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31話(16-2話) 偽りの療養生活

ケネス視点です。16話~17話くらいの時期にあったお話です。

 俺がリュミエール領で療養生活を始めて数か月が経った。


 「療養生活」と言っても俺の体調は本当は療養が必要なレベルではないから、ぶっちゃけ偽りの療養生活である。俺に持病があること自体は嘘ではないけどね。


 俺がリュミエール辺境伯領にやってきた目的は他にあった。俺がリュミエール領にやってきた本当の理由…それは父から与えられたある任務の遂行だった。


 俺の父、ブライトン伯爵はかなりの野心家だった。その野心家の父は、辺境の実力者であるリュミエール家とのつながりを強化して自分の立場をより強固なものにするために息子の俺をリュミエール辺境伯領に派遣していた。


 父からの指示は、俺と同年代であるリュミエール家の姉妹のうち、より見込みがある方を「落としてこい」というものだった。


 ただし、姉妹どちらも見込みなしで、またリュミエール家自体も長く持ちそうにないと判断したら、その時点でリュミエール領を離れ王都に戻ってきても良いという裁量を与えてもらっていた。


 現在のリュミエール辺境伯に対する父の評価は「悪い人間ではないけど、はっきり言って無能」というもので、リュミエール家のような有力貴族の当主に相応しい人物とは言えないとのことだった。


 そして王都の権力争いには一切関わらないという中立の姿勢を今までずっと貫いてきたリュミエール家には敵はいないが味方もおらず、いくらでも付け入る隙がある現在のリュミエール辺境伯をいろんな意味で「狙っている」貴族が少なくないとのことだった。


 父は自分自身がその貴族の一人であることを否定しなかった。そして現在のリュミエール家の実情を探り、必要に応じてリュミエール家とのつながりを作るための「駒」として俺をリュミエール領に送り込むつもりであることも一切否定しなかった。


 実の息子である俺を単なる「駒」として利用しようとする父に対する怒りは……もちろん全くない。


 俺も父によく似た性格だからね。


 だから、俺は今回の件を「病弱というハンデがある俺のために父が用意してくれた活躍の場」と捉えているし、うまいことやってリュミエール家を飲み込んでやるくらいの意気込みを持ってこちらに来ている。


 父が親としての愛情もちゃんと注いでくれていることを俺は理解しているし、俺は自分のやり方でブライトン家に貢献してみせることでそんな父に恩返しをして…


 また父に対してアピールもしなければならない。健康で剣術の腕も立つ兄や弟に負けないくらい、俺も役に立つということをね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最初の数か月間、俺は静かにリュミエール家の姉妹を観察した。観察の結果、俺が「より見込みがある方」と判断したのは妹のエリカだった。


 少し前までは悪評しか聞かない娘だったんだけど、実際に会ってみると何らかの理由で性格が劇的に改善されたのか、それとも最初から悪評はその恵まれた外見に対する周りの嫉妬が原因で広まった事実無根のものだったのか、本人は文句のつけようがない素晴らしいご令嬢だった。


 姉のクラリスも悪くはなかったけど…。妹に比べるとやや地味な存在で、何よりも顔には出さないけど自分の妹に対して強烈な劣等感を抱いているように見えたのが「この子とはたぶん合わないな」と思った決定的な理由だった。


 …俺自身、健康な体を持つ兄弟たちに対してコンプレックスを持っているからね。だからもちろん彼女に共感する部分もあるけど、そのコンプレックスがいかにややこしいものかをよく知っているし、何よりも俺は彼女に対して少し同族嫌悪を感じていた。


 だからどちらかを選ぶとしたらエリカの方が妥当な選択だと思ったし、「姉妹のどちらかを選ぶ」という前提を抜きにしても、エリカはとても魅力的な少女だった。


 ということで、俺は早速エリカに狙いを定めて動き始めたんだけど…。


 そのエリカが難攻不落だった。「お高くとまっている」という嫌な感じではなく、対応は常に丁寧で親切なんだけど、俺に全く興味がないということは分かりやすく伝わってきた。というかおそらくそれを隠すつもりも一切なさそうだった。


 正直、俺はかなり容姿に恵まれていて、話術にも相当な自信を持っていたから、エリカが俺のアプローチに完全に無関心だったのは予想外だったんだけど…


 逆に燃えた。「絶対にこの女を振り向かせてやりたい」と思った。


 だからプライドが粉々になりながらもなんとかエリカに振り向いてもらうためにいろいろ頑張ってみたんだけど…。


 頑張ってみた感想は、どうやら無理っぽいというものだった。やっぱ彼女、俺に全く興味ないんだわ。というかそもそも男に興味がないのかもしれない。


 でもその時点で俺はもう、父からの指示とは関係なくエリカのことが好きになっていた。だから諦める前に一度正面から告白しておきたい。そう思った。それでダメならしょうがないと。その時は潔く諦めようと。


 ということで、俺は「大事な話がある」といってエリカを呼び出した。エリカは意外なことに「私もちょうどケネスくんと話がしたかった」といって呼び出しに快く応じてくれた。


 あれ?もしかしたら脈あり?


 …うん、たぶん違うんだろうね。

対応は常に丁寧で親切なんだけど、ブクマと☆評価に命をかけているということは分かりやすく伝わってきた。というかおそらくそれを隠すつもりも一切なさそうだった。

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