32話(16-3話) 本音で話そうよ
ケネス視点です
「あなたのことが好きです。僕と付き合っていただけませんか」
こういう時は回りくどいことをしないで、ストレートに気持ちを伝えるのが一番。
ということで、俺はエリカの目を真っすぐ見つめながら、自分の気持ちを素直に彼女に伝えた。最初彼女に近づいた時とは違って、今の俺のエリカに対する好意に嘘や計算は一切ない。
…とは言え、完全にダメ元+ちゃんと自分の気持ちを伝えた上で諦めたいという意味合いが強かったけどね。
「ごめんなさい」
エリカからの返事は俺の予想通りのものだった。
「…理由を聞いても良いですか」
気がついたら俺は、そんな無意味な質問を彼女にぶつけていた。人が好きになることにも、好きにならないことにも理由なんかないのは知ってる。知ってるんだけど…。それでも聞かずにはいられなかった。
俺の質問に対してエリカは、今度は少し予想外の返事をしてきた。
「今は恋愛に興味がないんです。他にやらないといけないことがあるから」
「…他に好きな人がいるから、という理由ではなくて…ですか?」
うわ、ウザいな、俺。今の質問ウザいよ、ウザすぎるよ。俺に気を使って「恋愛に興味がない」って言ってくれただけなのかもしれないのにさ。
でもエリカは、俺のそんなウザい質問に対しても親切に答えてくれた。
「はい、今は恋愛自体に興味がないんです。他に好きな人がいるというわけではありません」
彼女が嘘をついているようには見えなかった。そして俺に対してマイナスの感情を抱いているようにも見えなかった。かといってプラスの感情を持ってくれている訳でもなさそうだけど。
そういうことなら、そろそろ本音で話そうか。君には他にも聞きたいことがあるしね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうなんだ…。…そっか。わかりました」
「…ごめんなさい」
「……あーあ、やっぱ断られちまったか。ま、こうなるとは思ってたけどさ」
俺の突然の変化にエリカは驚き、戸惑っている様子だった。でも俺は構わず話を続けた。
「君のことが好きなのは本当だけど、今日の大事な話というのはそれだけじゃない」
「…?」
「俺、こっちにきてからずっと君のこと観察してたんだけどさ…なんか違和感があるんだよね」
俺は自分が感じていた違和感を率直にエリカに伝えた。
まずはエリカの、自分の専属メイドであるイザベルに対する異常な接し方。最初は彼女がイザベルに恋愛感情でも抱いているのかと思ってたけど、よく見てみるとそれは少し違うように見えた。
だとするとなぜ、あんなにイザベルを特別扱いするのか。俺はその理由について納得できる結論を見出せなかった。
そして、そのイザベル以外の誰に対しても無関心なエリカが、例外的に興味を持っている相手がいた。その相手はリュミエール辺境伯領に騎士として駐屯しているロイ・メイウッド。
ロイは文句のつけようがない経歴や実力を持つエリート騎士で、それなのに大変気さくで人懐っこい性格だから誰からも好かれる男。しかもイケメン。
しかし、そんなロイへのエリカの「興味」は、決してポジティブな意味での「興味」ではなかった。
あまり顔には出さないけど、エリカはロイに対して強い警戒心と…もしかしたら敵意まで持っているように見えた。
そして最後の違和感は今言及した二人、つまりイザベルやロイと接している時、たまにエリカが何かを恐れているように見えることだった。
エリカの立場上、彼女がイザベルやロイを恐れる理由は全くないと言って良いのだけど…。なぜか二人と接している時のエリカは不安や恐怖を感じているような表情になることがあるんだよね。
…ということで。
「君は何を知っていて、何を恐れている?」
俺の話を黙って聞いていたエリカは、ものすごく驚いた顔をしていた。俺の自慢の観察力に感心してくれたのか。それとも「王都からやってきた大人しそうな顔の伯爵令息が実はヤバいストーカーだった」とでも思ってどん引きしてるのか。
幸いにもエリカの驚いた表情の理由は前者だったようで、エリカは俺の質問に丁寧に答えてくれた。
彼女の説明によると、常に魔物の脅威にさらされているといっても過言ではない状態のリュミエール領は、どのタイミングで突然魔物による大規模な侵攻を受けてもおかしくないとのことだった。…うん、確かにそうだね。
そして詳細は明かせないけどイザベルは強大な力を持っていて、リュミエール領の安全のためには彼女の存在が必要不可欠らしい。
で、イザベルの力に気づいているのはエリカだけで、イザベル本人が自分の力が公になることを望んでいないと。
そのイザベルが万が一リュミエール辺境伯領を離れるようなことがあったら大変なことになるので、エリカはイザベルがリュミエールの屋敷で楽しく働けるように全力を尽くしているとのことだった。
あと、ロイに関しては直感的に不気味さを感じているから警戒しているだけで、今のところ彼が何か悪さをしたという訳ではないらしい。
…なるほどねぇ。
「ふーん。…本当のことを全部言ってくれてはないけど、嘘もついてないって感じだね」
俺の率直な感想に対し、エリカは少し苦笑いを浮かべるだけだった。
「まあいいや。そういうことなら、俺が協力してあげるよ」
「協力?」
「そう。協力。イザベルのことに関しては俺にできることは何もないけど…。ロイの方はいろいろできることがあるからさ」
「…でもどうして?」
「なんで協力するのかって?…だって君、他に好きな人がいるから俺と付き合えないってわけじゃないんだろ?だったらまだ俺にはまだチャンスがあるってことじゃん。君のことが好きだって言葉、嘘じゃないからさ」
「……」
「俺が一途な男で、しかも頼りになるってところを見せてやるよ。これ以上しつこく付きまとっても意味なさそうだし、ここらへんで作戦変更ってこと」
「…そう。…わかりました。ではお言葉に甘えてお願いしようかな」
ということで、俺はエリカと裏の協力関係を構築することに成功した。
告白は予想通り、うまく行かなかったけど…。俺は転んでもただでは起きないタイプだからね。
まだ君のことを諦めるつもりはないし、最後まで恋人同士になれなかったとしても将来、君には俺の味方になってもらうよ。
だって、今の話を聞いただけで君が(失礼ながら)君の父君よりも遥かに「リュミエール辺境伯」という肩書に相応しい人間なのがよく分かったからさ。
まだ君のことを諦めるつもりはないし、最後まで恋人同士になれなかったとしても、君にはブクマと☆評価をつけてもらうよ。




