22話 平和な日々が戻ってきたけど…
イザベル視点です
わたしとエリカさんに平和な日常が戻った。
いや、今までもエリカさんとの日常はいつだって平和だったから、わたしが心の平穏を取り戻したというのがより正しい表現かもしれない。
理由はいろいろある。まずブライトン伯爵令息が王都に帰って行った。…よかった。死にたくなければ二度と戻って来ないでね!
…うん、こういうことを言っちゃいけないね。反省します。
そして一時期わたしにやたらと絡んできていたメイウッドさんもわたしのぶっきらぼうな態度に嫌気が差したのか、わたしに無駄に声をかけてくるのをやめてくれた。
というか、よく考えたらメイウッドさんも確か伯爵令息だったね。でも彼はなんか「伯爵令息」って感じじゃないんだよね。「メイウッドさん」の方がしっくりくる。どうでもいいけど。
わたしの睡眠不足の原因となっていた突然の魔物の大量発生も、二週間程度で落ち着いて現在は前と変わらない状況になっていた。
前と変わらないというか、最近は前よりも魔物が減ってきたらしい。メリッサがちょっとつまらなそうにしてる。
ということで、すべてが元通りの平和な状態になった訳なんだけど…。
唯一問題があるとすれば、それはわたしの心の状態だった。
つい先ほど「心の平穏を取り戻した」と言ったけど、それはあくまでも嫉妬に狂ったり、劣等感にとらわれたりすることがなくなったという意味。
でも最近は新しい問題が発生しちゃってるから、厳密に言うとわたしの心はまだ「平穏な状態」にはなっていないと言うべきかもしれない。話がコロコロ変わって申し訳ない。
…最近発生した新しい問題。それはわたしのエリカさんに対する愛情や好意が暴走しそうで怖いというものだった。
わたし、やろうと思えば力尽くでいろいろできちゃう危険人物だから…。自分がコントロールできなくなって、エリカさんに迷惑をかけることにならないか不安なんだよね。
最近はわたし、エリカさんの意思を無視してでも彼女を掻っ攫って、誰にも邪魔されない遠い国へ逃げたいと思っちゃうことが結構頻繁にあって…。
それがわたしの場合、やろうと思えば簡単にできちゃうんだよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「自分が怖い」というもの以外にも心の問題はあった。それは最近、わたしが少し自己嫌悪に陥っているということ。
自己嫌悪の理由は、わたしにとって女神様や天使のような神聖な存在であるはずのエリカさんのことを、いつの間にか自分が常に性的な目で見ていて、ぶっちゃけ欲情しまくっていることだった。
エリカさんが寝ている部屋で毎晩メリッサに会っていた時期なんかは、メリッサに「今すぐ襲っちゃいなよ」とそそのかされ、正直何度もエリカさんが寝ているベッドのすぐ近くまで忍び寄っていた。
最後の最後になんとか我に返って我慢できたけど、間違いなくその時のわたしはギラついた犯罪者の目をしていたと思う。
それからしばらくして、わたしの不調に気づいたエリカさんがわたしを強引にベッドに寝かせて、至近距離で真剣な目で話かけてきたんだよね。
「ねぇ、正直に言って?」
「…はい」
その瞬間、わたしはエリカさんの次のセリフは「ベルさんは、私のことを恋愛対象として見てるの?」ではないかなって勝手に思い込んで、正直期待しまくっていた。
えっ、いきなりベッドでその話しちゃうの?エリカさん大胆すぎない?まだ昼間ですよ?今からそういうことを始めちゃうんですか?
…もちろんいいですよ。わたし、まだ経験はありませんが、イメトレなら最近毎日しています。
喜んで、精一杯お相手させていただきますね。役割はどうしましょうか。わたしはエリカさんがお相手ならどちらでも…!
……という感じで、一人で盛り上がってたんだよね…。すぐにエリカさんはわたしの些細な異変に気づいて体調を心配してくれただけということが判明したけど。
真っ白な心を持つ純真無垢なエリカさんと、そんなエリカさんに常に欲情している煩悩まみれのわたし。…申し訳なくて死にたくなる。
でもね、これは仕方のないことだと思うんだ。わたしは17歳の恋する乙女。そんなわたしが四六時中好きな子と一緒にいて、しかもその好きな子はわたしにめちゃくちゃ優しい上に、わたしの前では常に無防備。
そりゃ欲情するよね。発情するよね。逆にちゃんと我慢できているだけえらいと思うんだ、わたし。褒めて褒めて!
…いつまで我慢できるか分からないけどね。
ということで、自分の気持ちの暴走を恐れたり、自己嫌悪に陥っては立ち直ったりしながら一人忙しく過ごしているわけだけど…。
いろんな葛藤がある中でも絶対にブレないのは、エリカさんに対する純粋な好意と愛情だった。
これだけは自信を持って言える。エリカさんはわたしの世界のすべてだよ。彼女はわたしの唯一の家族で、ご主人様で、親友で、恋人なんだ。
だからわたしはどうしても、どんな形であっても一生彼女のそばにいたいし、彼女のことを誰にも渡したくない。
でももちろんエリカさんのことを不幸にはしたくないから…。やっぱり何としてもエリカさんにもわたしのことを好きになってもらわないとね。
ということで、よし!今日も頑張ってアピールしていこう!
これだけは自信を持って言える。ブクマと☆評価はわたしの世界のすべてだよ。ブクマと☆評価をくださる読者様はわたしの唯一の家族で、ご主人様で、親友で、恋人なんだ。




