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4 勝ったな!

 やあ、良い子のみんな、こんにちは。

 突然異世界に転移させられた名無しの権兵衛お兄さんだよ。


 くくく。ふっふっふ。あーっはっはっはっは!


 おっと、驚かせてしまったかな?いきなり三段笑いなんてして悪かった。

 だが!それくらい今日の俺は一味違うのだよ!


 なんと!ついに!待望の戦闘系タレントを手に入れることができたのだ!

 しかも殴る蹴るの喧嘩殺法から剣や斧などの武器を用いた近接戦闘に始まり、槍などの長得物による中近距離戦もなんのその、更には昨日獲得したスチールボウなど遠距離攻撃手段にまで効果を及ぼす優れもの、その名も『戦いの申し子』を取得したのだ!


 まあ、ランクの方は安定のRだったんだけどさ……。


 それでもタレント効果はすさまじくて、戦い方に関する体の動かし方や武器を扱うための基本的な挙動といったものが、頭だけでなく体の中に染みわたっていくようだった。


 間に合わせで作った矢――ほとんど木の棒である――で試し撃ちしてみたところ、それまでは「びよん」という情けない音を残してへろへろと周囲のどこかに落下していたのだが、タレント取得以降は「ひゅん!」と小気味いい音に変わって狙った場所近辺へと飛んで行ったのだ


 これは……、努力するだけでは取得できない仕様にしているのも納得だわな。

 はっきり言って強力過ぎるのだ。こんなものにポコポコ覚醒されてしまってはゲームバランスならぬ世界のバランスが狂ってしまう。それくらいタレントの効果は絶大だった。


 実はこれ、発明の閃きを取得した時にも薄々感じてはいたのだ。

 しかしあちらは道具や設備、それに加工するための素材が揃わなければ本領を発揮できない部分があった。

 対して今回の戦いの申し子はこの身一つでまかなえてしまうので、より強く実感することになった、という訳だ。


 なにはともあれ、これでセーフティーゾーンの外に出るための要素は揃った。罠と矢の準備をすれば周辺に生息する魔物を狩るくらいできるに違いない!


 ……なんて夢を見ていた時期が俺にもありました。

 現実はこうだ。


「はあ、はあ……。へぶっ!?」


 ログハウスを中心とした開けた空間、セーフティーゾーンへと辿り着いたところで、転がるように地面へと倒れ組む俺。無事に安全地帯へと帰り着いたことで足がもつれてしまったのだ。

 いやいや、不甲斐ないと俺の足を責めないで貰いたい。何せここまで命からがら間近に迫った死の恐怖に震えながらも必死に動いてくれていたのだから。


「何だアレ、なんだあれ!?どうしてスタート地点のすぐそばにあんな怪獣どもが歩き回ってんだよ!無理ゲーか!?」


 野兎か出現してもせいぜいはぐれものの一匹狼くらいだろうと高をくくっていたのだが大間違いだったぜ。

 セーフティーゾーンを出てから体感で五分ほど歩いた所で遭遇したのは、ウサギでも狼でもなく猿の魔物だった。

 しかしその大きさが尋常ではなく、太い木の枝に腰かけている体勢でも俺の身長以上、二メートル近い大きさだったように思う。多分元の世界で言うところのゴリラくらいのサイズだったのではなかろうか。

 顔つきも冬場に猿団子を作って暖を取っているような愛嬌があるものではなく、厳つくふてぶてしい面構えだった。


「あいつ、絶対俺のことに気が付いていたよな……」


 チラリとだが間違いなくこちらに視線を向けていた。レベル一で脅威になるどころか取るに足らない相手だと見逃されたらしい。

 俺ですら圧倒的な力の差を感じたほどだったから、当然の反応だと言えるだろうな。

 

 しかもその直後、ゴリラ猿に勝るとも劣らない体格の虎っぽい魔物が現れたかと思えば、ガチンコで喧嘩を始めやがったし……。

 お互いを威嚇する咆哮を聞いただけなのに、すくみ上がりそうになってしまった。

 このままだとヤバいと慌てて逃げだしたが、正直帰り着くまで生きた心地がしなかった。もしも完全にすくみ上っていたら、今頃はあの二頭の戦いの余波で死んでいたかもしれない。


「人里離れた森の中とは聞いていたけど、ここまで酷いとは思わなかったぞ」


 GはやはりGだったということか。セーフティーゾーンの設定をしてくれた天使さんたち、本当にありがとう。これがなければ間違いなく初日でお陀仏となっていただろう。

 しかし、このまま引きこもってはいられない。主に食い物がなくなるという意味で。


「……今の時点で取れる方針は二つ、かな」


 一つはこのまま地道に訓練を積み重ねていくというものだ。時間はかかるだろうがその分ログボガチャのチャンスも増えるため、意外とすんなり倒せるようになるかもしれない。

 欠点は先にも挙げたように時間がかかることで、グ〇コ系セ〇ズが少なくなっていくにしたがって精神的に追い詰められる可能性もある。


 二つ目は賭けになる。俺のことを取るに足らないと油断していることを逆手にとって、サモンカードを使って倒してしまおうという作戦だ。ジャイアントキリングを達成できれば、一気に大幅レベルアップも夢ではないかもしれない。


 ただ、賭けという言葉を使ったように、その時にならなければどうなるのか分からないという点も多い。

 例えば、今日のところは見逃してもらえたが、次に会った時に同じように油断しているとは限らないこと。それ以前に運良く?遭遇できるかどうかすら怪しい。


 他にも、サモンカードを用いて魔物を倒したことでもレベルアップが可能なのか?という疑問もある。

 あれだけの巨体だから例え肉が食えたものでなくても皮に牙、爪に骨と利用できる部分は多いだろう。が、それもこれもきちんと解体ができればの話となる。

 発明の閃きの効果でそちら方面の知識はあるとはいえ、経験がある訳でもなければそうした技術を持っている訳でもない。時間がかかってしまうのは明らかで、森の中でそんな悠長なことをしていれば新たな魔物を呼び寄せてしまうことだろう。


 そうなると必然的にこのセーフティーゾーンの広場にまで仕留めた魔物を運んでくる必要があるのだが……。


 体長が軽く二メートルを超える魔物を運ぶ?

 どうやって?


 一番可能性があるのはレベルアップによって能力が上昇することなのだが、サモンカードの使用がレベルアップの対象外だった場合は、何の成果も得られず切り札の一つを失ってしまうことになってしまうのである。


 ちなみに、今の俺の身体能力では、それこそゲームのように大きさ重量関係なく仕舞い込めるアイテムボックスやインベントリのようなものでもなければ無理だからな。


「まあ、今すぐ決めなくちゃいけないことでもないか」


 と、今まで通り問題を先送りにする俺なのだった。


 ところがだ。そのツケが回ってくるのは意外にもすぐのことだった。

 翌日、なんとゴリラ猿がセーフティーエリアのすぐ外側をうろうろと歩き回っていたのだ!


 あ、本日分のログボガチャはR武器のシルバーワンドだったぜ。

 こちらの世界では銀は魔法との相性が良いとのことで、マジックアイテムや儀式の触媒などにも使われているらしい。

 シルバーワンドも魔法を使用する際に威力を若干強化してくれたり、消費するMP的なものをわずかだが少なくしてくれたりといった効果があるそうだ。やったね!


「かまどに火をつける種火がちょっとばかり大きくなったところで、ゴリラ猿が倒せるか!」


 圧倒的に火力不足である。幸いにも外にいる魔物からはセーフティーエリア内を見ることができなくなっているようで、俺の存在に気が付かれた様子はない。

 しかし、違和感はぬぐえないようで、立ち去る様子もない。


 うん?今なら一方的に攻撃できて、安全に魔物を倒すことができるのではないか?

 HAHAHA!俺がそれを試していないとでも?


 結論から言おう。そんなうまい話はなかった。チャンスだとばかりに矢を撃ち込んでみたのだが、セーフティーエリアの(ふち)に届く直前に不自然に地面へと落下してしまったのだった。


「うーん……。放っておいたら飽きて帰らないかな?」


 などと淡い期待を胸にゴリラ猿の様子を探ってみていたのだが、不可解な事象に好奇心を刺激されたのかそれとも不安を感じているのか諦める気配はなさそうだ。


「倒す、しかないかねえ……」


 今のところ単独で行動している時にしか遭遇していないが、すぐ近くにゴリラ猿たちの群れがいないとも限らない。

 総出で取り囲まれてしまったらセーフティーゾーンから出られなくなってしまう。


 それにしても自分の都合のために野生動物?を殺そうというのに、良心の呵責というか忌避感が全くないのも奇妙なところだ。

 もしかすると身体だけではなく心の方にもこの世界への適応化が行われたのだろうか。

 平和ボケとすら言われていた社会に生息していた身だから、そのくらいのことはしないと精神が保たないのかもしれない。

 だが、普遍的な倫理観まで薄れていきそうなのが不気味なところだ。


 さあ、覚悟は決まったことだし、始めようか。もっとも、いきなりゴリラ猿の正面に立つなんて自殺行為以外の何物でもない。

 よって、こっそりと少し離れた地点、できれば不意打ちが狙えそうな場所へとセーフティーゾーンを抜け出していく。

 そう。これは高度な戦略に基づく行動なのだ。決して俺がヘタレだとかそういうことではない。


 良しよし。上手く背後が取れた――


「ゴギャアアアア!」


 ダメでした。

 視線が通って奴の姿を確認できたと思った次の瞬間、ゴリラ猿が振り向いてこちらの居場所を突き止められてしまった。


「げっ!マジかよ!?サモンカード、蛟!」


 テンパりながらもそう叫ぶと、手にしていたサモンカードが光り目の前に巨大な蛇が現れた。

 でかい。テレビやネットのビックリ映像でしか見たことがないサイズだぞ。普通に遭遇していたら確実に死を覚悟することになっただろう。

 ゴリラ猿もですら俺への突撃を中止して立ちすくんでいた。


 さすがは龍の前身とでもいうべきか、その瞳には理知的な輝きが宿っていて、濃い碧色の鱗に包まれた姿は畏怖すら覚えるレベルだった。


「えっと、あのゴリラ猿?を倒していただけないでしょうか。どうかよろしくお願いします」


 思わず敬語で話しかけてしまう俺である。

 蛟、いや蛟さんに頼らなければこの場で死んでしまう公算が高いのだから、これはきっと当然の礼儀なのだ。決してへりくだっている訳ではない。

 当の蛟さんはというと、あたふたしている俺のことなど気にした様子もなく、チラリとゴリラ猿へと視線を向けた後、任せろと言わんばかりに頭を上下に揺らしたのだった。


 この時点でゴリラ猿の命運は尽きていた。いや、脇目も振らずに逃げ出していれば日和った俺が攻撃の中止を訴え出たかもしれない。

 しかし奴は戦うことを選んだ。逃げるどころか己の力を見せつけてやろうと、蛟さんに向かって一直線に突っ込んできたのだ。


 これが魔物の生態ゆえなのか、それとも蛟さんがそうなるように仕向けたことなのかは分からない。

 だが結果として、それがあいつの最後の行動となった。


「しゃっ!」


 蛟さんが口を開けて小さく声か音を発したと思った直後、どずべしゃー!とけたたましい騒音とともにゴリラ猿が地面にぶっ倒れたのだった。


「は?……え?マジで瞬殺っすか」


 この時、俺は無事にレベルアップすることができていたのだが、一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)に呆然としていたため、そのことに気が付くのはしばらく後になってからのこととなる。



〇今回のガチャ結果

六日目 ログボガチャ  18・30(R) 戦いの申し子

七日目 ログボガチャ  77・31(R) シルバーワンド



名前  : 

種族  : ヒューマン

レベル : 37

ギフト : ログボガチャ

タレント: R発明の閃き

      R戦いの申し子

スキル : R下級育成

      R下級罠師

武具  : スチールボウ×1

      シルバーロッド×1

カード : URクイーンフェアリー×1


R蛟×1は使用によりロスト。召喚した蛟が残っている?


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