42話
「ふふ。明日はミリアさん主催のお茶会ですね。ミリアさんには今後のことも踏まえ、さらに美しくなってもらう必要がありそうですね」
「もう十分すぎるほどメイクやマッサージでメンテナンスさせてもらっていると思いますが」
「日々の継続が大切ですからね。それに、今後はミリアさんの生活には誰かが専属として配属することになるでしょう。マッサージも毎日コースになるかと」
「えぇぇえぇええ⁉︎ 修業だった身から専属使用人になると、そんなに至れり尽くせりなんですか?」
「ふふふ……」
メメ様がにこやかに微笑む。
社交界が決まったあたりから、私の生活スタイルが著しく変化している。乗馬レッスンもそうだが、私がやってみたかったことが全て叶ってしまっているような気がするのだ。
「正式に使用人となると、今後仕事量も増えるのですか?」
「いえ、今までと全く一緒ですよ。むしろ少し軽減させたいくらいです」
「はい?」
「ミリアさんが優秀すぎるので、少しばかり頼ってしまい多く作業をやってもらっていたくらいです」
「全く気がつきませんでした……」
「それだけミリアさんの仕事の出来が良く、厳しい内容でも難なくこなしていたからでしょう」
アルバス伯爵邸で使用人をやっていたときの難易度がいかに高かったのかを理解できるような言われ方だった。
ある意味でだが、シャルネラ様にも感謝したほうが良いのかもしれない。厳しい環境を当たり前のように命令されていたおかげで、今は苦痛にも思わないし楽しく仕事ができるようになっているからだ。
もちろん、もう一度地獄の毎日をやれと言われたらお断りするけれども。
「逆にひとつだけミリアさんには仕事を除外するものもありますね」
「え⁉︎ なにかダメだったとか……」
「いえ、ミリアさんの出来がどうこうと言う問題ではなくてですね、大事なお方をリスクのある状況にしてはいけないという理由です。安易に外出はできません」
「そ、そんな……」
「我慢してください。メダルを授与され王族と対等な立場になったのですから、気安く街へ出かけてはなりません。当然のことですよ」
「は……はい」
こればかりはショックだった。
だが、これも私のことを心配してくださっているから言われていることだとはすぐに理解できた。
「もちろん、護衛や付添人同伴でしたら構いませんよ」
「良かった……」
「ですが、しばらくは外出自体を我慢してください。なるべく公爵邸から出ないように」
「どうしてですか?」
メメ様が言い淀む。
そういえば、前にもメメ様が言い淀むことがあったような。確か、乗馬レッスンという名目で、私とメメ様で食料の買い出しへ出かけて帰ってきたときだったかな。
あれ以来、乗馬レッスンは公爵邸の敷地内だけに限定されてしまっているし、外にすら出ていない。
「まだ確証が持てませんので、お話はできません」
「確証?」
「安全面を考慮してのことです」
メメ様が困っているようだし、今回もこれ以上は聞かないでおく。
王都と言っても、最近の治安はかなり悪くなっていると思う。もしかしたら、メメ様がこの前の買い物のとき、良くない光景でも見てしまったのかな。それで心配になって私を外へ出さないようにしてくれているのかもしれない。
でも、他の使用人たちは買い物へ出かけているではないか。とは言っても、前と違うのは五人体制で出かけている。少しだけ心配にもなってくるというものだ。
「せめて、明日のお茶会は楽しんでくださいね」
「は、はぁ……」
いったい王都でなにが起こっているのだろう。他の使用人たちのことも心配になってしまった。




