25話 人生四周目に入っちゃう…
(…どうしてこんなことになっちゃったんだろう)
薄れていく意識の中で、私はぼんやりとそんなことを考えていた。本当、なんでこんなことになっちゃったんだろう。どこをどう間違えたんだろう。
というかこれ、無理じゃない?…うん、無理だ。私、また死んじゃうのかも。こんな理由で三度目の人生が終わるとは思わなかったな。
今度こそ長生きしたくて毎日努力してきた結果がこれだなんてあんまりだよ。私、今回は本当に頑張ったのに。ひどい、ひどすぎる…!
先ほどから私の懇願を無視して容赦なく私を追い詰めている相手に私の心の叫びが届くはずもなく、彼女は嬉々として私にトドメを刺してきた。
(…ッ!!)
その瞬間、私の視界は一度真っ白になってから徐々に暗転し、やがて私は意識を手放してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めた瞬間、私の視界に入ってきたのは、子供を慈しむような表情で自分の顔を見つめている黒髪の綺麗なお姉さんの姿だった。
どうやら私は彼女に抱きしめられた状態で一瞬気を失っていたらしく、彼女は生まれたての小動物を扱うような優しい手つきで私の頭を撫でてくれていた。
…ということは、私はまだ生きてるんだね。
また13歳に戻って四周目に人生に突入したんじゃなくて、先日16歳になったばかりの三周目のエリカ・リュミエールなんだね。
「おはようございます、エリカさん」
「……」
少し気まずそうな表情になって、私の顔色をうかがうような様子で謎の挨拶をしてきたベルさんの声をあえて無視し、私はプイっとそっぽを向いた。
「あ、あれ?もしかして怒ってます?」
「……」
「…ごめんなさい、エリカさん。許してください」
口では謝ってるけど、あまり申し訳なさそうじゃない、この人。なんか目が笑ってるし。…こっちは死ぬかと思ったのに!
「私、何度ももう無理って言いましたよね?」
「…はい」
「お願いだからやめてって、少しだけ休ませてって必死になってお願いしましたよね?懇願しましたよね?」
「……はい」
「…どうして無視したんですか」
「ごめんなさい、エリカさんがあまりにも可愛くてつい」
「…可愛いって言っておけばすぐに私の機嫌が直るとでも思ってるんですか!?」
と言いながらも私は、ベルさんの「可愛い」の一言で自分の言葉のトゲがだいぶ取れてしまったことを自分でも感じていた。きっとベルさんにも伝わってるんだろうな。
「そんなことないですよ。…ごめんね?次からはちゃんと気をつけますから、どうか許してください。機嫌直して…?」
「……別に怒ってはないんですけど」
…いやチョロい!いくらなんでもチョロすぎるよ、私…。「機嫌直して」のセリフと同時にベルさんに後ろからギュッと抱きしめられたことで、私はあっという間に陥落してしまった。
「でも本当にさ、次からはもう少し手加減してくださいね。私、本当に死ぬかと思ったからね。一瞬でも意識が飛んでるってことは、そのまま心臓発作かなんかで死んじゃうかもしれないってことだよ?危険なんだよ?」
「ごめんね。でも気持ちよかったでしょう?」
「……」
「…うそうそ、ごめんなさい。気をつけます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ベルさんと恋人同士になって数か月。私たちは最高に幸せな毎日を送っていた。
恋人同士になってからのベルさんの愛情表現は予想をはるかに超える過激なもので、私は自分が思っていた以上にベルさんの私に対する気持ちが大きくて強いものであったことを毎日実感していた。
そんなベルさんに対する私の愛情も日増しに深まり、もう私はベルさんなしでは生きていけないくらい彼女のことが大好きになっていた。
そして、あらゆる意味で私とベルさんの相性は完璧だった。
たとえば、先ほどの会話の原因にもなった体の相性。最初はお互いの身分や、私の方から告白したということもあって私の方が主導権を握っていたけど、何度か肌を重ねているうちに私とベルさんの役割は簡単に逆転してしまった。
そして今までは自分でも分かってなかったけど、どうやら私は相当なドMだったようで、今の私はベルさんの前では完璧に従順なネコである。
そんな私は、みんなの前では「お嬢様」、二人きりの時は「エリカさん」と私を呼んでいるベルさんがその気になって、私のことを「エリカ」と呼び捨てにしてくれる瞬間がたまらなく好きだった。
もう本当に好き。その瞬間のために生きていると言っても過言ではないくらい。
私の方はどうかというと、今はまだベッドでも彼女のことを「ベルさん」と呼んでいるけど、できればいつか彼女のことを「ご主人様」と呼んでみたいなと思っていたりする。
でもね、自分から呼びたくはないんだよね。こう…なんていうか、盛り上がっていく中で自然な形でベルさんに「ご主人様と呼びなさい」と言われたい。命令されたい。強制されたい。
そしてその後、いつものくせで「ベルさん」と口走ってしまった私がベルさんから厳しい罰を受けてしまうところまでが理想的な流れ。
最高じゃない?表面的には気高いお嬢様と従順なメイドの関係のように見える二人。でもそんな二人には誰も知らない秘密があって…。
実は恋人同士でもある二人は夜になると完全に立場が逆転して、夜のお嬢様はメイドの所有物。物欲しそうな顔でメイドのことをご主人様と呼び、メイドに可愛がってもらうことしか考えられない哀れな愛の奴隷なのであった。
……うん、最高だよね。間違いなく最高だよ。異論は認めない。
ちなみに夜のベルさんは、普段の従順で健気なメイドの姿からは想像もできないほどのドSタチだった。
もちろん私に合わせてくれているだけという可能性もゼロではないけど、ベルさんの豊富すぎる責めのパターンとプレイ中の容赦のなさ、そして私を追い詰めている時の心底楽しそうな表情を見る限り、その可能性は低いと思う。
だからやっぱり、ベルさんと私の相性は最高なんよね。
はああああ…さっきはあんなこと言っちゃったけど、本当は私、ベルさんの気が済むまで毎晩徹底的にいじめてほしい。何なら一周目と二周目のエリカちゃんの行動に対するお仕置きもぜひベッドでお願いしたい…!
もっと容赦なく私のことを追い込んで、痛みや苦しみを伴うプレイも少しも遠慮なんかしないで常に本気でやってほしい。だってベルさんが与えてくれるものなら私、何でも…!
……ヤバい、なんか妄想が止まらなくなっちゃった。
ま、まあ、結局私が言いたかったことはね、ベルさんと私はあらゆる意味で相性最高で、もう毎日が幸せで幸せで仕方がないってこと!
「あらゆる意味で」という割には体の相性しか言ってないじゃんって思うかもしれないけど、そこはあれだよ。体以外の相性がすべて最高なのは付き合う前から分かっていたことだから、今さら説明する必要もないってこと。
思い切って告白してよかった。ベルさんと恋人同士の関係になれて本当によかった。
同性の彼女とこれからもずっと一緒にいるために何をどうすべきかはこれから考えないといけないけど、とにかく今はこの最高の毎日を楽しもう…!
「…ブクマと☆5をつけておけばすぐに私の機嫌が直るとでも思ってるんですか!?」
→ はい、直ります。たとえば、どなたかが私を二回くらい刺した後に「ブクマと☆5つけといたから許して」と言われたら普通に許します。




