最終話.星の大鴉と翡翠の少女
十二月下旬。エスリア国ユートラント市は年の瀬に入り、慌しくも賑やかな雰囲気に包まれている。
終業式を終えて冬休みを迎えたサラとシルフィは学校からの帰り道で肩を並べて歩いていた。
「今日からしばらく特訓はお預けかな」
「そうね」
冬期休暇中は演習場の点検が行われるため利用不可となる。シルフィとサラにとって日常の一部となりつつあった放課後の特訓は冬休みが明けるまで休止の運びとなった。
当初、シルフィにとってサラと過ごす時間は「ユンド・トレイクの情報を引き出すための使命」であった。だが、いつしかサラとの交流はシルフィにとっても貴重なものになっていた。
シルフィが村を追われてから約七年。彼女は初めて日常の中に安寧を見出せるようになったのかもしれない。
「いつまでも、このままでいられたらいいのにね」
「……サラもそう思うわ」
サラは隣を歩くシルフィの手を取る。シルフィも僅かに力を込めて、友人の手を握り返した。過ぎ行く時を惜しむようにサラは身体を寄せた。
「シルフィは卒業したら、どうするの?」
「……どうなんだろう。考えたこともなかった」
シルフィは凍て雲を見上げて白い息を吐いた。
少女は荊の道を歩んできた。足元を踏みしめることに精いっぱいで、将来のことなど考えたこともなかった。五年後、十年後────生きていられるかさえ怪しいのだから。
少女の命を繋いでいるものは「生きる理由」という無形の信条のみ。
「サラは騎士になるんだったっけ」
「ええ。ゆくゆくは騎士団長として、この国の正義を牽引できるような存在になりたい。少し大げさな目標かしら?」
「ううん、立派な夢だよ。サラにはそれを叶える力もある」
言葉とは裏腹に、シルフィの声音には僅かな感傷が滲んだ。サラが騎士になるということは近い将来【星の大鴉】の【星】として衝突する可能性がある。
「ねえ、サラ。もしも私が悪いことをしていたら、サラは私を裁いてくれる?」
「異なことを言うのね。シルフィが悪事を働くなんて前提が間違っているから、その問いには答えられないわ」
「……そっか。ごめん、変なこと訊いた」
瞑目したシルフィは一層強く、サラの手を握りしめる。
離れないように、離さないように。
今は、手のひらから伝わる熱だけを感じていたかった。
◆
これより半月後、少女シルフィ・エリアルは外界深層へ赴くことになる。
討伐対象は水竜シドラ。
これより始まる竜と人の大戦は、人類史に多大な影響を及ぼす。
そして、遍く思想と思惑が交錯と衝突を繰り返し、世界は急激に動き出す。
その先に在るのは希望か、はたまた絶望か。
これは、かつて魔法が使えないからと故郷を追い出された少女が英雄として歴史に名を刻むまでの物語である。
ご愛読ありがとうございました。
一章部分は以上で完結となります。
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