院に流れ着いた訳ですよ。ちなみに俺が「仲間に裏切られた」訳ではなく「仲間だと思っていた相手が実は最初から俺の命を狙っていたアサシンだった」ことも判明している。
だから本当は体が回復した時点で俺は冒険の旅を続けるなり、自国に戻るなりする必要があったんだけど…。
俺は王子として生きる道よりもクラリスと生涯寄り添う道を選びたかった。だから一時期、もう王子としての俺は死んだことにしようと本気で考えてた。
でも俺がいない間にうちの王家では血なまぐさい後継者争いが勃発したようで、他の兄弟姉妹は次々と命を落としたり、失脚したりしていて…
結果として一人行方をくらましてずっと安全圏にいた俺の健在が確認された段階で、なぜか俺は次期国王の最有力候補になってしまった。
…こういうのを漁夫の利って言うんだろうね。いや、別に国王になりたいとは思ってなかったから「利」ではないかもしれないけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クラリス・リュミエール様」
「…はい」
「一生あなたを大切にします。…僕と、結婚してください」
片膝をついて真っすぐ彼女を見つめる俺の姿を少し恥ずかしそうに見下ろしながら、クラリスはいかにも彼女らしい返事をしてきた。
「…本当に私なんかで良いんですか…?」
いや、プロポーズされてる時くらい「私なんか」はやめようよ、クラリス。こっちが悲しくなるわ。
俺、もう何度も君の「私なんか」って言葉は好きじゃないって伝えてるよね?ま、いいや。こんな時にまで「私なんか」という言葉を使ったことに関しては、今夜またベッドでじっくり反省してもらうとして…
「あなたじゃなきゃダメなんです」
「……はい、…はい!私でよければ喜んで…!」
涙を流しながら、クラリスは俺のことを強く抱きしめてくれた。
…幸せだな、俺。
あの時重傷を負ってセント・ジュード修道院に運ばれて本当によかった。まさにこういうのを「運命」って言うんだろうね。
一生大切にするからね、クラリス。でももう「私なんか」といって自分を卑下するのはなるべくやめようね。
エリカさんが「真珠」なら、俺にとって君は「ダイヤモンド」だからね。
本作はこれで完結しました。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
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すでにブクマも☆評価もしてくださっている天使の皆様。
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