３３話（２０－２話）　破滅の理由

「つまり、ロイはそのフォルセル侯爵とかいう極悪人とつながっていて…」

「極悪人というよりは最近ちょっと頭がおかしくなってきた感じかな」

「私にとっては極悪人だよ。で、そのフォルセル侯爵とかいう悪魔が、もしかしたらうちの家を狙ってるかもしれないと」

「悪魔になってる…。でもまあ、そんな感じ。あくまでも可能性に過ぎないけどね」

　許さん。許さぬぞ、ロイ・メイウッド。そしてフォルセル侯爵とかいう腐れ外道。

　…うん、さすがに「腐れ外道」はやめようか。私にお嬢様らしいところが一つもないのはちゃんと理解してるし、そんな自分をもう受け入れているけど、さすがに「腐れ外道」はちょっと下品すぎるよね。

　そんなことはどうでも良いとして。

　ケネスくんが調べてくれた情報によって、私を二回も人生の途中退場に追いやった忌々しい陰謀の正体が見えてきた。

　ケネスくんの話によると、ロイは自分自身と母親の命の恩人であるフォルセル侯爵とつながっていて、フォルセル侯爵の邪悪な野望のためにリュミエール領で何らかの裏工作をしている可能性があるとのことだった。

　で、そのフォルセル侯爵の野望というのは、完全にケネスくんの推測に過ぎないけど、リュミエール家を自分に隷属させるか、または破滅させたうえで空白となったリュミエール領を自らの支配下におくことのようだった。

　元々王国屈指の有力貴族であったフォルセル侯爵は、最近急速に力を伸ばしているブライトン伯爵…つまりケネスくんの父君との権力争いでかなり劣勢に立たされているらしい。

　だから起死回生の逆転劇を起こすために、下劣極まりない策略を使ってリュミエール領を飲み込むという陰謀を企てたのだろうと。

　確かにうち、割と有力貴族だし、魔物との戦いの最前線となる重要拠点を領地にしているし、王国屈指の精鋭部隊「グランフェルト・レンジャー」の指揮権も持ってるからね。狙われても不思議ではない。

　そしてロイが騎士として極めて有能であることは事実だけど、それにしても早すぎる彼の出世はフォルセル侯爵という実力者が裏にいることも理由の一つのようだった。

　また、リュミエール領に派遣される部隊の隊長に彼が選ばれたのもフォルセル侯爵の意向が反映された結果かもしれないと。

　ケネスくんは何度も「可能性の話にすぎない」と念を押してきたんだけど…。

　私はそれがおそらく事実であることをすでに知っている。実際に過去の二回の人生で、ロイの策によってリュミエール家は崩壊したわけだからね。

　そして今回もおそらくロイは何らかの方法で牙を剥いてくるはずだけど…。

　問題は今のところ彼が悪巧みをしている証拠は何もなく、場合よってはまだ何も始めてもいない可能性もあるということなんだよね。

　私が「ロイが何かしかけてくるはず」と確信しているのは過去の２回の人生の記憶があるのがその理由だから。

　となると、結局今の私にできることは引き続き彼を精一杯警戒して、少なくともベルさんには近づかせないようにすることくらいなんだろうな。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「でも君、最初からロイのことを警戒してたよな」

「……まあ、そうだね」

　あっ、これもしかしたら面倒な話になる流れ？ケネスくん、「何で彼が怪しいと思ったのか」ってことを追及してくるのかな。

「女の勘ってやつ？…まあ、いずれにしてもやっぱりすごいやつだよ、エリカは。ますます気に入っちゃった」

「…そう」

　意外とそうでもなかった。理由を聞かれても答えようがなかったから助かったけど…。でもなんでそんな理由でますます気に入っちゃうの？

「はぁ、素っ気ないな、相変わらず」

「…ごめんね」

「まあ、しょうがない。なんとか振り向いてもらえるようにこれからも頑張りますよ」

　いや、そこは頑張らなくても良いところだぞ。

　それからケネスくんと少し他愛もないお話をしてから別れたんだけど…。どうやら彼、お姉ちゃんに好意を持たれているみたい。

　最近お姉ちゃんと仲良さそうじゃんって言ってみたらすごい微妙な顔をして「なんか気に入られちゃって」という返事をしてきた。

　だから私は「もしお姉ちゃんのことが好きになったら、私に気を使う必要は全くないからね」と特に何も考えずに本音を伝えたんだけど…。

　その言葉を聞いたケネスくんはさらに微妙な顔になって深いため息をついていた。

　そして彼と別れて自室に戻ってからしばらくして、彼とのやり取りを思い出した私は自分の発言がケネスくんの気持ちに全く配慮していない軽率なものだったかもしれないことにやっと気がついた。

　…ごめんよ、ケネスくん。私、人生三周目で前よりはマシになったんだけど、元々がものすごいバカだから何も考えずに喋っちゃう悪いくせがまだ完全には直ってないんだ…。

　まあ、いずれにしてもケネスくんはロイとフォルセル侯爵の目的についてより詳しく調べるためにもう王都に帰っちゃうらしいから、彼がお姉ちゃんと結ばれることはなさそうだけどね。