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サイドストーリー1 修道院の女神

※サイドストーリーには百合要素がありません!百合要素のみを求めていらっしゃる方はスキップ推奨です。


クラリスが修道院送りになった後のお話です

 俺には心から愛している女性がいる。名前はクラリス。名字は捨てたとのことで教えてもらえていない。


 俺が彼女に出会ったのは、冒険者仲間に裏切られて重傷を負い、瀕死状態で運ばれたセント・ジュード修道院だった。


 彼女は回復魔法が使えるという訳ではなく、修道女でもなかったようだけど…それでも俺のことを献身的に看病してくれた。


 クラリスによると俺の看病は、修道院から割り振られた彼女の仕事に過ぎなかったようだけど…。


 信頼していた仲間に裏切られ、体が元の状態にまで回復するかどうかも分からないような重傷を負ったことに絶望し、自暴自棄になっていた俺にとって、彼女は女神のような存在だった。


 正直、当時は非常に心が荒れていたから、誰よりも近いところでずっと俺を看病してくれていた彼女に八つ当たりをしてしまったことも何度もあった。


 物理的に暴力を振るったことはさすがにないものの、暴言を吐いたことは一度や二度じゃない。


 でも彼女はそんな俺に怒ることも、愛想を尽かすこともなく、ただ淡々と俺の面倒を見続けてくれた。


 少しずつ体の傷が癒えるにつれて、心の安定…というか正気を取り戻した俺は、自分の行動を深く恥じて何度も彼女に謝罪したんだけど…


 彼女はただ自嘲的な笑みを浮かべながら「大丈夫です。私は誰に何を言われても文句は言えないようなことをしてきた人間ですから」と言うだけだった。


 その言葉を聞いた俺は、彼女がどのような人生を歩んできて、なぜ山奥の修道院にいるのかを推測できてしまった。


 「名字は捨てた」という言葉やどこか品の良さが滲み出ている立ち振る舞いから、なんとなくそうかなとは思っていたけど、そのセリフで確信したんだよね。


 たぶん、彼女は何か罪を犯した貴族で、山奥の修道院で暮らしているのはおそらくその罪に対する罰なんだと思う。


 罪を犯したけど、その罪が死刑になるほどのものではない貴族に対する罰として、修道院への幽閉という方法が選ばれるのはどの国にでも普通のことだからね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺の治療とリハビリが終わり、再び戦える状態になったのはセント・ジュード修道院に来てから一年後のことだった。かなり時間がかかっちゃったけど、あれだけの重傷が完治して後遺症も残らなかったことには感謝しかない。


 正直、俺の負傷が完治したのは奇跡だと思う。死んでいてもおかしくないレベルの重傷だったし、最初は二度と歩くこともできないだろうと言われていたから。そしてその奇跡を起こしてくれたのは、間違いなくクラリスの存在だった。


 だから俺は回復後も冒険の旅に戻ることなく、修道院を守る私兵の一人としてセント・ジュード修道院に残ることにした。


 表向きの理由は自分の命を助けてくれた修道院に恩返しがしたいというもので、それ自体も嘘ではなかったけど…。


 もちろん本当の理由はクラリスとずっと一緒にいたいからというものだった。彼女がいつまで修道院に幽閉され続けるのかは分からないけど…クラリスがいるところが、俺がいるべき場所だからね。


 もし彼女が生涯、修道院に幽閉される予定なのであれば、俺も一生、この修道院で私兵として働き続けるのみ。


 …正直、やろうと思えば修道院から彼女を強引に連れ出すこともできなくはないけど、明らかにクラリス本人がそれを望んでいない様子なんだよね。


 クラリスはやたら罪の意識が強く、まためちゃくちゃ自罰的だった。たとえば、彼女は誰が見てる訳でもないのに、一日も欠かさず礼拝堂の隅っこの目立たない場所に跪いて長時間、涙を流しながら誰かに謝罪し続けている。


 最初見た時はびっくりしたよ。「うわ…俺の最愛の人って結構病んでる子だったんだ」と思ってしまった。もちろんそんな理由で俺の気持ちが変わることはありえないけどね。


 逆に彼女が病んでいる原因を取り除いて、彼女の心を癒してあげたいと強く思った。彼女が俺の心を救ってくれたようにね。


 でもきっと、俺が無理やり彼女を修道院から連れ出して、彼女を自由の身にしたところでクラリスは少しも喜んではくれないと思う。


 むしろそんなことしたら彼女、ますます病んでしまいそうな気がする。だから俺は静かに彼女に寄り添い、彼女の心の傷が癒えるまで彼女を見守り続けることにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺のそんなしおらしい姿勢は長くは続かなかった。理由は、いつまで経ってもクラリスの様子が一向に変わらなかったから。


 俺とクラリスの出会いはいつの間にか3年も前の出来事になっていた。そして段々彼女に対する好意や愛情があふれるのをコントロールできなくなった俺は、ここ1年くらいは堂々とクラリスを口説きまくっている。


 修道院の人たちも、そして同じ修道院に幽閉されているクラリスのご両親も俺とクラリスの様子を温かく見守ってくれている様子だったけど…。


 でも肝心のクラリス本人が難攻不落だった。しかもその理由がさ…もう拗らせすぎてて「どうしたらいいんだ、これ」って感じだったんだよね。


 彼女の言い分は「私もあなたをお慕いしております。でも私は幸せになってはいけない人間なので…申し訳ございません」というものだった。何度告白しても一貫してそんな感じの返事。


 そして礼拝堂の隅っこに跪いて泣きながら誰かに謝罪の言葉を述べるという謎の行動も、今も毎日続いている。


 そんな彼女の姿を近くでずっと見てきた俺は、きっとこのままではどうにもならないと判断した。積極的に動かないと二人の関係はいつまでも変わらないと思った。だから俺は、行動を起こすことにした。


 最愛の人があれだけ苦しんで、病んでいる根本的な原因を取り除くために。


 彼女の気が済むまで一生修道院で彼女にただ寄り添うんじゃなかったのかって?


 …ごめん、やっぱ俺には無理だった。


 俺は何が何でもクラリスと結ばれて…彼女と恋人同士、そしてゆくゆくは夫婦としてちょっと過剰なくらいイチャイチャしながら生きていきたいんだ。…どうしてもね。


 そんな女性と両思いであるところまで確認できているのに、相手の拗らせ具合を理由に諦められるはずがない。


 だから…もう俺は自分が持つあらゆる力を使って、強引にクラリスの拗らせを矯正していくことにした。

でも作者はそんな読者様に怒ることも、愛想を尽かすこともなく、ただ淡々とブクマと☆評価のおねだりを続けるだけだった。

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