それぞれの一番⑤
【主要登場人物】
リン・フォワード(主人公、男、白髪)
フィロ・ネリウス(獣人、女、黒髪)
ジェット・エーギル(傭兵、男、金髪)
オウル・P・マギー(ハッカー、男、青髪)
【サブ登場人物】
ドム(赤牛亭店主)
アイ(ドムの娘)
女性の素性は分からない。
お客さんの一人だろうか。
「あのう、すみません。そこは連れの席でして…」
「今はいないからいいじゃない」
そういうことではない気がする。
酔っぱらいではなさそうだが、絡まれると他の皆に迷惑がかかる。
「すぐ戻ってきますからそろそろ…」
「疑ってるわねぇ、まぁいいわ、ほら貴方も座って」
適当に話をして、相槌を打って、機嫌をとれば、元いた場所へ帰ってくれる、そう思った。
「少しだけですからね」
「受け入れてくれて嬉しいわ。私はカレン。カレン・クジョウよ。よろしくね」
「どうもクジョウさん」
「それだと他人みたいで悲しいわ。ファーストネームで大丈夫よ。あなたもね」
出会って数分しか経っていないのは他人ではないだろうか。
「そう、ですか。ではカレンさん、短い付き合いになりそうですが、よろしくお願いします。僕の名前はリン。数人で旅をしておりまして、疲れもあってそろそろ寝ようかと考えているのですが、どうでしょうか」
「ドムさんは追加の料理を持ってきてくれるんでしょう?なら私もいただこうかしら」
どこから見られていたのか。
僕の嘘は簡単に見破られた。
「音楽の話も聞きたいけど、それはお仲間さんにとっておいてね。代わりに私が面白い話を聞かせてあげる。きっとあなたは気に入るわ」
「それは何?」
彼女は椅子を引き寄せ、顔を近づける。
内緒話をするかのよう。
「貴方から見て左奥、髭面の男が数人の女性を囲って談笑しているでしょう。彼は、この先にある都市、陰都の大商人。関係を築くか否かは当人の判断だけど、私はお勧めしないわ。生理的に苦手なのよね」
陰都は次に行く都市だ。
12ある都市連合の1つ。
「右奥の覆面の女は他都市の諜報員よ。気をつけなさい」
覆面姿の人は頭からフードを被っている。
所作で判断した、もしくは直に会話したことがないと女性と断定するのは難しい。
「後ろで、今階段を降りてきている糸目の男、彼も都市で商売をしているわ。最近入都したばかりだけど、順調みたい。ただ髭面とは仕事仲は険悪と噂されているらしいわ。あ、ほら居心地悪いから帰るみたいよ。精算しているわ」
やたらと他人に詳しい。
何故彼女は、僕にわざわざそんな話をするのだろうか。
「話は以上ですか?」
「あら、つまらなかったかしら?」
意味深に、彼女はニコッと笑う。
「おうおうおう、俺が黄昏ている間に逢引とはやるじゃねぇかリン」
ガッシリと両肩を掴むジェット。
他の面々も戻ってきたようだ。
「おっ、カレン嬢じゃねーか。リンと仲良くなったのか?」
「はい、おがげ様で」
仲良くなってはいない、断じて。
「時間があるなら、この後は俺とどうだ?」
早速狙いを定めるジェット。
動きが早い。
確かに外見は綺麗清潔な女性だ。
靡かない男性は少ないだろう。
赤紫色の髪も艷やかだ。
「嬉しいお誘いですが、今日はここで御暇致します。都市に来てくれたら歓迎致しますわ」
くるりと反転して、彼女は宿を後にする。
皆の質問攻めからは逃れず、就寝は夜遅くとなった。




