29話 告白
結論から言うと、ベルさんが言っていた「どんなに謝っても許してもらえないこと」は全然許せない内容ではなかった。もっと言うと謝罪の必要があるものでもなかった。
…というかベルさんがどんなに酷いことをしたとしてもきっと私は許しちゃうから、ベルさんが私に「許してもらえないこと」なんてそもそも存在しないんだけどね。
ベルさんは私の意思を確認せず、強引に私を屋敷から連れ出したことを申し訳なく思っているとのことだった。
自分のせいで私は家族と無理やり引き離され、私の意思と関係なく貴族としての生活も奪われることになってしまったと。
そしてそれはすべてベルさんが自分の気持ちだけを優先して行動した結果だから、私にどんなに謝っても許されないことをしたと思っていると。
「でもわたし、もうエリカさんがいない世界は想像できないんです。エリカさんがいないと本気で生きていけないんです!だから…たとえエリカさんに恨まれるとしても、エリカさんを残して一人で屋敷を去ることはわたしにはできませんでした」
「……ベルさん」
「選択の余地を残してないくせにこんなことを言うのは間違ってるって分かってます。でもどうか…どうかお願いします、エリカさん。わたしと一緒に生きていく道を、選んでいただけませ…!?」
目に涙を溜めながら必死に自分の気持ちを訴えていたベルさんが、いよいよ涙を流し始めてしまった。それを見た私はもうベルさんの話を最後まで聞いてあげることができなくなって、ベルさんの話の途中で強引に彼女を抱きしめた。
「泣かないで」
「……」
「連れ出してくれてありがとう。私もベルさんのいない世界なんて考えられませんから。もちろん私は、ベルさんと一緒に生きる道を選びます」
私の言葉を聞いたベルさんは、泣き止んではくれなかった。というか逆に号泣してしまった。
そして涙を流しながらベルさんは、何度も私に感謝の言葉を述べるとともに、私がベルさんと一緒に生きる道を選ぶことによって、貴族としての身分も豪華な生活もすべて奪われる結果になってしまうことを改めて謝罪してきた。
そんなこと気にしなくてもいいのに。ベルさんと一緒にいられるならどんな身分、どんな生活でも私は幸せだから。
あと、ベルさんがいなくなった時点でリュミエール家はもう終わりなんだから、仮に屋敷に残ったとしても貴族としての生活は近い将来、終了したはずだしね。
というか貴族の身分と生活だけじゃなく、きっと命まで奪われてたんだろうね。もしあのままリュミエールの屋敷に残っていたら。
…
……
……ちょうど良い機会だし、話しちゃおうか。信じてもらえないかもしれないけど、もうベルさんに隠し事はしたくないしね。
私、過去の人生の記憶を利用してネクロマンサーの素質を持つという、きっとベルさんが誰にも知られたくなかったはずの秘密を強引に突き止めたわけだし、どんなに非現実的なものだとしても自分の秘密だけ黙ったままにしておくのは卑怯だよね。
そう考えた私は、少し落ち着きを取り戻したベルさんの目を真っすぐ見つめ、真剣な顔で話をはじめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「実はね、ベルさんがいなくなった時点でうちはもう終わりなんですよ。これ比喩とかじゃなくて、本当にリュミエール家はこれから崩壊するんです。間違いなく」
「……」
「なので、私を屋敷から連れ出してくれたことで、ベルさんは私の命を助けてくれたことになるんです。だから少しも申し訳ないと思わないで」
予想通り、ベルさんは私の言葉の意味がよく分からないという顔をしていた。きっと自分がいなくなったことでリュミエール家が終わると私が断言した理由が理解できないんだろうね。
「今から私がする話、きっと信じられないと思うんですけど…」
そんなベルさんの顔を引き続き真剣な目で見つめながら、私は今まで誰にも言ったことがない自分の秘密を彼女に打ち明けた。
自分が人生三周目であること。過去の二回はいずれも18歳で命を落としていて、命を落とす度に記憶を持ったままベルさんと出会う直前の13歳の誕生日に戻っていること。
過去の2回の人生における自分の死因についても隠すことなくベルさんにすべて話した。
ベルさんは私の突拍子もない話にずっと驚きっぱなしの様子だったけど、特に私の一周目の人生を終わらせたのがベルさん自身であることを聞いた時は驚愕しすぎたのか、目を見開いて口も大きく開けた、ちょっとだらしない顔になっていた。
…そんな顔も綺麗だけどね。
「いつかは言おうと思ってましたし、もうベルさんに隠し事は一切したくないのでお伝えしました。でも簡単には信じられない話なんだろうなって自分でも思ってるので、聞き流して笑い飛ばしてくれてもいいですよ」
笑いながらそう伝える私に対し、ベルさんは真剣な顔で一言「信じます」と言ってくれた。
そして次の瞬間少し寂しそうな表情になって、初対面から私がベルさんに異常に優しかった理由が今までよく分からなかったけど、今の話でようやく理解できたと呟いていた。
…っ!?
「違うんです!誤解ですよ!確かに最初ベルさんに優しくしたのは自分が生き残るためでした。でも途中からは純粋にベルさんに対する好意と愛情だったよ!お願い、信じて…!」
慌てて大声を出しながらベルさんにしがみつこうとする私の姿を見た彼女は…。
「…ぷっ、ふふ。ごめんなさい。ちょっとからかっちゃいました」
「…!?」
「大丈夫。ちゃんと分かってますし、信じてます。あと、最初エリカさんがわたしに優しくしてくれた理由は正直なんでもいいの。エリカさんの優しさでわたしが救われたのは間違いない事実ですから」
……もう!!
私は照れ隠しを兼ねて、ベルさんの胸に飛び込むような形で彼女に抱きついた。ベルさんはそんな私を受け止め、強く抱きしめてくれた。
そしてしばらくして、ベルさんは左手で私の顔を軽く押さえ、右手の指で私の唇を優しくなぞりながらどこか意地悪な表情で私に声をかけてきた。
「…でも前世のエリカさんは、わたしのことをずーっといじめてたんですか?」
それだけで全身の力が抜けてしまう私。
「…はい。ごめんなさい」
「ダメじゃん、可哀想なメイドにひどいことしちゃ。そんなエリカにはお仕置きが必要…だね?」
そう言いながらサディスティックに微笑むベルさんの顔は、信じられないほど妖艶だった。
「はい…お願いします…」
こうなったらもう私に拒否権はない。ただベルさんに身を任せてベルさんの気が済むまで遊んでいただくだけ…。もちろん、拒否権があったとしても絶対に行使しないけどね。
たぶん今の私、トロンとした目をしてるんだろうな…。
「実はね、ブクマと☆評価をもらえなくなった時点で作者のメンタルはもう終わりなんですよ。これ比喩とかじゃなくて、本当にそうなったら作者のメンタルは崩壊するんです。間違いなく」
「……」
「なので、ブクマと☆5をつけてくれたことで、読者様は作者の命を助けてくれたことになるんです」




