30話 再会
結局私たちは小屋で二泊することになってしまった。原因を作ったのはベルさん。
実は小屋での初日の夜、念願叶って私はベルさんに彼女のことを「ご主人様」と呼ぶように命令された。
もう死ぬほど興奮したし最高に嬉しかったけど、問題はベルさんが私と同じか、それ以上に興奮してしまったことだった。
私の「ご主人様」で完全にタガが外れてしまったベルさんは全く手が付けられない状態になってしまって…。結局その夜は一睡もさせてもらえず、私たちが眠りについたのは朝方だった。
その後、昼頃には目が覚めたけど、相当無理をさせられて完全に腰が抜けてしまった私はまともに歩くこともできなくなっていて、その状態が一日続いてしまった。
そんな私のあまりにも痛々しい姿を見てさすがに反省したのか、ベルさんは一日中申し訳なさそうな様子で私の面倒を見てくれた。そして次の夜は行為を自粛してくれた。
正直、体力も気力も回復できていない状態でまた激しく責められたら自分がどうなるかをちょっとだけ楽しみにしていた私が、ベルさんの自粛を少し残念に思ったのはここだけの秘密。
…いやどれだけドMなんだよ、私。
でもいつまでも誰のものかも分からない小屋に滞在し続けるわけにもいかないし、自粛してくれてよかったよ。冷静に考えるとね。
…のろけ話はこれくらいにして。
今回の追放劇?いや逃亡劇?に関して、私は自らの無能さを激しく悔やんで、自分自身を責めまくっていた。
だって、人生三周目なのに結局今回もロイにまんまとやられ、ベルさんをリュミエール領から排除しようとする彼の動きを阻止できなかった訳だからね。
ベルさんとロイが直接絡んでいないという事実だけで安心して、油断してたんだろうね、私。
過去の二回の経験から「ロイが何かを仕掛けてくるとしたら二年後」と勝手に思い込んでいたのも良くなかった。
あと、ベルさんとの毎日が幸せすぎて、他のことがすべておろそかになっていた事実も否定できないね。恋に溺れてまわりが見えなくなっていたって感じ。
…情けないな、私。やっぱりダメなやつはどんなに頑張ってもダメなのか。
ベルさんには「最初からロイが何かしかけてくるのを分かっていたのに何もできないポンコツでごめんなさい。私がもう少ししっかりしていればこんなことにならなかったし、これから二人で苦労することもなかったのに」と謝ったんだけど…。
ベルさんは「わたしはエリカさんが一緒にいてくれるならそれだけで十分です。エリカさんと一緒に苦労できることさえもわたしにとっては喜びなんです」と言いながら優しく微笑んでくれた。
…天使だな、この人。ベッドでは悪魔だけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ベルさんと相談した結果、私たちは東の国境を超えて隣国に逃げることにした。もうこの国にいるメリットが何もないからね。未練もないし。
これから自分の家族が破滅するのにそれを見捨てて自分だけ生き残ろうとするなんて薄情な女だなって思う人もいるかもしれないし、正直自分でもそう思うけど…。
私はベルさんと一緒に歩むこれからの人生を諦めたくなかった。
そして私は家族に何度も事実を伝えてベルさんを屋敷から追い出すのは誤った判断だと訴えたからね。
「私言ったからね?」という姿勢は無責任で幼稚なものかもしれないけど…。家族のために私にできることはしようと、最後まで頑張ったと自分では考えている。
それを受け入れてくれなかったのはうちの家族であって、それが彼らの選択。だからその選択の結果、何が起きてもそれは彼らの責任。
そもそも私なんかの力ではうちの家族を守ることはできないからね。私にできることがあるとしたら、こっそりグランフェルト山脈でのパトロールや魔物の駆逐を続けてくれるようにベルさんにお願いすることくらいなんだろうけど…。
そんなこと頼めるはずがないし、正直頼みたくもない。
だから、これから起きることは自分たちで何とかしてね。私はベルさんと一緒に生きる道を選びます。
…冷たい娘でごめんなさい。
「本当に全部売っちゃうんですか。やはりわたしがどこかで働いて…」
「売ります。これからの生活には必要ありませんから。どこかで働く暇があったら私にかまってください」
少し悲しそうな表情で再考を促すベルさんの声を、私は一蹴した。
私は自分が着ていたドレスと身につけていたアクセサリーをすべて売却して、旅に必要な資金を手に入れると宣言していた。
それに対してベルさんは「自分がどこかで働いて私がドレスやアクセサリーを売らなくても良いようにする」と訳の分からないことを何度も言ってきた。
いや、働く暇があるなら私にかまってよ。私を抱いてよ。私をいじめて。めちゃくちゃにして…!
……日に日にドMとして順調にレベルアップしているね、私。暴走しないように気をつけなきゃ。
私の特殊性癖の話はどうでも良いとして…私はベルさんの提案を却下して自分の持ち物のほとんどを売却し、その金で冒険者用の動きやすい洋服と剣、保存食、その他長旅のために必要と思われる物資を諸々購入した。
アクセサリーがかなりの高値で売れたため、これからの旅に必要と思われるものを一通り揃えた後もそれなりの金額が手元に残った。
というか二周目で剣術を頑張ってよかったよ。別に強いわけではないけど、盗賊や下級の魔物相手なら自分の身くらいは守れるはず。
…もし戦闘になったら私が剣を抜く暇もなく、ベルさんがメリッサさんやデスナイトの皆さんを呼び出して一瞬で終わらせるんだろうけどね。
ちなみにベルさんは申し訳なさそうな顔をしながらも「エリカさんからもらったネックレスだけは売りたくありません。これはわたしにとって命と同じくらい大切なものですから」って言っていた。
私はそれがめちゃくちゃ嬉しかった。
もちろん売ってほしいとは全く思ってないから安心して。大事にしてくれてありがとう。
ということで、最初に泊まった小屋から近い町に数日間滞在し、長旅の準備を終えた私たちはいよいよ東に向かって出発したんだけど…。
町を少し外れたところに明らかに場違いの豪華な馬車が停まっていて、私たちがその馬車を通り過ぎようとした瞬間、まるで私たちを待ち構えていたかのように馬車から人が降りてきた。
「お久しぶりです」
眩しい笑みを浮かべて馬車の中から現れたのは、ケネス・ブライトン伯爵令息だった。
読者様からのブクマと☆5で完全にタガが外れてしまった作者は全く手が付けられない状態になってしまって…。




