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王都のパン屋の看板娘が、国家を裏から統治する?! ~『英雄の末裔』の平凡末っ子娘、 “ 裏女王 ” 成長記~  作者: 野菜ばたけ
【第二章】第一節:気まぐれ兄との待ち合わせ

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第6話 『強欲』の思惑の欠片 ~カイン視点~


 ◆ ◆ ◆



「化けて出てやるーっ!」


 そんな捨て台詞を置いて去って行った妹に、俺は思わず大爆笑した。


「サラってば、本当に俺の笑いのツボを外さない」


 いつもながらに今回も見事に面白くて可愛い妹に、独り言のように最大の賛辞を贈る。



 しかし、どうやら妹のアホ可愛さは、室内に残されたもう一人の笑いの琴線には大きく触れなかったらしい。


「本当の事を言わなくてよかったのですか?」


 クシーからそう尋ねられ、俺は「ん?」と振り返る。



 クシーは俺が拾った時から、元々あまり感情が表に出にくい女だった。

 特に外部の人間と俺が話をしているような場では頑なで、尚の事顔に表情が出なうなる。


 それでも他の目がなくなれば、少なからず表情も見えるというものだ。



 ――疑問あり、少し不満もあり、っていうところかな。

 となると、彼女の不満は文脈的に「あの言い方じゃあ、俺が自分本位かサラに『裏女王』という立場を押し付けたいがために、彼女を呼んだように思われてしまうかもしれない」というところだろう。


 そんなふうに彼女の内心に大体の当たりを付ける。



 一件冷たそうに見えて、クシーは結構自分が大切にしているものへの執着が強い。

 どこか完璧主義的で、自分が大切なものが誰かに悪し様に言われる事が許せず、害される事を許容しない。


 まぁ、だからこそ俺の右腕に足り得る訳だけど、その頑なさは時に悪く作用する事もある。

 俺の意に反して、俺のために行動する事があり得てしまう。


 彼女がそんな《《誤作動》》を起こさないように、操り手である俺は定期的にメンテナンスを施しておく必要に駆られる。

 それが正に今だなと感じた俺は、俺は肩をすくめて小さく笑う。


「俺はね、クシー。目的が滞りなく果たせればそれでいい。自分が周りにどう思われようともね」


 自分が今最もやりたいと思っている事。

 最優先にしたいものを、こうして断言する。


 彼女の行動指針を、より具体的に提示する。


「相手が妹君でも、ですか」

「まぁそりゃあ嫌われないに越した事はないし、嫌われたら少しは寂しいかもしれないけど」


 言いながら内心で「実際に、そんな事にもならないだろう。あの子は兄妹内で、一番優しい子だから。誰かを根本から嫌うなんて事、できないよ」と思ったけど、敢えて口に出すような事でもない。


 それに、それでも尚何か想定外があってサラに嫌われるような未来が見えたとしても、俺はやっぱりやり方を変えはしないだろう。


「俺は欲張りだから、一番欲しい物が、一番欲しい。自分が『一番いい』と思ったものが俺の中で覆る事は滅多な事じゃああり得ないし、それに手を伸ばす事も諦められない。それを得るために俺が悪役になる必要があるなら、別に構わないよ。それが俺の望む未来だ。どう? 納得できた?」

「カイン様がそう望むなら」

「その顔と声じゃあ、まだ完全には納得できていなさそうだね」


 若干むくれてしまったクシーがいつもより随分と幼く見えて、俺は思わず笑ってしまう。


「お前もサラと同い年なんだから、もうちょっと子どもらしくてもいいんだけどね」


 緊急性を要する時に聞き訳がないのは困るけど、こういう時くらいは別に納得できないなら、「納得できない」と言ってもいいのに。

 そういう意味で言った言葉は、どうやら彼女に別の意味として受け取られたらしい。


「私はちゃんと大人です。そうして私との間に『子どもだから』って線、引かないでください」

「そんなつもりはなかったけど」


 でもそうか、とも思う。

 たしかに子ども扱いする事は、事実として子どもである事を気にしているクシーからすれば、突き放しや仲間外れに近しいものに思えるのかもしれない。


「さっきも言ったけど、俺は欲張りだから、自分にとって有用だと思ったものは《《それなりに》》大事にする質だ。右腕は、最悪なくても生きていけるけど、なければかなり不便になる。俺にとって『不便』は、結構ストレスだし嫌ではあるよ」


 いざとなれば、切り捨てる。

 それでも可能な限り長く傍に置けるように、それなりに目も掛ける。

 そのくらいの労力を割いてもいいと思うくらいには、彼女の事を気に入っている。


 前者は彼女が「俺についてきたい」と言ってきた時に伝えた言葉で、後者は王都に蔓延る闇を束ねると決めた時に彼女に伝えた言葉である。


 どちらも改めて言う必要性を感じないし、クシーだっておそらく覚えている言葉だ。


「今度こそ納得した?」


 尋ねれば、彼女はハァとため息を吐いた。


「私は最初から、『納得してない』とは言っていません」

「えー?」


 態度はそうだったけどなぁ、と言い返したが、返ってくる言葉はない。


 それでも彼女の顔を見れば、少し機嫌が戻っているようだったので、俺は「まぁいいか」と思う事にする。


「さぁて。サラの方は、相性のいい道具を見つけられたかな?」


 言いながらソファーから腰を上げると、予期していたようにクシーが出入口の扉を開けた。


「認識疎外の道具は少し癖があって、道具との相性がありますからね」

「失敗してるといいなぁ」

「そんな事言っていたら、本当に妹君に嫌われますよ?」

「えー?」


 サラはいつだって俺の期待に応えてくれる。

 今回も期待に応えて想定以上の物を見せてくれる事を、期待しながら部屋を後にしたのだった。




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