24話 結論を出しました
最近、私は一人で考え事をすることが多くなった。何を考えているかというと、もちろんベルさんのこと。もっと具体的に言うと、自分のベルさんへの気持ちに関する自問自答。
きっかけはたぶん、ベルさんが少し体調を崩したことだと思う。
ベルさんから不調の理由を聞いて私、心から思ったんだよね。ベルさん一人に魔物の駆逐を任せているのが申し訳なくて仕方がないって。彼女がこれ以上無理をして体調を崩したりしないように私にできることは何でもしてあげたいって。
そこに「自分が生き残るためにベルさんに優しくしなければ」という計算は少しもなかった。
あったのは純粋にベルさんのことが心配で、ベルさんに無理をして欲しくないという気持ちだけ。
だから私は、少し前から考えていた「自分がベルさんのことをどう思っているのか」という問いに対してそろそろ結論を出せるかもしれないなと思って、毎日自問自答をしていた。
まず一つ確実なのは、私はすでに「自分が生き残るためだけにベルさんに媚びを売っている」状態ではないということだった。
ほぼ毎日、朝から晩まで一緒に過ごしていて、ずっと良好な関係だった訳だから当たり前と言えば当たり前だけど、今の私は間違いなくベルさんのことが大好きで、彼女のことを大切に思っていた。
問題は私のベルさんに対する好意が恋愛感情なのか、それとも親友や家族のような存在に対する親愛の気持ちなのかというところで、その問いに対する結論がなかなか出なくて時間がかかっちゃってた訳なんだけど…。
よくよく考えて出した結論は、おそらく私のベルさんに対する好意は恋愛感情だということだった。
…そう。いつからかは分からないけど、私は間違いなくベルさんのことを恋愛対象として見ていた。
いつの間にか私のベルさんに対する優しさや配慮の理由は「ベルさんのお気に入りの存在になって自分が生き残るため」ではなく、「大好きなベルさんに喜んでもらいたいから」というものになっていた。
ロイに対する強い警戒の理由にも、気がついたら「ロイが将来、自分自身やリュミエール家に害を及ぼす可能性が高いから」というものだけでなく、「ロイが今回もまたベルさんを傷つけるかもしれないから」というものが含まれるようになっていた。
客観的にみて十分すぎるほど魅力的な相手だったケネスくんのアプローチに少しも興味が持てなかったのも、私の頭の中がすでにベルさんのことでいっぱいだったからだと思う。
そして同性のベルさんが自分に対して恋愛感情を抱いているかもしれないことに気づいた時も、私はそれに対して少しもネガティブな気持ちになることはなく、逆に好きになってもらえて嬉しいなと思っていた。
…とまあ、ここまでいろんな理屈を並べたけど、正直にいうと、私が自分のベルさんに対する好意が「友人や家族に対する親愛」ではないと確信した理由はよりシンプルで、また本能的なものだった。
毎日のように熱っぽい視線で私のことを見つめてくるベルさん。そんなベルさんと、たとえばキスやそれ以上のことができるか、そしてしたいかという問いに対する答えが、明確にYesだったから。
たぶん私は、男性も女性も恋愛対象として認識できるタイプの人間なんだと思う。両性愛者ってやつ。
一周目ではロイにベタ惚れだったし、二周目では「突如として剣術の面白さに目覚めると同時に、他人との関わりを極端に嫌がるようになったド変人のお嬢様」という設定を押し通そうとしてて恋愛には無関心だったから、その可能性は全く考えてなかったけどね。
そしてそんな私が今、夢中になっているのはベルさん。私は間違いなくベルさんのことが恋愛対象として好きなんだ。
だから、そろそろ行動しないとね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結論を出してからの私の行動は早かった。翌日にはベルさんに「大事な話がある」と伝え、今、私たちは二人で屋敷の近くにある見晴らしの良い丘に来ている。
「私、ここの景色がすごく好きなんですよね」
「…はい、とても素敵な場所だと思います」
二人で屋敷を見下ろしながら、私たちはいつものように他愛のない話をしていた。でもそんな私たちの間にはどこかピリッとした緊張感があった。
…当たり前だよね。私、今ものすごく緊張しているし、たぶんベルさんも大事な話って何だろうって思って身構えているんだろうから。
私は、自惚れじゃなければベルさんも私と同じ気持ちでいてくれてるはずと考えていた。いや正直、確信していた。
でもベルさんの立場上、ベルさんから私に気持ちを告白して、交際を申し込むことはちょっと難しいだろうなとも思っていた。
だとすると二人の関係を進展させることができるのは私だけ。そして二周目の人生の経験から、できることをやらないで後悔はしたくないと常に考えている私は、早速自分からベルさんに気持ちを伝えることにした。
「えっと…そろそろ本題なんですけど」
「…はい」
「私、ベルさんのことが好きです」
「……」
言葉を失ったのか、それとも今の言葉だけでは私の真意が伝わっていないのか、ベルさんは少し驚いた顔で無言になってしまった。構わず話を続ける私。
「友人として、家族のような存在として好きという意味じゃないですよ。恋愛対象として、ベルさんのことが好きです」
「……!」
「だから、もしよかったら、私と付き合っていただけませんか」
「……」
…
……
……あ、あれ?ベルさん、無言?というか無反応…?
もしかして「ベルさんも私と同じ気持ちでいてくれてるはず」というのは私のいつもの自惚れで、勘違いだった…?
突然同性の主人に「あなたを恋愛対象として見ていたよ」と告白されて、どう反応したら良いか分からず困っているメイドさんというパターン…?
だとしたら恥ずかしすぎて割と今すぐ死にたいんだけど。もう三周目はここで終了でいいかも。
…いや、今はそんなこと言って現実逃避しちゃダメだね。とりあえずこの状況を何とかしないと。
「…あの、もしダメでしたら遠慮なく断っていただいても大丈夫ですよ。ベルさんが断ったことを理由に私が何か報復をしたり、私たちの関係が変わったりすることは絶対にありませんから」
「……!」
「でももしそうなっても、できれば私のことを避けたりしないで、今までと同じようにそばに居てくれると嬉しいかな」
少し目を見開いた状態でずっと無言だったベルさんは、私のその言葉で我に返ったのか、慌てた様子で返事をしてくれた。
「ご、ごめんなさい!あ、ああっ!いや、そういう意味のごめんなさいじゃなくて…!もちろんです。もちろんわたしでよければ喜んで!」
「…いいの?」
「はい、もちろんです。ダメな訳がないです。あまりにも夢のような話で、現実とは思えなかっただけなんです。ぜひお願いします!」
「…ふふ、よかった。でも少し落ち着いて?」
「いや、落ち着けないですよ!まだ現実かどうかもわから…ッ!?」
――ちゅ
本人の言葉通り、全く落ち着けない様子で早口で喋り続けようとするベルさんを、私は少し強引な方法で黙らせてみた。
そして私の不意打ちを全く予想できていなかったのか、ベルさんはまたしても目を見開いて固まってしまっていた。
ふふ、可愛いな♡
今日から毎日、たくさん可愛がってあげるからね。
これからも末永く、よろしくね。
よくよく考えて出した結論は、☆5をくださる読者様への私の好意はおそらく恋愛感情だということだった。




